世界の約半数は女性です
「さて、挨拶もすみましたし、まずはお昼にしましょう」
私がぼんやりイケメンを眺めていると、中野さん――ダンディなおじさまの方ね!――がそう声をかけた。
そうして、これまた豪華なフルコースランチが運ばれてきたんだけど、正直言ってほとんど味を覚えてない。だって、着物は苦しいし、フォークとナイフのマナーなんてよくわからないし。
それでも、見よう見まねで頑張った。あんなに箸が恋しくなったことはないよ。
なんとか食事を終えると、両親と中野さんはわいわいとおしゃべりタイムに突入。
私はというと、会話に入れずにミルクティーをスプーンでぐるぐるかきまぜながら、今日はどういう集まりなんだろうと考えていた。美容院でセットしてもらって、成人式以来の着物まで着ちゃったりして、いくら高級ホテルでの食事だとしても、気合入ってるよね。
でも、そのおかげでいい目の保養になった。大学だと研究室にこもったりしているせいで、なかなか人と会わないからね。
チラチラと向かいに座るイケメン――祥一さんを盗み見しているとふいに目があって、あわてて目線をそらした。
うわぁ、見てたのばれたかな。
「父さん、そろそろ」
恥ずかしさに、スプーンをさらにぐるぐるしていると、イケメンは気にする風もなく、おしゃべりに花が咲いている自分の父親に声をかけた。
「そうだな。それじゃあ、あとは若い二人で」
やっとこの緊張から解放されると思っていたら、中野さんが笑いまじりにそう言って席を立った。そして、そのまま私の両親と共に部屋から出ていく。
お母さんにいたっては、がんばるのよ、と謎の言葉をかけていったけど、何をどう頑張ればいいんでしょう。主語がたりないよ。
ていうか、ひとりでおいてくってどういうことー。
部屋の中にはイケメンと私だけが残されて、さてここからどうしよう。
「若い二人でって、なんだかお見合いみたいですね」
「……えぇ、お見合いですから」
場をつなぐために、浮かんだ疑問を口にすると、とんでもない言葉が返ってきた。
み、見合い?私と誰が?
いや、もちろんこの状況では向かいに座る相手しかいないんだけれど。確かに、着物を着ちゃったり、ホテルで親子同伴で顔合わせとか、お見合いの要素はたくさんあったけれど。
だけど、まさか自分がお見合いをしてるとは思ってもみなかった。正確にはお見合いみたいだなとは思っても、まさかそんなわけないと否定してた。
「もしかして、聞いていませんでしたか?」
苦笑い気味にイケメンが言った言葉に、こくこくと首を振ってこたえた。
なんで誰も教えてくれなかったんだ。両親にちょっとばかり怒りがこみあげてくるけど、きっと一番困ってるのは、目の前の人だよね。
おそらく、うちの両親に押し付けられたんだろう。そうでなきゃ、お金持ちのイケメンがこんなしがない大学生とお見合いするはずがない。
「困っちゃいますよね」
「京さんは、僕ではお嫌ですか?」
同意を求めたはずの問いに返ってきたのは、意外な言葉だった。
「いや、えーと、あの、嫌とかそうじゃなくて。私なんてただの大学生ですよ。それに今日会ったばかりですよね」
それとも、どこぞの漫画みたいに過去にドラマチックな出会いなどしていただろうか。私の記憶には全く残っていないけれど。
心の中で小さくつけたしながら聞くも、笑顔で「えぇ」と答えるのみ。
「あの、好きな人とか理想とかないんですか?」
きっと、私の両親の押しの強さに断りきれなくなってしまったに違いない。こんなイケメンなんだから、恋人の一人や二人――いや、二人はまずいか――いるはずだ。お父さんもお母さんもそれなら諦めるだろう。
もし、いないとしても、私は理想とはかけ離れているだろうから、そう話して納得させよう。
第一、私が釣り合うはずがない。そこんとこはちゃんとわかっているので安心してください。
しかし、返ってきたのはまたも予想外の言葉。
「好きな女性もお付き合いしている女性もいませんし、理想も特にはありませんね。女性であればかまいません」
女性であればって、そこは最低限の条件だと思うんだけど。
「中野さんなら、もっといい人がいますよ」
「そうですね」
ならばと、遠まわしに私じゃなくてもと伝える作戦を決行するもあえなく撃沈。どうすればいいのでしょう。
うーんと唸りながら考え込んでいると、イケメンは小さく息を吐いて口を開いた。
「正直に言って、結婚には興味がありません」