#6 商人の兄と魔道具師の弟
湖畔の騒ぎがひと段落し、僕たちはずぶ濡れのまま家へと戻った。
マーカスは笑いながら服の裾を絞り、ムウノスはオルカヌーの動きについて何やらぶつぶつと考え込んでいる。
玄関を開けると、母が目を丸くした。
「ちょっと! 何してきたの、そんなびしょ濡れで!」
「ちょっと湖で遊んでただけだよ。……ちょっとだけね」
僕が笑ってごまかすと、マーカスがタオルを肩にかけながら言った。
「遊びっていうか、あれはもうイベントだったな。町の人が集まってたぞ。あれは絶対に金になる」
マーカスの目が商人のそれになっていた。
いつものことだ。面白いことがあれば、すぐに商売に結びつける。
「観客が集まる。賭けもできる。飯も売れる。土産も出せる。うちの店どころか町中の店、全部絡められるぞ」
「僕も、もっとちゃんとしたレースをやってみたいと思った。オルカヌーに乗って、競技として」
その言葉に、ムウノスが顔を上げた。
「それなら、魔道障壁を使えばいいかも」
「魔道障壁?」
「魔道具屋の工房で見たんだ。魔力を流せば、一定範囲を囲って外からの干渉を防げる。水場にも使えるし、形も調整できる。透明にもできるよ」
「それ、使えるじゃん!」
僕はタオルを放り投げて、ムウノスの肩を掴んだ。
「ムウ、協力してくれる?」
「うん。面白そうだし、魔道具の応用にもなる。設計図、描いてみるよ」
「あっ待って。……もう一つ、お願いがある」
ムウノスが首を傾げる。
「何?」
「今日のレースは直線だけだったけど、実は一番盛り上がるのって、ターンだと思うんだ。直線とターン!ほら、オルカヌーに乗ってみて分かったんだけど、水面を滑るように曲がる瞬間、と直線での加速!あれが勝負所になる。だから、周回できるコースにしたい」
半分嘘だ。思いついたわけではなく、前世の記憶から第1ターンマークでの勝負が熱いのが分かっているのだ。みんなあの瞬間に最も注目していると言っても過言ではない。あそこでまず1回歓声。悲鳴。
そのあとの展開でもう1~2回悲喜交々な奇声をあげるのが観客だ。だいぶ偏見もあるかもしれないが、金がかかっているせいか、応援に熱が入り、真剣に見ていると声が漏れてしまうのだ。
「なるほど……ターンがあると、技術の差も出るし、見てる方も楽しいかも」
ムウノスはすぐに思案顔になり、魔力を使い、指先で空中に図形を描き始めた。
「楕円か……障壁の形状は調整できるから、周回コースも作れると思う。」
マーカスも頷いた。
「俺は資金と人集めをやる。町の連中も乗ってくるだろう。あれだけ笑ってたんだ。次も見たいって言うさ」
僕は、濡れた服のまま椅子に座り、深く息を吐いた。
「じゃあ、始めよう。オルカヌーレース場、僕たちで作るんだ」
この世界の大きな湖の近くの町は男の子に~スと名前をつけがち




