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施設の仕事を終えたミアは、自宅に戻ると一人分のお茶をいれて自分の部屋に戻った。


 ついに、というか、ようやくともいえるのか、両親はこの家を売ると決めた。

 売却費は、施設の立て直しのために使われるのだ。

 しかし、それだけでは足りず、両親は多額の借金をした。しかも、悪魔相手に。

 悪魔たちがその頭脳と知恵と機転で、貸金業をはじめとする人間のビジネス界で成功を収めているのは、ミアたち天使の間でも有名だった。

 そして、彼らの仕事の仕方が、天使には思いつかないほど際どいことも。

 ミアが事前に渡された計算書にあった金利も、ありえないほどの高さだった。

 ミアは反対したし、両親と一緒に施設の運営に関わるハイド夫妻も反対した。

「でもね、他の人からは借りれなかったのよ」

「ジャスティンさんは、我々の話をじっくり聞いてくれた。そして、意義のある事業だといってお金を出してくれると言ったんだ」

 ミアの両親は、穏やかだけれど揃って頑固だ。信念の人ともいえるかもしれない。

 そして、契約の日。

 青い空に、黒い大きな鳥が現れた。

 ミアの前に現れたのは、いつかのミアが憧れた、夜空を斬って飛ぶ悪魔だった。

 少年ではなく、すっかり大人だったけれど、ミアは一目で彼だとわかってしまった。

「よろしく、ミア。ぼくの名まえはジャスティンだ」

 出された手を無視するわけにもいかず、ミアはジャスティンの大きな手と握手をした。



 その日の夜、ミアは窓の外になにかがいると感じ、もしやの予感で窓を開けた。

「……」

「……」

 ミアは、開けた窓をそのまま締めた。

「ミア、窓を開けてくれ」

 名指しでお願いされたが、今は仕事の時間ではないので聞く筋合いはない。

 そのまま窓から離れると、果たしてその人はミアの目の前に立っていた。

 昼間会った悪魔のジャスティン。

 両親にお金を貸した悪魔。

 そして、かつてミアが羽を欲した人。

「不法侵入ですよ、ジャスティンさん」

「『さん』なんて付けなくていいよ、ミア」

「わたしは、『さん』を付けて欲しいです、ジャスティン」

 ジャスティンが笑う。

「君が変わらず君でいてくれて、ぼくは嬉しいよ」

「あなたは、随分変わったわ」

「でも、君はぼくだとすぐにわかったね」

 ミアたちのいる場所へ、彼は飛んでやってきた。

 その姿を見た瞬間、ミアにはあれが彼だとわかった。

 かつて、毎晩のように会いたいと願った、夜を斬りさく黒い鳥。

 悪魔の少年。

 青い空一面が黒くなってしまうんじゃないかと思うほど、その存在は大きく、圧倒的な迫力があった。


「悪魔にお金を借りるなんて」と難色を示していたミアだけでなく、ハイド夫妻も、これはもうどうにもならないことだと、理解した。

 

 彼の姿そのものの強さに、負けたのだ。

 ジャスティンの羽は、明るい日差しの下でも艶やかに光っていた。


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