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天使の高利貸しは今日も奮闘中①

「ギリギリセーフ!」


 男性が帰ると、ミアは大声でそう叫んだ。

 仕事用のグレイのスーツを脱いで、生成りのワンピースに着替える。

 まじめに見えるように、一つに纏めていた薄茶色の髪もほどく。

 そして、翼を大きく広げると、バサバサと羽音をたてながら吹き抜けになった部屋の天井まで飛び上がった。

 その姿は、宗教画で見るところのまさに天使。

 そう、ミアは本物の天使だったのだ。


「ロザリンの水晶玉占いは、当たるには当たるけど何故かいつもギリッギリなのよね」

 ミアは、お気に入りの螺旋階段の手すりに腰掛けると、ロザリンについて考え始めた。

 ロザリンは、ミアの部屋の階下の一階で暮らす五十代の女性だ。

 占い師で髪はもじゃもじゃ。

 黒くてかわいい仔猫と一緒に暮している。

 そして、ロザリンの占いは当たる。

 ギリッギリのタイミングで当たる。

 ミアは度胸だけはあるほうだと思っているけれど、さすがにこう毎回だと神経がまいってしまう。

 当たると確信はしているものの、本当に当たるまではドキドキヒヤヒャしてしまうのだ。


「さっきの男性も、うちに来た時はほぼ一文無しだったのよね」


 ロザリンの占いにより、ミアには彼がお金に困っていること、でも近々ひょんなことから大金を手にすることがわかっていたのだ。

 だからミアは、男性がミアの所にお金を借りに来るように、いくつかの仕掛けをした。

 例えば、男性の夢の中に忍び込み、この建物の映像を見せたり。

 例えば、男性の家のポストに、ミアの貸金業者のチラシを入れてみたり。

 まるで男性が、自分でここに来ることを決めたかのような、巧みなすり込み方法で誘い込んだのだ。

 

 そしてミアは、男性が望む額を担保ナシで貸した。

 その代償として、普通では考えられない高額の金利をつけたのだ。

 けれどその額は、ロザリンの占いによれば、十分返せる見込みがある額だった。


「私は確かに、とてつもなく高い利息でお金を貸しているわ。でも、誰一人として痛い思いをしているわけではないのだし」


 ミアに返済した後も、生活には困らない額のお金は手元に残っているのだ。

 そう思うことで、ミアは自分の心をなだめる。


 本当ならミアだって、こんなお金の貸し方はしたくない。


「でも、しかたないじゃない。私には誰も味方がいないんだから」


 ミアの両親でさえ、この件に関しては、彼女の味方ではなかった。

「だから、私は自分で自分を守るしかないんだわ」


 ギリッギリの占い結果を出すミセス・ロザリンの協力を得ながら、天使のミアは今日も高利貸しとして奮闘中なのだ。


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