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プロローグ

 メゾネットのアパートメント。

 吹き抜けの高い天井では、ゆっくりとフライファンが回っている。

 いくつもの縦長の窓からは、午後の明るい光がたっぷりと差し込んでいた。


「ミアさん、お世話になりました。お借りした金とその利息です」

 テーブルを挟んでこの部屋の住人であるミアの前に座るのは、四十代の痩せた男性だ。

 男性は落ち着かないといわんばかりに、小刻みに体を揺らしている。

 テーブルの上に広げられた古びたアタッシュケースには、いくつもの新札の束が封も切られていない状態で入っていた。

 ミアは、ケースに入ったお札を慎重に数える。

 彼女は、住居兼事務所であるこの部屋で、貸金業を営んでいるのだ。

「ええ、確かに。ご苦労様でした」

 ミアのその言葉に、男性はこの部屋に入ってから初めてリラックスした表情を浮かべた。



 男性は幸せだった。

 運よく転がり込んできた大金のおかげで、ここで借りていた金の返済だけでなく、しばらくは家族四人で暮らすことができるからだ。

 名前もろくに知らない親戚からの、思いがけない遺産だった。

 全く、人生ってやつは、なにが起こるかわかったものではない。

 ただ、こんなにも幸運な出来事が二度はないと、それはわかっている。

 今度こそは、博打をやめて真面目に働くのだ。 

 なんなら、このあと職業案内所に行ってみようか。

 ミアの貸金は、担保はないが利息がありえないほど高かった。

 しかし、あのときは突然の息子の病気のため、背に腹は代えられぬと金を借りた。

 返せる予定など、毛頭なかった。

 それでも借りた。

 あんな思いをして金を借りるのは、もうまっぴらだ。

 思い出しただけでも、脂汗が出てくる……。

 席を立った男性は改めて、ミアに頭を下げた。

 なにを言うでもなく、陽だまりにたたずむミア。

 彼女はまるで、絵画から抜け出てきた天使様のようだと男性は思った。


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