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「あなた、人間の世界で働いていたのね。あっちじゃ、自由に飛べないでしょう?」

「飛ぶなんて簡単さ。姿を消せばいい。それに夜なら、どんな悪魔でも闇に紛れて飛ぶことができるのさ」

「あなたは優秀なのね。今だって、窓が開いてなくても部屋に入ってくることができたものね」

それ一つとっても、ジャスティンの能力が優れているにがわかる。

「君こそ、ここにずっといるつもりか? 君の声が聞こえない人たちの間で、このまま暮らすつもりか?」

 どきりとする。

 彼は、以前交わしたミアとのやりとりを忘れていない。

「他に行くところなんてないもの。特別優秀でもないわたしにできることなんてないし」

「探していないだけだろう? 世界は、ここだけじゃない。君が生きやすい場所だってあるはずだ」

「あなたにとっては、それが人間界なの?」

「そうだ」

 人間界か……。

 一度、友達と列車に乗って出かけた事がある。

 道具や乗り物がたくさんあった。

人間は、ミアたちよりもできないことがあるけれど、それを道具で補っている。

それが面白いなと思ったのだ。

「どうしてあなたは人間界へ行ったの?」

「自分が欲しい未来のためだ」

「お金持ちになりたかったってこと?」

 ジャスティンがふっと笑う。

「金は、不要な壁を取り除くための道具だ。そして、人間界は自分が欲しい未来を築く為の場だ」

「あなたって、難しいこと考えているのね。言いたいことがさっぱりわからないわ」

「そうだろうね」

 大人になっても、彼の偉そうなところは変わっていない。

「とにかく私に言えることは、あなたがうちの両親のお金を貸すのは悪手だってことよ。あんな利息、払えないわ。早々に焦げ付いて、結局あの施設を、あなたにとってはさほど価値のないあの建物を手にしておしまいよ」

「そのことなんだか、ミア。さきほど、ぼくはご両親にある提案をしてきた」

「利率を下げてくれるの?」

「もっと簡単な話さ。もし、君がぼくの花嫁になるのなら、金は返さなくてもいいと」

「……は?」

「ご両親も、君とぼくとの結婚を賛成してくれている」

「ちょっと、それ、なによ。嘘でしょう? そんなの」

 なんてことだ。

ついに両親は、施設のために娘まで売り渡すことに決めたのか?

そこまで、愛されてなかったとは、ショックを通り越して感情が死ぬ。

みじめだ。そこまで両親に嫌われる様な事を、なにかしただろうか。

指先が冷たくなる。

そうか、やっぱり私は不要なんだ。

悲しい、淋しい。

涙が頬を伝う。止めたいとも思わないし、止まるとも思えない。

ジャスティンがハッとしたような顔をする。

「ミア、聞いてくれ」

「嫌よ。嫌よ、嫌」

この人のせいだ。この人が、変なことを言い出すのが悪い。

「言葉が足りなかった。ぼくは――」

「聞きたくなんかない。帰って、私はあなたとなんか結婚しないわ。お金なら、私が働いて返す。それでいいでしょう!」

 窓の方へジャスティンの背中を押す。

「また来るよ、ミア」

ジャスティンは、そう言って消えた。


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