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 明るかった部屋の中がふっと薄暗くなる。

 空中では、ミアのものでない黒い羽がふわりと舞った。


「やぁ、また上手くやったようだね」

「ジャスティン!」

 ミアよりも一回り大きな、そして艶やかな黒い羽を持つ男性が突如彼女の目の前に現れた。

 彼は黒い服に黒いコートと、いかにも悪魔らしい服装をしていた。

「ミア。君にはもじゃもじゃ頭の幸運の女神がついているようだね」

 ジャスティンが皮肉な笑いを浮かべる。

「お金ならそこよ、ジャスティン。今月分はあれで充分よね。っていうか、あの額なら来月分もあるはずよ!」


 ミアは、そばかすがいくつか散る色白の顔を真っ赤に染めながら、下に見えるテーブルを指した。

 ジャスティンは汚いものを見るかのような目つきでそれを一瞥すると、ふんと鼻をならした。


「造幣局にもそろそろ教えないといけないね。金が必要なのは人間だけじゃないってことを」


 ジャスティンが黒光りする羽を二度ほど動かすと机の上にあったアタッシュケースの蓋は閉じ、そして彼の腕の中へと来た。


「確かに来月の分まであるようだね、ミア。しかし、まだ充分ではない」


 そう言うとジャスティンは、初めて愉快そうな笑顔をミアに向けた。


「君のご両親が僕から借りた額にはまだ及ばない。それは分かっているね」


 その言葉にミアの口が真一文字になった。


「分かっているわ」

「OK。分かっていればいいんだ。君はまるで毎月の額を支払うことで僕を打ち負かしたかのような表情をする時があるので、もしかして何か勘違いしているんじゃないかって思ったもんだからさ。……さてと。そのことがキチンと分かっているんだったら、君に()()()()()()の領収書と君が返すべき返済額の残高計算書を渡すことにしようか」


 バ―トンがその台詞を言い終わらぬうちに、ミアの手の中にひらりと二枚の紙が舞い込んできた。

 そして、その返済残高を見たミアは、眉をひそめた。


「ちっとも減らない」


 ぼそりとつぶやいたミアの言葉を、ジャスティンは聞き逃さなかった。


「そりゃそうだよ、ミア。君のご両親は僕から――悪魔から金を借りた。そして悪魔がどれほどの金利で金を貸しているのか、子どもだった君だって知っている常識だった。それでも」

「「君のご両親は金を借りた」」

 ミアとジャスティンの声が揃う。  

「あなたに言われなくても分かっているわ、ジャスティン。そうよ、もう何度も聞いた台詞だわ」


 両親の借りた金額は大きかった。

 金利も高かった。

 ミアが返さなければならない額は、日々膨らんでいった。

 ミアが寝ている間も、くしゃみをしている間も、休むことなく返済額は膨らんでいくのだ。


「君は自分の一生を、ご両親の借金の返済に費やすことを選んでいるよね。でも、もうそろそろ別の選択をしてもいいんじゃないかな」

「それは、ないわ」

「いくらなんでも即答は酷いな。僕でも傷つくんだよ」

 ジャスティンがわざとらしく胸を押さえた。

 演技だと分かりつつも、少しだけ心配になる。

「……悪かったわ」

「君のそんな素直なところは非常に天使らしい美的要素だね、ミア。君は悪魔に対しても思いやりのある態度のとれる立派な天使だよ。おまけに君の『もじゃもじゃ頭の女神』の様な人間とも、すぐに仲良くなってしまえるところはすばらしいよ。そんな自由な精神を持つ君が、天使()悪魔()の結婚に対してそこまで頑ななのが僕には不思議でしょうがない」


 そう言ってジャスティンは大袈裟に溜息をついてみせた。


「私があなたとの結婚にYESと言わないのは、悪魔だとか天使だとかそんなことではなくて」

「「借金の為に結婚するという愛のなさが嫌なの」」

 再びニ人の声が揃う。

「何度も聞いた台詞だ、ミア。しかし君も進歩がないね。既に君のご両親だって賛成しているというのに」


 ミアの両親は、なぜかジャスティンのことを人格者(果たして悪魔にもその表現をしていいものかは疑問だが)だと勘違いしているようで、ジャスティンからの求婚を受けるようにと、しきりにミアに勧めてくるのだった。


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