#12 湖畔の再会
ムウが作ってくれた資料を抱えて、僕は領主邸の門の前に立っていた。
「すみません、領主様にお話が……」
門番は眉ひとつ動かさず、首を横に振った。
「アポのない訪問は受け付けておりません。お引き取りを」
「でも、これを見ていただければ……!」
資料を差し出す僕に、門番は一歩前に出て、静かに言った。
「平民が勝手に湖を使って騒ぎを起こしていると、すでに報告は上がっています。これ以上の無断行動は、処罰の対象になりますよ」
……そりゃそうだ。
ただの平民が、湖に魔道障壁を張ってレース場を作って、賭けまで始めようとしてるんだ。
アポなしで突撃したって、話を聞いてくれるはずがない。
僕は資料を抱えたまま、トボトボと湖畔へ戻った。
夕暮れの光が水面に反射して、青いオルカヌーが静かに浮かんでいる。
「……どうしようかな」
そのとき、湖のほとりに立つ人影が目に入った。
あのときの、お嬢さん――緑のオルカヌーに乗ってくれた、あの貴族の少女だ。
彼女は湖を見つめていた。風に揺れる髪が、夕陽に照らされて金色に輝いている。
僕は、少しだけ迷ってから声をかけた。
「ねぇ、またオルカヌーに乗ってみない?」
彼女は振り向かずに言った。
「……もう私が貴族だって分かってるんでしょう?」
「うん。でも、今は騎手としてお願いしてるんだ。今度はぐるっと周回するんだよ。試運転してるんだ。もちろん、魔法は禁止でね」
彼女はくすくすと笑った。
「しょうがないわね。私も魔法を使ったし、少しは手伝ってあげる」
僕は青に、彼女は緑に乗って、湖面を滑った。
夕暮れの湖を、2艇のオルカヌーが並んで走る。
魔法も、貴族も、平民も関係ない。ただ、風と水と、オルカヌーの鼓動だけがそこにあった。
暗くなるまで、何度も周回した。
彼女は笑っていた。僕も、少しだけ泣きそうだった。
そうしているうちに、湖畔に馬車が止まった。
迎えが来たようだ。降りてきたのは、彼女の妹とメイド。
僕は、ようやく気づいた。
「……領主の娘、だったんだね」
彼女は少しだけ困ったように笑った。
彼女は領主一家、レイグラン家の長女、ナディア・レイグラン。
「そうよ。でも、今は騎手として乗ってたの。それだけは、忘れないで」
僕は頷いた。それでも、覚悟を決めて口を開く。
「じゃあ、騎手として――もう少しだけ、僕の話を聞いてくれない?」
彼女は妹とメイドに目配せをして、静かに言った。
「……話して。私も騎手ですもの。」
領主邸の応接間は、静かだった。
壁には古い地図と、湖の絵。
窓の外には、ミネスが整備した桟橋が小さく見える。
ミネスは、資料を胸に抱えて立っていた。
その向かいに座るのは、領主、パドール・レイグラン。
重厚な椅子に腰掛け、腕を組んでナディアを見ている。
「……随分、遅かったなナディア。」
ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、らんらんらん♪ってめちゃくちゃ語感がいいですよね
口に出して言いたくなる




