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魔法生物で水上レース!〜異世界でボートレース始めました〜  作者: 吉良 鈴
緑の風、黄金の駆け引き

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#9 嵐と旅のはじまり

湖畔の朝は、静かに始まった。

ミネスは青のオルカヌーに乗り、湖面を滑っていた。

水の抵抗を感じながら、騎手候補生たちに声を飛ばす。


「次、赤に乗る組! 背びれの位置、確認して! 足はくぼみに、重心は低く! ターンは外に膨らまないように、内側の手で引いて!」


水面では、騎手候補生たちが真剣な表情でオルカヌーに乗り込んでいた。

緑のオルカヌーに乗った少年が、少しバランスを崩す。


「焦らないで! オルカヌーの動きに合わせて、体を預ける! 無理に制御しようとしない!」


「はいっ!」


湖面に響く返事。

ミネスは満足げに頷き、青の背から降りると、岸辺にいたナディアのもとへ向かった。


「お疲れさまです、ナディアさん。緑、今日は機嫌良さそうですね」


「ええ、でも……」

ナディアは少しだけ表情を曇らせた。

「実際、レースに勝ってもまだ何も解決していませんわよね?」


ミネスはその言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けた。

(えっ……勝ったのに……解決してない……だと!?)


漫画やアニメなら、勝利の瞬間にすべてが終わる。

敵は改心し、世界は平和になり、エンディングテーマが流れる。

でも、現実は――違うらしい!

そりゃそうか!


「うーんうん……」

ミネスは唸った。

(闇討ち……いや、こっそり夜に忍び込んで……)

いや、ダメだろう。


ナディアは続ける。

「ミネスの側で手の打ちようがないでしょうから、ここはレースに勝ったことや今までの実績を盾にして、父に政治的な手を打ってもらいます」


「……お願いします!!」

ミネスは即答した。満面の笑顔で、両手を合わせてお願いした。


---


ナディア視点


領主館の応接室。

ナディアは父・パドール・レイグランの前に座っていた。


「よくやったな、ナディア。緑の走りは見事だった」

「ありがとうございます、お父様」


しばし雑談が続く。

湖畔の祭りの話、屋台の評判、魔導楽団の演奏の出来。


「それで、お願いがあるのです」

ナディアは姿勢を正す。

「今回のレースの結果を踏まえて、魔法ギルドへの牽制を政治的に進めていただきたいのです」


パドールはナディアからそんな話をしてくるとは思わず少し驚いたように眉を上げたが、これも娘の成長なのだと嬉しくなり、すぐに頷いた。

「……そうだな。今回の勝利は領地にとって大きな意味がある。よし、動こう」


ナディアは安堵した。

そのまま、親子の穏やかな雑談が続く。


「ところで、オルカヌーも馬と同じで世話があるんだろう? 緑は何が好きなんだ?」

「え……分かりません。ミネスが担当しているのでは?」

「ミネスが世話しているところ、見たことあるか?」

「……ないですね」

「それでは、オルカヌーはただの野生の魔獣ではないか」

「そんなことありません! オルカヌーは可愛いし、速いです!」

「速さだけなら馬も負けていない。馬は高貴だ。血統もある」

「オルカヌーだって、湖の精霊みたいなものです!」

「馬は人と共に歴史を築いてきた。オルカヌーはただの水の獣だ」

「もう!お父様なんか、知らないわ!!」


ナディアは立ち上がり、ぷりぷり怒って部屋を出ていった。

娘は難しい年頃だった。


---


ミネス視点


湖畔では、騎手候補生たちが真剣に練習を続けていた。

赤の騎手がターンで膨らみすぎて水を浴びる。

黒の騎手が直線で加速しすぎて、青の背にぶつかりそうになる。


「落ち着いて! 周囲を見て! オルカヌーは君だけのものじゃない!」


ミネスは青の背に乗りながら、ぷかぷかと湖面を漂っていた。

(ナディアに任せれば安心だな……)


そのとき、岸辺から怒りのオーラを纏ったナディアが戻ってきた。


「聞いてください!ミネス!お父様が〜!!!!」


ミネスは慌てて姿勢を正す。

(これは……怒らせたらまずい……)

いや、もうなんか怒っている。


「はい、なるほど、そうですね、わかります……」

ナディアは一気に話し終えると、ふと何かを思い出したように言った。

「ところで、ミネス。オルカヌーの世話は誰がしているのです?」

「えっ……いや……自然に来て、乗せてくれて、満足したら帰るから……」

「つまり、誰も世話していない?」

「いやー、今日も練習するのにいつも足りて……いや、今日は2艇ほど足りてないけど交代で練習したらいいからいい感じだよ」


「2艇? 2匹ではなく?」

「……」

「ミネス、あなた、オルカヌーをただの乗り物だと思っていません?」

「アッ、いや……はい」

「乗り物でも、メンテナンスは必要でしょう?」

「……はい」


ミネスは固まった。

今までの扱いが雑すぎたことに気づき、深く反省した。

「これからは、オルカヌーの世話が必要です。騎手一人ひとりが世話できるように、まず指導者であるミネスがやり方を学ぶべきです!」

「はい……」

「では、世話について知っている人物を探してきます!」

ナディアはまたぷりぷりしながらどこかへ走っていった。


ミネスはため息をつき、青の背を撫でた。

「なんかご褒美とかあげるからね。今までごめんよ」

オルカヌーは嬉しそうにキューと鳴き、目を細めた。

(今日のナディアは、穏やかな風じゃなくて嵐だったな……)


---


数日後。

ミネスは旅支度を整えていた。

ナディアの手配で、領都にいる魔法生物研究者に話を聞きに行くことになったのだ。


馬車に乗り込み、意気揚々と出発するミネス。


「行ってきまーす!」


馬車が見えなくなったころ、見送りを終えたナディアがぽつりと呟いた。

「あ……お父様と喧嘩中で、ミネスが話を聞きに行くってこと、先方に伝えてもらうの忘れたわ……」

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