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魔法生物で水上レース!〜異世界でボートレース始めました〜  作者: 吉良 鈴
緑の風、黄金の駆け引き

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#4 資料と違和感

天井の染みが、よく見える。

雨漏りを直したばかりの場所だ。魔道具で補修したはずなのに、まだ少し色が残っている。

……いや、こんなことを気にしている場合じゃない。


僕は布団の中で上体を起こした。

体はまだ重い。喉も少し痛む。けれど、枕元に積まれた資料が目に入ると、自然と手が伸びていた。


一番上にあったのは、ナディアが指導している様子をまとめた報告書。

レイグラン家のメイドが丁寧に記録してくれたらしい。筆跡も整っていて、要点が簡潔にまとまっている。

「騎手間の衝突あり。ナディア様、冷静に対処。緑のオルカヌー、指示に反応良好」

……すごいな。僕がいなくても、ちゃんと動いてる。


その下には、出店許可証の控え、ファンファーレの譜面、魔道具の設計図、騎手の訓練進捗表、魔道券売機の調整報告……

どれも、兄のマーカスと弟のムウノスが僕の様子を見がてらここで軽く仕事をし、置いていったものだろう。


ここは物置ではないぞ……!


でも、ありがたい。

資料に目を通すだけで、町が動いているのが分かる。

僕が倒れている間も、誰かが支えてくれていた。


「ミネスがいないと」

「ミネス兄、ここは」

「ミネス」

「ミネス」……


僕の名前が、資料の端々に書かれている。

誰かが僕を頼ってくれている。

誰かが僕の代わりに、僕の仕事をしてくれている。


……でも、やっぱり僕がやらないといけないことが、山積みなんだ。


騎手のデータ。

ナディアの報告書の中に、気になる記述があった。

赤と黒の騎手――昨日衝突していた二人。負けん気が強くて危ういけど、勝負の世界では悪くない。

でも、白のオルカヌーも気になった。もともと従順な個体だけど、従順すぎるような……。

違和感。気のせいかもしれない。熱に浮かされているせいかもしれない。

でも、気になる。


「一旦、湖まで見に行こう」


湖畔は、朝の光に包まれていた。

風は穏やかで、水面は鏡のように静か。

その中で、ナディアの声が響いていた。


「次、白のオルカヌー。騎手は姿勢を意識して。従順だからこそ、指示の精度が問われます」


僕は物陰からそっと様子を見ていた。

誰かに見つかれば、部屋へ連れ戻されるだろう。だから、こっそり。


赤と黒の騎手は、互いに意識しすぎて動きが硬い。

でも、勝負の世界では、そういう負けん気も悪くない。

白は……やっぱり、気になる。

従順すぎるんだ。あれでは、まるで……


深く思考をしようとしたそのとき、視界にノイズが走る。

魔道券売機の周囲に、妙な集団がいるのだ。


フードを深く被った者たちが、券売機の裏側に集まっている。

ちょうど集団で隠れていて、何をしているのか見えない。

……あれは、魔法ギルドの紋章?


僕はそっと近づいた。

耳を澄ませると、低い声が聞こえる。


「……この魔道機、干渉できるか?」

「制御盤は旧式だ。魔力の流れを逆転させれば、票の記録を操作できる」

「観客の魔力反応を誘導すれば、人気騎手の順位も……」


……何を言ってるんだ?


「ちょっと、何してるんですか!」

思わず声を出してしまった。


集団が一斉にこちらを振り向く。

その中の一人が、僕を見て目を細めた。


「……そこの平民。まだ寝ているはずでは?」

「どうやらのんびり寝てもいられない状況でしたので。魔道券売機に何か細工しようとしてましたね?」

「これはギルドの正式な調査です。魔道機の安全性を確認しているだけです」

「なら、町の運営者に報告してからやるべきでしょう。勝手に触るのは規則違反です」


「……あなたが倒れていた間に、規則も少し変わったかもしれませんよ?」


その言葉に、背筋が冷えた。

ギルドが何かを企んでいる。

魔道券売機を操作して、レースの人気や結果に干渉するつもりか?


「ナディア!」

僕は湖畔に向かって叫んだ。


彼女が振り返る。

騎手たちも動きを止める。


「魔道券売機の周り、囲んで! 誰も近づけないように!」


ナディアはすぐに状況を察し、騎手たちに指示を出した。

赤と黒が先に動き、白が静かに位置につく。


魔法ギルドの集団は、舌打ちをして後退した。

「……今回は引きます。ですが、調査は続けますよ」

「どうぞ。ぜひ、正規の手順で。」

僕は真顔で返した。


集団が去ったあと、ナディアが駆け寄ってきた。

「ミネス、無理しないでって言ったのに……」

「ごめん。でも、来てよかった。あれは……放っておけなかった」


ナディアは少しだけ笑ったあとに真面目な顔を作ると僕の肩を支えた。

「今はちゃんと休むのがミネスの仕事です!」


僕は苦笑して頷いた。

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