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雨上がりの空で、傘をさす。  作者: つな△まよ
二章:はじまりの町
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第八話:残された温もり(後)


「今度こそ、本当にお別れだねぇ」


門の前でラミアさんがしんみり笑う。


「最後の最後まで、本当にお世話になりました」


ラミアさんとデミドアさんに頭を下げて、今度はふたりの横に立つ、エーリオさんへと向いた。


「エーリオさんにも、大変お世話になりました」


「ありがとうございました」と深く頭を下げると、エーリオさんは「いえいえ」と微笑んだ。


「お気をつけて」


エーリオさんの言葉に、笑って頷いた。


この町には三日しかいなかったのに、短い期間とは思えないほど色んな事があった。


(きっと、忘れることはないだろうなぁ……。……あ)


町での思い出にしみじみしていると、ふとあることを思い出した。


(そういえば、まだ透真とフィンには言ってなかった……)


私は横に並ぶ透真とフィンに体を向けて、


「ふたりとも……あのね、」


そう切り出した。

言葉を止めた私に、首を傾げる透真とフィン。

その動きはシンクロしていて、

まるで兄弟みたい、とつい笑みがこぼれる。


(あっ……そうじゃなくて)


私は小さく頭を振ると、二人に続きを話しはじめた。


「次に向かう場所、リベルタでしょ? 元々、その後の行き先は決めてなかったけど……」


ちらっとエーリオさんを見る。

エーリオさんは変わらず微笑みを浮かべている。しかし


(……すこし、緊張してる?)


その顔はどこか硬いような、そんな気がした。

けれど、気のせいかなと、

私はすぐに透真たちへと視線を戻した。

そして、


「船に乗って、魔塔を目指そうかなって」


次の行き先を提案した。


「おふね〜っ?」


"船"という言葉に、フィンは目を輝かせて大喜びをする。

ラミアさんとデミドアさんは、「海の旅だなんて、良いじゃないか」と笑っている。


「エーリオさんが教えてくれたの。魔塔に行ってみるといいですよって」


「ね、エーリオさん」


そう声をかけながらエーリオさんに視線を向けると、


「え、ええ……」


エーリオさんは微笑んではいるものの、どこか顔色が悪かった。

私は昨日の一件で無理をさせてしまったのかなと、申し訳ない気持ちに眉が下がる。


「エーリオさん、大丈夫ですか?」


「もしかして昨日、無理させてしまったんじゃ……」


私がエーリオさんの体調を気にしていると、


「あ、ああ!大丈夫です。 大丈夫ですよ……」


エーリオさんはぎこちない笑みを浮かべた。


(本当にどこかが悪いんじゃ……)


らしくない様子に、ますます心配になる。

エーリオさんは私を見てハッと肩を揺らすと、

まるで私の気を逸らすように、


「ネ、ネナさん」


がしっ。

私の両肩を掴んだ。


痛い訳ではないけれど、突然のことに驚いて体をビクッと震わせる。

私は目を丸くして、エーリオさんを見つめた。


「魔塔のことなんですが……」


そこまで言って留めるエーリオさんに、

"重大な話が始まるのかも"と、緊張して、

ごくりと唾を飲み込んだ。


エーリオの口が、ゆっくり開いてゆく——




「魔塔に行く前に——

他の場所も見て回るのはどうでしょう?」



重々しい空気をバツっと斬るような提案に、私は呆気に取られて、


「……へ?」


思わず、間の抜けた声が出た。


「……」

「……」


エーリオさんと私の間に、静寂が訪れる。

フィンは私たちの異様な空気をまったく気にすることなく、

私の横で「おふねっ おふねっ」と小躍りしている。


「そう……私あれから、考えてみたのです。魔塔に行くのであれば、折角ならその道中も楽しむべきだと」


確かに……?

そう思いながらも、様子のおかしいエーリオさんに、少しだけ怖くなってくる。


(どうしちゃったの……? エーリオさん……)


私が戸惑っていると、エーリオさんはハッと瞼を大きく開いた。

肩を掴んでいた手を離して、そっと私から一歩距離を取る。


「すみません。……少し、熱くなってしまいました」


こほんと咳払いをするエーリオさん。

やっと落ち着きを取り戻したエーリオさんに、私はほっと胸を撫で下ろした。


「話は戻りますが……ネナさん」


私は改まって話はじめたエーリオさんを、じっと見つめた。


「あなた方は真っ直ぐ魔塔を目指すのではなく、まずは別の場所へ行ってみてはどうでしょうか?」


「別の場所……?」


聞き返した私に、エーリオさんはうれしそうに微笑んだ。


「そうです。 例えば、クロノス……」


「——なあに言ってんだい!」


話を聞いていたラミアさんが、エーリオさんの言葉を遮って声を上げた。


「クロノスなんてお堅い街、行ったって何も面白くないだろう。ただ遠回りするだけさ!」


呆れた顔でエーリオさんを睨むラミアさんに、エーリオさんは「ら、ラミアさんっ」と焦っている。

ラミアさんはそんなエーリオさんを無視して私たちに話しかけた。


「ネナ。次に行くならプルーヴィアにしときな。あそこなら魔塔のあるヴェルスまで寄り道なしの一本道だよ」


「遠回りをするのは帰ってくる時でもいいだろう?」


そう言って、快活な笑みを浮かべるラミアさん。

後ろではエーリオさんが「神よ……」と膝をついて天を仰いでる。

その様子はまるで祈るように、必死に何かを訴えかけているようだった。


再び始まったエーリオさんのおかしな行動に、

"本当に大丈夫かな……"と心配しつつ、ラミアさんにお礼をする。


「ありがとうございます。プルーヴィアに向かってみようと思います」


「透真、いいよね?」

横にいる透真を見る。


透真は私の声にハッとすると、にこっと笑って「もちろん」と答えた。


答えるまでの一瞬の間が気になったけど、

(朝早いし、眠くてぼーっとしてたのかも)

感じた違和感は、すぐに頭の中から消え去っていった。


「それでは……行きますね」


ラミアさん、デミドアさん。

……今も祈ってるエーリオさんに向けて、お辞儀をする。


「本当に、ありがとうございました」


下げた顔を上げると、ラミアさんとデミドアさんは笑っていた。

膝をついていたエーリオさんもゆっくり立ち上がりながら、少しだけ眉を下げて微笑んだ。


「いってらっしゃい!」

「……気をつけるんだぞ」

「皆さんに、神のご加護があらんことを……」


「いってきます……!」


三人に笑顔で別れを告げる。


「いってきま〜す!」


横でフィンが大きく手を振った。

反対側では透真が軽く会釈をして前を向き直す。


私はまだしばらく、ラミアさんたちや町を見ていたい気持ちを堪えて

——前を向いた。


大丈夫。

温もりはいつだって、ここに残っている——。


町を背に見つめた先は抉られた大地。

昇り始めた朝日の光で、砂に混じる鉱石がキラキラと輝いている。


私たちは次の目的地に向かうため、

決して平坦ではない道を、強く踏みしめて行った。



第八話

はじまりの町-残された温もり- 完

※ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

二章はこの八話で完結となります。


物語の区切りと投稿スケジュールの都合上、

三章が始まる九話の更新は、

【2/6(金) 22:30】を予定しています。


少し間が空きますが、

引き続きお付き合いいただけるとうれしいです。

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