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 あの事件から五日後、ミアの部屋のソファーには、リックが座っている。

 彼が人間界のミアの家に訪ねてきたのは初めてだ。

 リックの頭には包帯が巻かれていた。あの日、施設に押しかけて来た男たちと押し問答になり、怪我をしたそうだ。

 リックの顔色は悪く、やつれてもいた。

「ミア、本当にすまない。なにをどう謝っていいのか。ミアのご両親にもしっかりと説明した。エディとイレインは、うちの施設への出入りを禁じたよ」

 リックとエディの両親のハイド夫妻も激怒し、ハイド氏は松葉杖でエディを叩いたらしい。

「リックだって怪我がまだ治らないんでしょう。こんなところまで、わざわざ来てくれなくてもよかったのよ。私は無事だったんだし、事件も解決したし。あのアジト、実は警備隊がマークしていたんですってね。ジャスティンに聞いたわ」

「それに、逮捕された男たちは、悪魔じゃなかった。羽を黒く染めて悪魔を装い、あちこちでうちみたいな施設に因縁付けてお金を巻き上げていたようだ」

 ミアが連れ込まれた彼らのアジトに警備隊が着いた時、犯人の男たちはみな地面に倒れて眠り、それまで黒かった羽がもとの色である白に戻っていたそうだ。

 誰が戻したか、ミアは知っているけれど。

 ミアは封筒から一枚の紙を出してリックに渡した。

「もう必要はないかもしれないけれど。施設のバザーで売っていた石鹸やクリームの成分表よ。これによると、一般的にはクレームが来たような症状は起きないみたい」

「ありがとう。こういった対処方法も必要だった。ぼくはただただ、彼らをなだめようと、そんなことばかり考えていた。ミアのような視点がぼくにはなかった」

「当事者だとかえって見えない時があるものよ。特に、あんな風に乱暴に乗り込まれたら、それだけでアップアップになるわ。わたしは第三者だったから、冷静に見えたんだわ」

 リックが紙から顔を上げ、ミアを眩しそうにみた。

「ミア……。ぼくの知らないところで、妻は君に対して敵意を抱き、ありもしない妄想をエディと二人で膨らましていた。うちの両親も、ミアの両親同様に忙しかった。小さな弟や妹は、結婚前からぼくの同級生だったイレインに憧れていた。彼女は頭が良くて、頼りがいがあって。そういった関係の近さが、裏目に出てしまった。すまない。ゆるしてほしい」

 リックが頭を下げた。


 ゆるしてほしい?

 ……ミアは、彼らをゆるさないといけないの?


 そんな思いが浮かんでしまう自分は意地悪かしら?


 でも、やっぱり変だ。

 納得がいかない。

 幼い子どもならともかく、イレインはもちろんエディだってもうすぐ二十歳だ。

 リックに代理など頼まずに、謝りたいなら自分でミアのところに来ればいい。

 それができない理由は、つまり、謝れない感情があるってことだ。

 リックは、彼らのそんな感情をゆるしている。

 そんな彼らを、なぜミアがゆるさなくてはならないのだろうか?


 リックは、ミアになにを求めているのか?

 ミアはもう怒っていないといった安心? 言質?


 ミアの心に、今までリックに抱きもしなかった、もやもやとした思いが広がった。

 リックは、彼の言葉にミアが従うと思っている。

 いや、多分、思ってもいない。

 思うよりももっと原始的で自覚のない当然のこととして、彼の中にあるのだろう。


 素直なミア。

 従順なミア。


 今までが、いい子ちゃん過ぎたのだ。

 リックに憧れ、妄信して。

 リックにとってミアは、自分の妻よりも弟や妹よりも扱いやすい子だったのだ。


 なんだか、窮屈だ。


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