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 そのままミアは、悲壮な思いで両親のもとへ行った。

 ところが、ミアの荒れ狂う感情とは相反して、父も母ものんびりしていた。

「いい青年じゃないの。努力家で、自分の力だけで今の地位を得たのよ。改めてお話を聞いたんだけれど、わたしは感心したし、感動しました。ミア、彼はいい青年よ。彼と結婚して人間界で暮らすのがいいわ」

「そうだね。仕事の話しを聞いたけれど、ビジネスマンの顔だけでなく、慈善事業もしている。ああいった青年を人徳者というのだろうね」

 ふたりとも、借金云々はもちろんあるけれど、なによりもジャスティンのようなあんないい青年から結婚を申し込まれるなんて、さすがうちの娘だと、自慢をしだすのだ。

 ミアのあの悲しく淋しい感情は、どこにも行き場のない、宙ぶらりんな気持ちになってしまった。


 どちらにせよ、ここにいたら、あの調子でジャスティンと結婚させられてしまう。

 ミアはその翌日、自分の通帳と何枚かの服を持ち、家を出ることにした。

 両親は驚きながらも、人間界に行くのならジャスティンがいるから安心だとまで言ってミアを送り出したのだ。

 人間界といっても広いのだ。

 早々、彼と顔を合わす機会などないと思っていたミアは甘かった。

 ロザリンから紹介されたアパートメントで暮らし始めてから三日目。

 ジャスティンはミアの家に、食べ物を持ってやってきた。


 ジャスティン。

 あなたが欲しい未来って、人間界で築きたい未来ってなんだったのかしら。

 それをあなたは手に入れたのかしら?

 聞いておけばよかったな。



「…………ア、ミア」

 誰か呼んでいる?

「は……い」

 返事したけど、頭も身体も重い。

「ミア!」

 ジャスティン?

 目を開くと、視界一杯にジャスティンがいた。

 あら、ちょうどいい。

「わたし、あなたに聞きたいことが」

「ミア、無理して話すな。もう大丈夫だから」

「ううん。知りたいの。あなたが欲しい未……」

 はて? なんだったかしら? さっきまで、ちゃんと覚えていたのに。

「……ごめんなさい、忘れてしまったわ」

 ジャスティンがミアを抱きしめる。

「ぼくが欲しいものはミア、いつだって君だ。君だけだ。君との未来だ」

「わかってる。わたしが返すお金よね。お金。ええと――」

 はっと目を覚ます。

 ジャスティンから、体を引きはがす。

「取られたお金は、回収した?」

「したさ」といって、ジャスティンは黒いケースを指す。

「あぁ、ありがとう!」

 ミアは嬉しくて、ジャスティンに抱きつく。

「これで、あなたと結婚しなくてすんだわ!」

「……この状況で、そんな台詞が言える君に、ぼくの心は震えるよ」

 そう言ってジャスティンはミアの頭にキスをした。



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