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魔法生物で水上レース!〜異世界でボートレース始めました〜  作者: 吉良 鈴
緑の風、黄金の駆け引き

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32/35

#12 魔王

「エサは、あげすぎちゃダメだよ」


日焼けした研究者――カイさんは、オルカヌーの背を撫でながら言った。

「彼らは自分で獲れる。むしろ、甘やかすと動きが鈍くなる。湖の子もそうだったろ?」


「……確かに。気まぐれで来るし、乗せてくれるし……でも、世話ってそういうことじゃないんですね」

「そう。人間が“やってあげる”んじゃなくて、“見守る”んだ」


ミネスは頷いた。

カイさんの言葉は、どこか湖の風に似ていた。


「体調のチェックは、背びれの動きと尾の反応。魔力の流れが乱れてると、尾が重くなる。あと、目が濁るときは要注意」

「なるほど……」

「やっちゃいけないのは、無理に乗ろうとすること。彼らが乗せる気じゃないときは、絶対に拒む。無理に乗ると、湖でも海でも、振り落とされる」

「それは……経験あります」

「だろうな」


カイさんは笑った。

「スキンシップは、背びれの根元を軽く撫でると喜ぶ。尾の先を触るのは嫌がるから注意な」

「……背びれの根元、ですね。キューって鳴くの、あれ好きなんです」

「それなら、もう仲間だよ」


三日間、ミネスは港町の海辺でオルカヌーの世話を学んだ。

やることは多くない。けれど、知っているのと知らないのでは、距離がまるで違う。


夜は研究者たちと食事を共にした。

海の幸を囲みながら、魔法生物の話、湖の話、レースの話――話題は尽きなかった。


「ミネス、君の話は面白いな」

「いや、カイさんのフィールドワークの話の方が冒険譚みたいですよ」


笑い声が、潮風に溶けていった。




帰る日の朝。

ミネスは海辺に立っていた。

目印の浮きが並び、オルカヌーが水面に揃っている。


正規のレースとは違って色は適当だし、六体より多い八体でインコース四体、アウトコース四体に分かれてミネスを含めた八人の騎手が、それぞれの背に乗る。


「魔法障壁もない、観客席もない。あるのは、海と風と、浮きだけ」


ミネスは大外枠に位置取った。

内側は初心者に譲る。けれど――


「……スタート!」


水面が震えた。

ミネスの青が、完璧なタイミングで加速する。


第一ターン。

外から巻いて、膨らまずに切り込む。

加速。第二ターン。

水を裂くように、青が走る。


「速っ……!」


他の騎手が驚く間に、ミネスはすでに最終直線へ。

そのまま、大逃げでゴール。


「……え?」


誰もが呆然とする中、ミネスは振り返った。

そこには、目を輝かせた騎手たちの顔があった。


(心底、楽しかった。次は……勝つ!)

そんな声が、風に乗って聞こえてくるようだった。


ミネスは思わず、獰猛に笑った。


「いいね。次は……もっと速くなるよ」


その笑顔があまりに鋭く、あまりに楽しそうだったので――


「魔王だ……」

「魔王が海に現れた……」

「笑い方が魔王……!」


港町の人々は、ざわざわと囁き始めた。


「えっ、僕そんなつもりじゃ……」


「魔王、また来てくれよ!」

「魔王、次は負けないからな!」


「……うん、ありがとう?」




斯くして、ミネスは何事もなく湖の町に帰ってきた。

荷物を降ろし、青の背に手を添える。


「ただいま」


湖は静かに揺れていた。


(海、また行きたいな。湖とは違う風だった。広くて、塩っぽくて、でも……気持ちよかった)


ミネスは、空を見上げた。


(次は、湖の仲間を連れて行こう。海で、もう一度――走りたい)


風が、湖面を優しく撫でた。

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