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01:それは遠い誰かとの記憶

これは夢で見た内容を元に、調整して物語にしたものです。

なんとなくずっと覚えていて忘れない夢って不思議ですよね。

 ふと気が付くと、中世風の街並みに立っていた。その場所は見知らぬ土地のはずだが何故か懐かしさを感じる。その理由を青年は知らない。

 青年は当てもなく歩いていく。

 時刻は昼過ぎ。呼び込みをする宿波の店主、露店で売られる串焼きや揚げた何かの食べ物の香りが腹の音を鳴らせた。夢だというのに。

 だが残念なことに彼は金を一切持っていない。所持しているものはなく、元の世界の自分の服装のままだった。そう、寝間着である。

 とはいえ、そんな見るからに世界観に合わない怪しい格好をしてる青年を周囲の誰もが気にしていない。普通の服にでも見えているのかもしれない。

 適当にぶらついていると青年を呼び止める声がする。振り向くとそこには茶髪でボブぐらいの髪の長さの少女が立っていた。久しぶりに会う旧友……いや、もっと深い繋がりの誰かであるような気がするが青年は彼女を思い出すことはできなかった。なぜだか、胸が締め付けられる気すら感じている。

「はは、変わらないね? そっちでもやっぱりそういう感じに育っているんだね。ふふ、いいよ。ここにいるってことは終わったのかな? ほら、こっちに来て」

 その少女に手を引かれ、青年は階段を上がっていく。いくつもの高い塔が合わさったかのような白の中へと通される。兵士が道を守っているが彼らは少女に頭を下げて礼をしていた。その様子から少女の立場がきっとただならぬものであるように青年は感じたが……なぜかそれを知っている、まるでそういう光景をかつて、毎日見たことがあったかのように。

 玉座の間に着くと王座に座った王様らしい人物が少女を笑いながら出迎える。見た目的にはいかつい王様であったが少女に接する姿は娘想いの父親そのものだった。

「おお、連れて参ったか。長旅、ご苦労だった。では結婚前に神託を。それが習わしだからな」

「ええ。元より――はそのつもりよね?」

 青年の名を少女が呼ぶが、それは知らない言語のようで聞き取れても意味も発音すらよくわからない。だが、それは自分の名であることだけが青年にはわかっていた。

 地図のような板の前に立ち、少女と青年は手を繋いで目を閉じる。穏やかな光が溢れ二人を包み込むと地図の上に小さな一軒家が現れる。その周囲を数名の子供が走り回っているようだ。

 それを見た王様は拍手しながら笑っている。いつの間にか目を開けていた少女も恥ずかしそうに照れ笑いをしていた。その笑顔に青年は見覚えがあった。どこか、遠い昔。見たような記憶がある……そんな気だけがしている。だがそれと同時に、彼の現実世界に残された別の少女……現実世界の彼女の姿がちらつく。

 そうとも知らずに王は結婚の話を進めていった。そうなることが元から決まっていたかのように。

「はっはっは、幸せは神が約束してくれたぞ! これで我が王家は安泰だな! さあさあ、お前たちも明日からは忙しくなるぞ。今日は今の内に休んでおけ」

「そうさせてもらうわね、お父様。それじゃ――も一緒に来て。私の部屋に」

 少女に連れられるがままに玉座の間を後にし、青年は少女の部屋に向かった……筈だったが、少女は城を出て何故か城下町へと向かっている。

「なあ、戻らなくっていいのか? お義父さんはのことは?」

「いいの。だって……まだその時じゃないのがわかるから。あなたの顔を見ればわかるわ。どれだけ長い付き合いだと思ってるの? ふふ、隠しごとは相変わらず苦手なのね。それとも鈍感なだけかしら」

 手を引かれるままに酒場に連れていかれ、奥の個室に通されると少女は青年の前に座った。青年も椅子に腰かける。そしてほぼ同時に同じ言葉を口に出す。

「俺は戻らないといけない。あいつの所へ」

「俺は戻らないといけない。あいつの所へ」

 同じ言葉を口に出したことに青年は驚いたような表情を見せた。少女はくすくすと笑っている。

「わかるわ。あなたのことだもの、途中で投げ出すのは性に合わないんでしょう? あなたは、まだあの子を救っていない。だから戻りたい。そんな感じで合ってるかしら」

 青年は何も言わずにしっかりと頷いた。脳裏にはすやすやと眠っている現実世界の彼女の顔が思い浮かんでいる。それはどことなく、目の前の少女に面影が似ていた。

「だが戻れるのか? こっちに来てもう時間が経っているんだぞ。もう、あっちには……」

「いやいや、戻れるぞ。今ならだが。どうする? 戻るなら今しかないぞ?」

 いつの間にか背後に中年の背の高い男がいたようだ。青年は壁に背を預けるその男を知っている気がしたが……やはりその名前を思い出すことはできない。男はそれに気づいたようで面白い事態だ、とでも言いたげにニタニタと笑っている。

「はは、俺の名前すら出ないんだ。早とちりの王様には悪いが……まだ時期じゃない。いいぜ、送ってやるよ。この俺様がな」

「間に合うのか?」

 なぜそう言ったかわからないが、青年は彼でも間に合わないかも知れないと心配しているようだ。青年の心は残してきた彼女が戻れないと泣いてしまうのではないかと、漠然とした不安に駆られている。

 そんな不安を払拭するように男は青年と肩を組み、豪快に笑った。この笑顔を青年は知っている。幾度となく、救われた笑顔だ。

「おいおい、俺を誰だと思ってやがる! 甘く見るんじゃねえよ。ははは、それじゃ姫さん、こいつ連れてくぞ」

「ええ、問題ないわ。きっとまた会えるから。こっちと向こうでは時間の流れが違うもの。それじゃあ、こういうの変だけど……元気でね?」

 その言葉を最後に世界が白くなって……青年は夢から覚めた。


 そこはいつもの部屋。

 変わらない天井と壁。

 隣にはいつもと変わらず、寝息を立てている彼女がいる。

 もうおぼろげにしか思い出せない、夢の中の少女。

 彼女と似たその少女のいつかの言葉がただ、ただ彼に強く刻み込まれていた。

「いつか、きっとまた会えるから。私は待っているの……いつまでも。そう、いつまでも。あなたが巡って、巡って、巡り終えて……帰ってくる、そんな日を」

 それは遠い日の約束。

 見知らぬ世界で交わした、少女との約束。

 青年は少女とは違う世界で生きていく。隣ですやすやと眠っている少女に似た彼女を救う為に。彼女を救った時、青年はあの世界に帰るのだろうか。

 それとも、また別の誰かを救いに行くのだろうか。

 それは誰にもわからない。

 全ては……時だけが知っている。

こんな感じで夢で物語を見たら、残していこうと思います。

いつかまとめて一つの話になったら……面白いかもですね。

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