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雨上がりの空で、傘をさす。  作者: つな△まよ
三章:羽ばたきの峡谷
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第十二話: それぞれの役割(後)


《フアン視点》


じいちゃん家の隠し部屋。

集落中の子どもと体の弱い年寄り、僅かな大人の女の人たちが、身を寄せていた。


それぞれが誰かの帰りを——無事を。

平和な未来を、ただ願っている。



「フアン、行くわよぉ」



「……は?」


地べたに座って周囲を眺めていたとき、突然、耳元で姉さんが囁いた。

緊張感もへったくれもないその声は、いつもの「悪戯しに行くわよぉ」と寸分違わない。


「……姉さん、何言ってるの?」


流石に今回ばかりは止める。

大人たちの——

じじいの顔が、本気で焦っていたのを知っているから。



「なあに? フアン。

 あたしの”勘”——信じてるでしょ?」



姉さんの琥珀の瞳が、きらりと光った。


姉さんの勘は、ただの勘じゃない。

僕の瞳も、ただの瞳じゃない。

鳥人族の長の家系に代々伝わる、特別な能力——。



「……勘かよ。

 それを先に言ってよね」



僕は立ち上がり——

出口を開く呪文を唱え、姉さんと共に駆け出した。



「フアン?! フアナ!!」



背後で誰かが叫ぶ。

岩が開いた隙間をすり抜け、捕まる前にもう一度閉じる呪文を唱えた。


大人たちは知らない。

僕と姉さんだけの秘密。


(じじいの口元、ちゃんと”観”てたから)



ゴゴッ……



岩で閉じられた隠し部屋を振り返りながら、姉さんは「あはは!」と高笑いした。



「フアン……

あんたってほ〜んと! 最高の弟ね!」



僕たちは軽くハイタッチを交わす。


今中に残っている大人たちには、ここを開けられる土魔法を使える人はいない。



「姉さん、ブラスさんが戻ってくる前に……」



"早く行こう"

そう言おうとした時だった。



クイッ。

服を掴まれる感覚。



「誰っ?!」



反射的に声を上げて振り返った——。



「ぼくも、つれてって」



ヒツジ族のちびっ子が、

僕たちを見上げていた。



「えっ? えっ?

 ど〜してちびっこがいるのよ?!」


「…まさか、あの一瞬の隙に着いてきたの?」



こくり、と頷くちびっ子。


そういえば、近くで座っていたはずなのに、僕たちが立ち上がった時には姿が見えなかった。


——きっと姉さんの囁きに反応して、一足先に出口付近で待っていたんだ。


姉さんと顔を見合わせる。


……。



「「まぁ、なんとかなるか(わ)」」



お互いの考えが一致したと、笑い合った。


僕が大丈夫だと"観る"なら、

姉さんが大丈夫と"思う"なら、

——本当に、なんとかなる。



「ちびっこぉ! 大人しくしてなさいよねぇ!」


「……暴れたら、容赦なく置いてくから」



「! ——うんっ!」



ちびっ子は丸い瞳を輝かせて、大きく頷いた。


僕たちは木の実が入っていた大きな籠をひっくり返し、その中へ入るように促す。

いそいそと籠に収まったちびっ子を確認して、僕らは半獣の姿に変わった。



「行くわよぉ!」

「行くよ!」



二人で籠を掴み、翼を大きく広げる。

風が巻き、地が離れる。


目指すは——東に広がる黒雲。



(ネナさんの傘での戦い……見られるかもしれないな)



胸が高鳴る。

僕は姉さんと息を合わせ、強く翼をはためかせた——。



《フアン視点》 end.



***



《フィン視点》


ぼくのこと、心配してくれていたネナ。

酷いこと言っちゃったのに、抱きしめてくれた。


そんなネナが戦いに行くって言ったのに、ぼくは"いってらっしゃい"も言えなかった。


(ネナ、トーマ……)


ぼくをひとりにしないで。

ぼくも——


ふたりのために、出来ることをしたい。


胸の奥がほかほか温かくなる。



リーン、リーン。



不思議な音が、頭の中で鳴り響き続けた。



《フィン視点》 end.



***



《フアナ視点》


「なあに、あれー……」


岩陰に隠れながら飛んできたあたしたち。

黒い鳥型の魔物たちと大人たちが戦う様子を、あたしたちは少し離れた場所からこっそり観ていた。


そんな中、岩山の上で異様な動きをしてる奴がひとり。

……あの、トーマという男。


同じ場所からまっったく動いてないのに、寄ってくる魔物たちがポンポン落ちてく。

一体どうなってんのぉ??


「……電撃と、炎?」

「威力は弱いけど、的確に当ててる」


横でフアンが興味深そうに呟いた。


ほんと、フアンはこういうの観るの好きよねぇ。

あたしはもっとドッカーン!!って派手な技が見たいわあ!



「派手にしたらいいのにぃ」


「…いや、集団戦では派手な魔法は危険だよ。あの人もきっとそれを分かってる」



チキチキと、フアンの瞳が点と点を飛ぶように揺らぐ。



「魔力統制が正確だ。最小の力を確実に敵の急所に当ててる」


「しかも、死角は常に薄い電撃を発動させて、魔物が触れたら即座に急所に電撃を流してる。

 ……すごい精度だよ」



フアンが目を見開き、ほっぺを赤らめて興奮してる。


あたしには何がすごいんだか、

ぜんっぜんわかんなあ〜い。

そ・れ・に!



「ネナが『集団戦闘向きじゃない』って言ってたのに、どうなってるのよぉ」


「……たしかに」



フアンが眉を顰めて考え始めた。


(そんなことより、ネナはどこかしらぁ?)


上空をきょろきょろ見回す。

あの男と違って飛べるネナなら、きっと空で戦ってるはず!


「!」


一際、多くの魔物が落下する場所を見つけた。



——ネナが、跳び回ってる。



「ネナ!」

「えっ、どこ?」



ネナは魔物を足場の代わりに跳ねながら、バッサバッサと敵を斬ってる。

たまに方向転換したり、傘で敵の攻撃を躱して魔物同士の自滅を誘ってるその姿。


「ネナかっこいいぃい!」


あたしが憧れる、

賢くて強い女そのもの!


「傘を開いた先も見えてる? それとも気配感知系……?」

「いやでも、あれは見てるよね。……持ち主は透けて見えてる?」


フアンがまたぶつぶつと呟いた。


やっぱりあたしの"勘"は正しかった!

ネナはあたしの理想とする女!


魔物から噴き出す黒い塵さえも、ネナを引き立てる演出にしか見えない。


「ほおら!

 あんたも見なさいよ!」


あたしは横で静かにしてるちびっこを振り返って声を掛けた。



「……」



——ちびっこは、震えてた。



顔は真っ青で、目には涙が溜まってる。


まあ、そうよね。

こんな光景、ちっちゃい子にはちょ〜っと、ハードだったかしら?


「仕方ないわねぇ」


あたしはそう呟いて、ちびっこを抱きしめた。



「!」



ちびっこは肩を震わし、ギョッとした眼であたしを見つめた。


失礼ねぇ。



「あたしが、責任もって守ってあげるわよぉ」



だってあんたは、ネナが大事にしてる子だもん。

ネナがあたしたちのために戦ってる今、

あたしだって小さい子くらい、守るんだからぁ!



《フアナ視点》 end.



***



「はぁああ!!」



ザシュッ—— 「*!」


一瞬強まる鉄の匂い。

傘を振り抜くたび、肉を裂く感触が手のひらに伝わる。


短い悲鳴とともに、魔物は緩やかに回転して墜ちていった。


「はあ、はあ……っ」


どれだけ斬り続けただろう。

漆黒の群れは減るどころか、果てしなく広がっているように見える。


強化されたはずの身体も、確実に消耗していた。

一撃一撃が、以前よりも重い。

それでも足は止めない。



「はあっ——!!」



ザシュッ!!

声を上げ、力を振り絞る。



諦めない。

絶対に、振るうのをやめない。



(みんなを、守る)



その一心で動き続ける。

だが、体の限界は確実に近づいていた。



(何か……何か打つ手はないの……?)



突破口が見えない。


「……っ」


焦りと悔しさで歯を噛みしめた。

そのとき。



「!!」



視界の端に映った複数の影。

目の前の魔物を相手する男の人に、

一匹が背後から迫る。



「——だめっ!!」



傘を開き男の人の元に向かおうとした。

刹那——



グサッ。



嘴が、

男の人のお腹に埋まった。


血飛沫が舞う。

魔物が嘴を抜いた。



「かはっ!」



男の人は血を吐いた。

お腹がじわりと赤く染まっていく。



(……だめ)



そして男の人は空を仰ぎ、

そのまま、ゆっくりと落ちはじめた。



(だめっ……!)



私は落ちていく男の人を掴むため降下しようとした。

しかし、魔物がそれを許さない。



「**!!」

「*!」


「***ー!」



まとめて襲いかかる三匹の魔物たち。

傘は即座に軸を返し、瞬間、私は振り抜いた。



「やめてっ!!」


「*!」「*ー!」


一振りで二匹斬った。

一匹を足場にして傘を上に振りかぶる。



「**ッ!」



残る一匹も斬った。



バッ!!



すぐに男の人が落ちていった先を見た。


——男の人の姿がない。



「っ!」



間に合わなかった?

ううん。まだ諦めてはいけない。


(どこ?)


すぐ下の地面を見回した。

しかし、落ちているはずの男の人の姿はなく、

地面には魔物の死体と赤が広がっていた。



「……あっ」



視線を横に逸らして、ハッと。

連なる二つの人影が、

ぽつりぽつりと血をこぼしながら、岩陰に入っていく姿が見えた。



(他の人が助けてくれたんだ……)



ふっと、安堵に、

強張っていた表情が弛んだのを感じた。


だけど——

命が助かるかはわからない。


(お願い。生きていて)


それでも、可能性は繋がった。

今はそれだけでも、十分すぎるくらいの希望がある。


私は黒く染まる空を見上げた。



(……まだ、戦いは終わってない)



すぐに表情を引き締めた。

冷たい風が体を揺らす。



「**!」



「——!」



私は敵めがけて、再び傘を振った——。



***



《フィン視点》


リーン、リィーン。

頭の中で鳴り続ける音。

心臓がどくん、どくんと熱を帯びる。


ぼくは怖くて、何度も目を瞑りたくなった。

だけど、それでも、

目を凝らしてネナたちの戦う姿を見つめていた。

たくさんの魔物と、苦しそうなみんなの顔も。



(こわい。こわいよ……!)



震える手を胸の前でぎゅっと握る、そんなとき——



ふわっ。

突然、温もりが差し込んだ。



「!」



驚いて顔を上げた。

温もりの主はフアナだった。



「あたしが、責任もって守ってあげるわよぉ」



頬を少し赤らめて、ぼくをぎゅっと抱きしめるフアナ。

意地悪だけど、

でも、やさしいフアナ。


ぼくもすぐにぎゅっとした。

ネナにちゃんと返せなかったもやもやが、少しだけなくなった。


フアナの服をぎゅっと握ったまま、また空を見上げる。

フアナも真剣な目で戦況を見つめていた。



「まずい……」



しばらく見守っていると、フアンが低い声で呟いた。



「ネナさんも、ほかの大人たちも、動きが鈍くなってきてる。


 このままじゃ——負ける」



ドクンッ


フアンの言葉に、胸の奥で嫌な音が響いた。



(負けるって……

 ネナたちは、どうなっちゃうの……?)



心臓の鼓動が速くなっていく。

頭の中の音は、変わらず鳴り響く。



リィーン、リィーン。



苦しそうなネナの顔。

トーマも、眉を顰めて上空を見回してる。



(ネナ、トーマ……っ!)



——もう逃げよう。



そう言いたい。

ふたりが怪我するのを見たくない。



リィーン、リィーン。



(でも)



だけどネナは、絶対に逃げない。

トーマも、ネナを置いて逃げたりしない。

ぼくは知っている。

ふたりは、大切なものを諦めない。



「!!」



ネナの体が、ぐらっと傾いた。



「ネナっ!」



——リィーン。




ぼくにも、

誰かを守る力を——!!




願った刹那、

頭の中の音が止んだ。

目の前が、白黒になる。


ぼくは、黒い影に向かって叫んだ。




「眠って!!」




影が沈んだ。



第十二話

羽ばたきの峡谷 -それぞれの役割- 完

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