#13 セリダ湾レース場
セリダ湾――異世界で最も狭く、波の反射と魔力の揺らぎが複雑に絡む競艇場。
水面は静かに揺れているが、誰もが知っている。この湾は、騎手の魔力感知と判断力を試す“魔の水面”だ。
スタンドには、競技の新しさに惹かれた若者たちや、魔導技術に興味を持つ市民たちが詰めかけていた。
皆、目を輝かせながら水面を見つめている。
「さあ、いよいよオルカヌーレースが始まります! 注目は1号・白ですが、スタート巧者の5号・黄のリオ選手がどう出るか!」
実況の声がスピーカーから響く。
ファンファーレが鳴り、オルカヌーたちがスタート位置に並ぶ。
リオは、黄のオルカヌーの背で静かに目を閉じていた。
黄金の髪が風に揺れ、金色の瞳が水面を睨む。
彼は計算していた。風速、波の周期、魔力の揺らぎ、他騎手の癖――すべてを頭の中で組み立てていた。
「スタートまで、5秒……」
魔導エンジンが唸る。
水面が震え、空気が張り詰める。
「スタートしました! 飛び出したのは5号・リオ! 完璧なタイミング! 他号を一気に置き去りにして、逃げの形を作った!」
「うわっ、黄が抜けた!」
「リオ、スタート速すぎるだろ!」
「魔力の流れ、完全に読んでる!」
「セリダで逃げ切る気か!?」
リオの黄のオルカヌーが、他の号を一気に引き離す。
波の反射をものともせず、魔力の揺らぎを切り裂くように進む。
「第1ターンマーク、リオが先頭で回る! 他号は追走の形! ターンの出口でさらに加速! これは逃げ切りの展開か!」
「ターン、滑らかすぎる!」
「黄、波に乗ってるぞ!」
「あの加速、魔法じゃねーのか!?」
「いや、あれは技術だ……!」
リオは笑っていた。
この湾の魔力の揺らぎは、一定の周期で反転する。
それを読んで、加速のタイミングをずらしていた。
「賭けるなら、勝てる目に張るだけさ」
彼はギャンブラーだった。だが、勝算のない賭けはしない。
「5号・リオ、独走状態! 魔のセリダ湾を読み切った走り! これは優勝にふさわしい!」
スタンドが揺れるような歓声。
観客たちは立ち上がり、手を叩き、叫ぶ。
「逃げろー! そのまま行け!」
「セリダの主になれぇぇぇ!」
「ハマナー湖の奴らに見せてやれ!」
第2ターンマーク。
リオは冷静に回る。
ターンの出口で加速し、他艇を引き離す。
「最終周回、リオが完全に抜けた! スタートから逃げ切り、ターンも完璧! これは文句なしの優勝!」
最後の直線。
水面を切り裂く音、魔導エンジンの唸り、スタンドの熱狂。
「ゴール! 1着は5号・リオ! 2着は1号! 3着は3号!」
「よっしゃああああああ!」
「リオ、かっこよすぎる!」
「セリダの魔力、完全攻略じゃん!」
「ハマナー湖に勝てるの、こいつしかいねぇ!」
拍手が広がる。歓声と感嘆が交錯する。
勝者の黄のオルカヌーが静かに戻ってくる。
その背に立つ騎手――黄金の髪が風に揺れ、金色の瞳が水面を見つめていた。
「俺は負けない」
水面には、勝負の余韻だけが残っていた。
そして、観客の心には――新たな英雄の名が刻まれた。




