契約成立しました
そうですよね。うんうん。私も、結婚はまだちょっと早いかなって思うんだ。まだ、大学もあるし、そもそもやっぱり恋愛してから結婚したいっていうか。
もう少し、自由を楽しみたいっていうか。うん、わかるよ、わかる。
だけど、あれ?
あなた、さっきまで思いっきりお見合いすすめようとしてませんでしたか。
あぁ、やっぱり私相手では結婚する気がおきないってことですね。
「それじゃあ、このお見合いはなかったということで」
「いえ、そういうわけにはいきません」
それならばと、お見合いの解消を申し出てみたけど、何故か断られた。どういうことなんだ。
「どうしてですか?」
「結婚が僕に課された条件だからです」
「条件?」
思ったままの疑問をぶつけると、イケメンは納得いかない様子で答える。
それにしても、条件って何?なんだか、ややこしくなってきたみたいだ。
「僕が中野の副社長というのはご存知ですか?」
「なかの?……中野ってあの有名な会社の?え?」
「その様子ではご存知なかったようですね」
ちょっと待って、今混乱中です。ご存知も何も、私にはメロンの人としか紹介されてなかったんだよ。それがいきなり日本を代表する大会社の副社長って言われたって、簡単にはのみこめないよ。
「社長は僕の父です。いずれは僕が継ぐことになるでしょう。しかし、その社長就任の条件として、父が出したのが結婚というわけです」
少し声が低く感じたのは、不満の表れだろうか。イケメンは一気に話し終えると、面倒くさげに長く息を吐いた。
というわけと言われても、ますます混乱してきたんですが。でも、結婚が社長就任の条件だなんて。結婚すら自由にできないとは、お金持ちも大変なんだね。
意外とかわいそうな人なのかも。
イケメンは考え込む私に視線を合わせ、長い脚を組みかえた。そうして、再び口を開く
「期間は三年間。子供さえ産んでいただければ、後は何をしてもかまいません。浮気がマスコミにバレるのは不味いので、三年間は控えていただけるとうれしいですが、まぁ、屋敷の中でのみならばかまいません。慰謝料もお好きなだけお支払いします。あなたにとっても悪い条件ではないでしょう?」
さっきの不満そうな表情から一変して、笑顔をはりつけて告げた言葉には全くと言っていいほど感情がこもっていなかった。
三年間?子供を産めば何をしてもいい?慰謝料?そんなので、はいそうですかとうなずくとでも思ってるの?
さっきのかわいそうな人っていうのは、撤回。こいつは嫌なやつ。
「そんなもので納得すると思ってるんですか」
「なぜです?三年でその先一生遊んで暮らせるほどの大金が手に入るんですよ」
それが最善かのように話すイケメンの表情は笑顔なのに、目は笑っていなかった。
獲物を品定めするような鋭い視線に見抜かれて、少しだけひるんでしまう。
「わ、私は結婚は好きな人としたいんです。……今はいないけど。お金だって、暮らしていける分があれば十分です」
ぐっと手を握り締めて、反論にしては弱すぎる理由を相手にぶつける。負けてたまるもんか。私の一生をここで決められるわけにはいかない。
すると、目元を少し緩めたイケメンが首をかしげる。
「つまり、あなたが僕を好きになれば問題ないということですね」
「はい?」
今度は何を言う気だ。ごくりと唾を飲む音がやけに大きく感じる。
「賭けをしませんか?期間は半年。その間僕たちは恋人同士として過ごす。そして三ヶ月の後、あなたが僕のことを好きになれば、お見合いは続行で僕の勝ち。気持が変わらなければ、僕の負け。ただちに関係を解消しましょう」
「い、嫌です」
「残念ですね」
反射的に出た否定の言葉に、わざとらしく眉尻を下げてみせるその顔からは、全く残念さが感じられない。
むしろ、楽しんでいるように見えるのは気のせい?そして、こんな話はしたくありませんが、と前置きして話しだした。
「京さんのお父様は中野の子会社で働いているんですよね」
なぜ、知っている。しかも、それって――
「脅しですか」
「脅しだなんて人聞きの悪い。ただ聞いてみただけですよ」
そう言って笑ってみせるけど、だから目が笑ってないんだって。
あぁ、きっと断ったらお父さんが大変な目にあってしまうに違いない。
「さて、京さんどうします?」
どうやら、私に逃げ道はないらしい。こうなれば、どうにでもなれ。
「……します。やってやろうじゃないですか」
「そうですか。それではこれからよろしくお願いしますね」
そう言って、見せた笑顔の後ろに黒い何かが見えたのは見間違いではないはず。
そうして、私たちの関係は始まりました。