#10 試運転と空席
湖面に浮かぶ楕円の魔道障壁。その内側に設けられたスタートラインへ、青のオルカヌーが滑るように進み出す。
「……よし、魔道障壁の反応は安定してる。観覧席の浮力も問題なし」
僕はオルカヌーの背に乗りながら、周囲を見渡した。ムウノスが湖畔で魔力を操作し、記録石の反応を確認している。
「ムウ、スタートラインで判定しているの魔道具からの魔力転送、少し遅れてない?」 「うん、0.3秒ほどラグがある。記録石の同期を調整する。」
湖上を一周し、仮設のゴールラインを通過したところで、僕はオルカヌーを岸に寄せた。ムウノスが手元の魔道盤に図形を描きながら言う。
「魔道券売機の方も、順位記録の魔力反応は良好。あとは実戦での負荷テストが必要」
「……実戦か。そうだ、他の騎手にも試してもらった方がいいかも」
ふと、僕は思いついた。僕ひとりの感覚だけじゃ、改善点は見つけきれない。他の騎手たちにも乗ってもらって、意見を聞きたい。それに周回するように変更したから練習も必要だ。
「兄さんに相談してみよう」
町で各商店と打ち合わせをしていた兄を発見。そして、兄は僕の申し出に眉をひそめた。
「俺?乗らないよ」
「えっ……でも、前に乗ったとき楽しそうだったじゃん」
マーカスは苦笑した。
「楽しかったよ。でも今は商売が優先だ。俺が抜けたら、誰が全体を指揮するんだ?屋台の配置、実況の段取り、魔道券売機の運用……全部俺が見てるんだぞ」
言われてみればその通りだった。兄がいなければ、イベントそのものが回らない。
くっ……!兄が万能キャラなばっかりに!
「じ、じゃあ、他の人に……貴族の二人は?」
「さっきまでいたけど、今はどこかに行った。連絡も取れない」
「パン屋と釣り人は?」
「店の手伝いで手一杯だってさ。家族総出で準備するから、抜けられないって」
僕は言葉を失った。
乗り手が……いない。
せっかくレース場が完成したのに、試運転すらできないなんて。
「……どうしよう」
そのとき、兄がぽつりと呟いた。
「それに、イベントの日はもう決まってる。ちょうど、ひと月後だ。今さら延期なんてできないぞ」
僕は湖面を見渡した。
青のオルカヌーが、静かに浮かんでいる。
まるで、次の乗り手を待っているかのように。
焦りが胸を締めつける。
兄も弟も、それぞれの役割を果たしている。僕も、何……とか。
このままじゃ、レースが始まらない。
兄のマーカスは焦げ茶っぽい髪色に暗めの青い瞳、ミネスは黒髪に見えるけど陽の光に当たると茶色っぽく見える髪色で明るくて鮮明な青い瞳、弟のムウノスは三兄弟の中で一番明るい茶髪でマーカスに近い暗めの青い瞳。
顔の造形は三兄弟で似ていてかわいいですね




