閑話②:轟音の向かう先
ドォオオオオオオン!!!!
「ああ?!」
「っ?!」
静寂に包まれた夜明けに、突如鳴り響いた轟音。
間を置かずして店が激しく揺れた。
「なんだい…一体」
揺れが収まると、テーブルの脚に掴まっていたラミアは、
床から身を起こしながら、低く呟いた。
カウンターに身を預けて耐えていたデミドアもその身を起こすと、
急ぎ足で店の外へと向かった。
「おい」
ドアから半身を出して呼び掛けるデミドアに、
ラミアもドアの方へと近づいた。
「どうしたんだい」
デミドアに尋ねるラミア。
デミドアは「あれを見ろ」と、町の南東にある森の方角を指差す。
指が示す先には、モクモクと上昇する煙のような姿があった。
「あれは……土埃?」
なぜ土埃が?
そんな疑問が先行したが、直ぐにハッとお互いの顔を見合わせた。
「あっちはフィンたちが向かった森じゃないか——!」
ラミアの叫びを合図に、夫婦は店の戸締りもせずに駆け出した。
二人の顔には焦りと戸惑いが滲んでいる。
「はあ、はあ、はあ…っ!」
息を切らしながらも、門まで休むことなく走り続けた二人。
門の周りには、様子を見に来た町人が複数いる。
遠くからは微かに子どもの泣き叫ぶ声が聞こえた。
「フィン?!」
聞き覚えのあるその声に、
ラミアは人混みを掻き分けて門の外へと進む。
その声に反応したデミドアも、少し遅れてその後を追った。
「ネナぁああああ!!」
二人は門の先の光景に驚愕する。
泣き叫ぶフィンと、その横にはしゃがみ込む透真の姿がある。
そんな二人の隙間から、僅かにもう一人分の姿が見えた。
そして——その三人の、さらに先。
——森が、見渡す限り消失していた。
「フィン!」
泣き叫ぶフィンに駆け寄るラミアとデミドア。
フィンは涙の溢れる大きな瞳を声のした方に向けると、
「おばちゃん、おじちゃああん!」と言って抱きついた。
ラミアが抱きつくフィンを宥める横で、
デミドアが透真に「ネナは?」と尋ねる。
「……気絶してます」
その腕に抱えている音凪から、視線を逸らさずに答える透真。
デミドアは透真に抱えられてるネナを見て、
"本当に気絶しているだけのようだ"と、
ほっと息をついた。
「トーマさん!」
後ろから透真の名を呼んだのは、この町の教会の司祭であるエーリオ。
「っ?!」
エーリオは、目に入った森が地面を抉られ消滅しているその光景に、一瞬息を飲んだ。
しかし直ぐに透真へ向き直ると、音凪の状態を確認するため、白い司祭服を地に着けた。
次の瞬間、
その瞳に青白い光を宿し、音凪の全身に視線を滑らせていった。
そして右肩を見て、呟く。
「無理をしたようですね…」
エーリオは間髪入れずに、音凪の右肩に向けて魔力を集中させた。
白い光が、音凪の右肩を優しく包みこんでいく。
「ヒールをかけたので炎症は引いているはずです」
続けて「教会の医務室に寝かせてあげましょう」と言うエーリオに、
透真はこくりと頷くと、音凪を抱えて立ち上がった。
「デミドアさん、ラミアさん。……フィンを頼みます」
音凪を抱えながら首だけで頭を下げた透真は二人の返事も聞かずに、
先に教会へと走り出していたエーリオの後を追った。
「うわあああん!!」
フィンの泣き声が響く中、教会へと駆けていく透真の背を見つめるデミドア。
透真たちが人混みに姿を消すと、再び森の方を向いた。
「…何があったっていうんだ」
デミドアの呟きは、フィンの泣き声と
人々のざわめきに掻き消されていった___
閑話②
轟音の向かう先 完




