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魔法生物で水上レース!〜異世界でボートレース始めました〜  作者: 吉良 鈴
緑の風、黄金の駆け引き

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31/35

#11 出会いの波

宿の食堂には、潮風がふわりと入り込んでいた。

夕暮れの光が窓辺を染め、テーブルには色とりどりの料理が並ぶ。


「お待ちどうさま!港町の味、たっぷり召し上がれ」


女将さんが笑顔で運んできたのは、豪快な一皿。

皿の中央には、甲殻が艶やかに輝くカニのような魔海獣――“シェルクラブ”が鎮座していた。

脚はしっかりと焼き色がつき、香草と魔導オイルで香ばしく仕上げられている。


周囲には、魔力を帯びた小魚“スパークフィッシュ”の香草ロースト、海藻と果実を合わせた冷製サラダ、魚介の旨味たっぷりのスープ、そしてパン屋のバゲットの薄切り。


「カニ……!」


ミネスは目を見開いた。

異世界でカニを食べる日が来るなんて。

前世で何度も食べた記憶が蘇り、思わずよだれが垂れそうになる。


「いただきます!」


脚を一本手に取り、殻を割る。

中から現れた身は、ぷりっとしていて、ほんのり魔力の光を帯びていた。

口に運ぶと、甘みと香ばしさが広がり、鼻に抜ける海の香りがたまらない。


「うまい! うますぎる!」


ミネスは思わず椅子から立ち上がりそうになる。

スパークフィッシュは、皮がパリッと焼かれ、身はふわふわ。

香草の香りが爽やかで、バゲットに乗せて食べると絶妙な塩気が広がった。スープは魚介の旨味がたっぷりで海を感じる一品。ミネスは海を最後の一滴まで飲み干した。


「ミネスさんのおかげで、他のお客さんの料理も豪華になったよ」

女将さんが笑う。


「えっ?」

「市場であれだけ貰ってきたら、そりゃね。みんな喜んでるよ」


食堂の隅では、他の客たちが笑顔で食事をしていた。

「兄ちゃん、ありがとな!」

「これが美味いんだよなぁ」

「また来てくれよ!」


ミネスは照れくさそうに笑いながら、最後の一口を口に運んだ。



翌朝。

ミネスは魔法生物学者の研究所へ向かった。

港の外れにある、白い石造りの建物。

扉を叩くと、眼鏡をかけた職員が出てきた。


「すみません、ミネスと申します。オルカヌーの世話について学びたくて……領主からもお話が通っているかと思うのですが」

「領主からそんな話は聞いていませんが?」

「え……?」


ミネスは言葉を失った。

領主に伝え忘れたナディアが慌てて手紙を送り、まだ届いていないのだ。ちなみにミネスはそれを知らない。


(まただ……前にも、領主にオルカヌーレースを認めてもらうとき、こんな感じだったよなぁ……)


職員は申し訳なさそうに頭を下げたが、話は進まなかった。


ミネスはショボショボと歩き、その足は自然と海岸へ向かっていた。

砂の感触が心地よく、前世ではあまり海に行く機会がなかったことを思い出す。


(……こっちの海の方が、きれいだな)


波は穏やかで、空は広く、潮の香りが心をほどいていく。


そのとき――


「ぷかーっ」


水面に、見慣れたシルエットが浮かび上がった。

オルカヌーだ。海に生息する個体だろうか。


「……乗せてもらえるかな」


ミネスは靴を脱ぎ、濡れることも構わず水辺へ近づいた。

オルカヌーも、キューと鳴いて尾を振りながら寄ってくる。


「ありがとう。ちょっとだけ、癒されたいんだ」


背に乗ると、オルカヌーはゆっくりと水面を滑り始めた。

海は広く、陽光が水面をきらめかせる。

風が頬を撫で、水の冷たさが心地よい。


ときどき、オルカヌーが加速する。

水しぶきが跳ね、ミネスの髪が風に舞う。


「わっ、速っ! でも僕は乗り慣れてるよ!」


ぷかぷかと漂う時間も、ただただ幸せだった。

地元の人が浜辺から手を振ってくる。


「いいぞー! 回ってくれー!」


ミネスが加速したまま旋回すると、歓声が上がる。


「すげー!何者だよ!?」


(……この世界、やっぱり好きだな)


しばらくして、そろそろ降りようかと思ったそのとき。


「おーい、そこのオルカヌーに乗ってる人ー!」


浜辺に、二人の男が立っていた。

ひとりは真っ白な肌に眼鏡。もうひとりは程よく日焼けした細身の男。

(この町であの肌の白さは珍しいな……)

ミネスはオルカヌーに誘導してもらい、浜辺へ近づいた。


「こんにちは。何かご用ですか?」


眼鏡の男が微笑む。

「君の乗り方、興味深かった。私は魔法生物全般の研究者で、彼は海洋生物の専門家。フィールドワークでよく海に出てるんだ」


日焼けした男が頷く。

「オルカヌーの動き、よく見てるな。君、何者だ?」

「僕はミネス。湖の町でオルカヌーレースをやってます。今は、オルカヌーの世話について学びたくてこの街へ来ました。」

「ふっ、それなら俺が教えよう!海のオルカヌーは基本は同じだ!!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


眼鏡の男も笑う。

「君のような若者が、魔法生物に興味を持ってくれるのは嬉しいよ。ナディア嬢の紹介なら、なおさらね」


時間差はあったがナディアの手紙が届いていた。

ミネスは、ようやく風向きが変わった気がした。

めっちゃカニ食べたい

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