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三題話(恋)

とある川べりの道にて

 細い川だった。

 川は工事がなされていて、まるで渓谷のように岸から数メートルの下を濁った緑が、分らないほど微かに流れている。岸には三月前に緑色になった桜の木が、まだらな間隔で敷き詰めるように生えていた。

 日差しは、まだ始まったばかりの夏のきつさを匂わせるように、肌をじりじりと焼くように強く、時雨と言うにはあまりに騒がしいセミ達が、ブーイングの様に激しく鳴き交わしていた。


 そんな川の岸にある道を、一台の自転車がヨタヨタと、走るいう字を使うのがもったいないほどゆっくりと進んでいた。

 自転車には二人乗っていて、どちらも同じ学校の制服に身を包んでいる。


 こいでいるのは、まだ顔にあどけなさの残る少年だ。比較的細い体躯で、髪型に頓着しないタチなのか、単に短く切ってあるだけである。

 額に張り付いた髪に顔をしかめ、夏の焼くよな日差しに顔を曇らせ、極めて面倒くさそうに自転車を力なくこいでいた。


 もう一人は少年と同世代らしき少女で、自転車の後部に付いたパイプキャリアにタオルを乗せ、クッション代わりにして座ってる。

 こちらは格好に気を使うらしく、学校の規則から出ない程度の装飾で、それなりに決まっていた。髪は黒い長髪で、毛先に行くほど錆びた様な赤に変わっている。今は一つにまとめて右肩越しに前へ持ってきている。


 二人のカバンは自転車の両ハンドルに天秤のように吊り下げられ、それがこれ以上ないほど低速で進む自転車をさらに不安定にぐらつかせていた。


「ねぇ」

「……何?」

 少女の呼びかけに少年が答える。

「最近考えるんだけどさぁ」

少女は勿体つけてそこで区切ると、天を仰ぐように体ごとのけぞって空を見上げた。

 空には雲ひとつなく、迷惑なほど激しい陽光が少し目を突いて、少女は目を細めた。


「なんでも願いが叶うって言われたら何お願いする?」

「…………その姿勢やめろ、こぎにくい」

少女は素直に座りなおす。


「何の話だ?」

 少年の声には多分に呆れの色がある。

「いや、この前読んだ小説にこういうのがあって」


 少女の話した内容は、―――とある男が神社に足を運んだ。その夜、男はその神社の使いと名乗る狐の夢を見る。狐は男に、なんでも願いを一つ叶えようと申し出る。

 男は常日頃からの願いがあるのだが、こんな時にどうしても思い出せない『頼む思い出せ!』……男は願いを思い出したが、それで狐は消えてしまった。―――というモノだった。


「こんな風に、いきなり焦ったりしないように、何か考えようと思ったんだけど、ちょっとピンとくるのが無くてね~」

 少年はますます呆れ顔になり、

「無いなら無理に願わなくてもいいだろうに」

と、結構真剣に答えたつもりだったが、少女はヒートアップしただけだった。

「だってもったいないよ!? 普通願いなんて世界中に散らばった7つの球集めでもしないと叶わないんだよ? それなのにタダって、破格でしょ! 何も願わないなんて最早謙虚を通り越して傲慢だよ」


少年は呆れを通り越して鼻白む。

「でも何も思いつかないんだろ?」

「そ、だから聞いてるんだよ。ねぇ、何を願う? なんでも一つ願いを叶えよう!」

少女は後半何かの物まねをしたらしいが、少年には通じない。

「俺なら……」

「なら?」


「せめて俺のやる事の邪魔はするな、関与するな、だな」


訳が分らないといった顔で少女は固まる。

「ナニソレ?」

「もし俺のやることに邪魔も力添えも無いなら、全ては俺の責って事でかたが付くだろ」

「ふーん、協力でも駄目なの?」

「自分でやらなきゃ意味のない事も世の中にはある」

 少年は憮然とした表情で言い切る。

「例えば?」

少年は何も答えなかったが、心なしか、自転車の揺れが少しの間だけ強くなった。

 道は、まだまだ先に伸びている。



 それからしばらく走ったところで、

「遅いよ」

唐突に少女が言った。

「速いと疲れる」

「でもこれ歩いたほうが速くない?」

 実際少女の言う通り、自転車の速度はちょっとした速歩き程度で、頑張ればスキップでも抜かせそうだ。

「歩くより疲れないし速い」

「それはそうかも知れないけど……」


「それとも、とっとと帰って一人のほうがいいか?」


少年は車体を随時立て直しながら、少女のほうを向かず、ぶっきらぼうに言った。

「………………、バカ 」

 少女は少年の腰をつかんでいた手を離して、少年の胸辺りに手を回しなおした。自然二人の体がくっつく。

「……暑い」

「いいじゃん、ちょっとぐらい」

「暑い」

「いいじゃん……それとも離れて一人の方が良かった?」

 少女のおどけた声を耳元で聞いて、少年はさらに面倒くさそうに目を細めた。



 しばらく、二人は何も言わなかった。

 少年は流れ落ちる汗や、背中に負ぶさるように寄り添ってくるやわらかい発熱体のことなど、全然気にしていないように。少女も、滲んでシャツにシミでも作りそうな汗や、力強く頼もしい高熱の脈動を、まるで全然気にしていないように。

 終始二人には会話もなく、わざとらしく素っ気無く、自転車はゆっくりと進んでいった。


「……もうすぐで着くぞ」

 もう後十数メートルで少女の家だ、どんなに自転車が遅くても後数分もすればたどり着く。

「…………」

「…………」

 二人とも何も言わない。


 少女の家まであと八メートル。


「あ、あのさ」

「ん?」

「そういえばさ、この近所にカフェが出来たんだって」

「……聞いた、確か1ヶ月ぐらい前に」

 少年は興味なさげに、少し呆れて言う。

「行かない? 私いった事ないんだ」

「いまから?」


 少女の家まであと五メートル。


「今から」

「分った」

 少年は自転車を止めた。

「案内して」

 そう言って二人で降りて、自転車を持ち上げて百八十度反転させる。

「行こう」

 少女が言って、少年は自転車にまたがり直す。

「うん、行こう」

 少女がまたくっついて乗ろうとするのを手で制し、少年はカバンをまとめてかごに突っ込んだ。

「ん?」

「どうせなら、涼しい所でゆっくりしよう」

「賛成!」

 二人の乗った自転車は、さっきまでとは比べものにならない程のスピードで、まとわりつく熱気とセミ達の喧騒を振り払うように、一瞬の加速で風のように去っていった。

学校の帰りにふっと思いついて、

そのまま30分で書き上げました

相変わらず何のひねりも無い下手な文章ですが、

お楽しみ頂ければ幸いです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 思春期の二人のドキドキ感が伝わってきます。 少女が少年の背中にくっついた時の熱さとか、お互いの身体の感触がリアルで、読んでてドキドキしました。 暑いのに黙って汗かきながらくっついてる二…
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