サバイバル舞踏会
※『第7回なろうラジオ大賞』応募作品です。使用キーワードは『サバイバル』『舞踏会』。
今宵は王宮の大広間での舞踏会。
噂では王太子妃選びの場らしいんだけど──私なんかがここにいてもいいのかな。そういうのって、上級貴族令嬢の中から選ぶんじゃないの?
実は私は、日本生まれの生粋の庶民だ。なぜかこの世界の貧乏男爵家の娘に転生しちゃったんだけど、舞踏会に行く機会なんてほとんどなかった。恥をかかないよう、大人しく『壁の花』になっておこうかな。
やがて高らかにファンファーレが鳴り、国王陛下ご夫妻と王太子殿下がご出座なされた。
「これより、王太子妃選びを執り行う。
実はわが王家は3代続けていささか病弱である。ゆえに、何よりもまず強い血筋を迎え入れたい。
王太子妃に望む条件はただひとつ、『壮健であること』!
舞踏会でひたすら踊り続け、最後まで残っていたものが王太子妃となる。
親の爵位や容姿、ダンスの技量も一切不問だ。健闘を祈る!」
前奏が流れ、男たちの半分が近くの女性たちの傍に寄ってきた。
あ、やけに男性が多いと思ったら、半分は交代要員か!
周りを見ると、ほとんどの令嬢たちの目が燃えている。下級貴族令嬢にこんな機会、普通ならありえないもの。
もちろん私もだ。殿下はモロに好みのタイプだし、せっかく転生したんだから、脇役じゃなくてヒロインの座を射止めてやろうじゃないの!
数曲が終わる頃には、半分ぐらいの令嬢が脱落していた。
私はなるべく動きを抑えていたんだけど、あまり舞踏会経験のない下級貴族令嬢たちは始めから頑張り過ぎてしまったらしい。
一方、上級貴族令嬢たちは優雅に踊りつつ、体力を温存する術も心得ているようだ。
私が最後まで残るためには──もう前世の記憶にあるあの手しかないかな。
私はこっそり楽団に近づき、アップテンポの庶民的な曲をリクエストした。楽団の人たちも堅苦しい曲ばかりで退屈してたのか、笑顔で応えてくれる。
「さあ、皆様! こんな新しいステップはご存じかしら!?
上級貴族の皆様なら、こんな田舎の踊りにも当然ついてこられますわよね?」
挑発するように言い放って、私は踊り始めた。
前世で大ヒットしたインド映画のダンスバトル。片足で跳躍を繰り返し、もう片足をひたすらに激しく前後に蹴る踊りだ。文化祭で踊ったっけなー。
あの映画のように、周りの人たちがつられて一斉に踊り始め──体力の尽きたものから次々と脱落していった。
かくして私はサバイバル舞踏会を乗り越え、王太子妃の座と『狂乱の舞姫』の二つ名を勝ち取ったのだった。
何の予備知識もなくインド映画の『RRR』を観たら、面白くてびっくりしました。
ご存じない方は「RRR ダンスバトル」でぜひググってみて下さい。




