#7 領地対抗レース・前編
魔道障壁に包まれた湖面に、六艇のオルカヌーが並ぶ。
領地対抗レース――各地の代表騎手が集う、格式ある公式戦の幕が上がる。
「さあ、スタート展示です! 各騎手のタイミングに注目!」
1枠・白、2枠・黒、3枠・赤、5枠・黄――魔道ギルドや他領と結託した騎手たち。
4枠・青はミネス。6枠・緑はナディア。青と緑以外は、今回のレースでミネスを潰すために仕組まれた敵だ。
各騎手がスタートラインを狙って加速する。
白はぴたりと合わせて加速。黒はやや早め。赤は鋭く通過。黄は控えめな立ち上がり。緑は慎重。
そして――青のミネスは、わずかに遅れた。
展示タイムが記録石に刻まれる。
白:0.08、黒:0.09、赤:0.08、青:0.14、黄:0.12、緑:0.13
「青のミネス、今回はやや遅れ気味。体調が心配されますね」
続いて周回展示。
騎手たちは一周を使い、湖の風と波を確かめる。北西の風、波はやや荒れ気味。
白は内を守るように丁寧な旋回。黒は外から煽る軌道。赤は直線で突き抜けるがターンで膨らむ。
黄は逃げの構えを維持。緑は切れ味のある差し。
そして青――ターンで膨らみ、加速も鈍い。ミネスの手綱が、わずかに震えている。
「青、ターン後の加速が伸びません! ミネス、体調の影響か!?」
観客席では、魔道券を握る手が迷いを見せる。
「今回は他領の騎手ばかりだし、青と緑は厳しいかもな」
「でも緑の差しは鋭い。展開次第では……」
「青は展示タイムも悪かったし、今回は見送りか」
「いや、ミネスは本番に強い。差しに賭ける!」
「投票締め切りました!まもなくレースが始まります!」
ファンファーレが鳴る。
湖西の楽団が奏でる旋律が、空気を震わせる。
ミネスは手綱を握りながら、深く息を吐いた。
視界が揺れる。昨夜からの微熱が、まだ抜けきっていない。
展示の遅れも、周回の膨らみも、すべて自覚していた。
「……集中。ここで崩れたら、全部終わり」
スタート枠は4枠・青。アウトコースからの差しが狙いだ。
湖畔の大時計が、カウントを始める。
「5……4……3……」
オルカヌーが加速する。水面が震える。
「2……1……スタートォォォ!!」
全艇、完璧なタイミングでスタートラインを超えた。
インコースの白・黒・赤が一斉に前へ出る。
黄は控えめに追走。緑は冷静に位置を取る。
青のミネスは、やや遅れて後方から差しの構え。
第一ターンマーク。白が先頭で回る。黒と赤が外に膨らみながら競り合う。
黄が内に寄せてくる。緑が差しにかかる。青は、まだ後方。
第二ターン。白が逃げる。黒が煽る。赤が外から巻く。黄が内を塞ぐ。
青は、差しにかかろうとした瞬間――
水面が揺れた。
「……っ!?」
魔力干渉。敵騎手が仕込んだ罠だ。
ミネスはすぐに異変を察知する。
(魔力の流れが……乱れてる? いや、これは……)
湖底に設置された魔導石が、特定の魔力波長に干渉するよう調整されている。
青枠のオルカヌーが使う魔力制御にだけ反応し、進路をわずかに逸らすように設計されているのだ。
(私の魔力にだけ反応するように、波長を絞ってある……!)
さらに、ターンマーク付近の水流が不自然に乱れている。
(魔力で水流を操作してる……! ターンの外側に引っ張るように……)
ミネスは手綱を引き直すが、体が重い。魔力の流れが鈍い。
視界が霞み、集中力が削がれていく。
(展示のときも、周回のときも……罠はすでに作動してた。でも、今はもっと強くなってる。)
敵騎手たちは余裕の笑みを浮かべる。
白が逃げ、黒と赤が競り合い、黄が内を塞ぎ……完全に第二ターンマークの焼き直しだ。
そして青は、完全に包囲されていた。
そのとき――
水面を切り裂くように、後方から猛烈な加速で迫る影。
「なっ……誰だ!?」
実況が叫ぶ。
「後方から、信じられない加速で接近する騎手がいます! あれは……!」
ハニーブロンドの髪が風に舞う。鋭い眼差しが前方を捉える。
その騎手の名は――ナディア。
どうしようミネスが負けちゃう!




