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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第7章 夢の中の男の子

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押し倒されて


「お嬢様が悪いんですよ。俺の言うこと聞かないから──」


 そういって、更には距離をつめてきた執事に、結月は困惑する。


 この体勢は、明らかにマズイ。だが、冗談ではないと言われつつも、やはり本気とは思えなかった。


 軽く嫌がらせやイタズラはされたことはあっても、この執事は、本気で嫌がるようなことはしてこない。


 だが、気になるのは、醸し出すその雰囲気が、明らかに、いつもとは違うと言うこと──


(……もしかして、怒ってる?)


 何となく、そんな気がして、結月は青ざめた。


 もしかしたら、わがままを言ったせいで、怒らせてしまったのかもしれない。


「お嬢様」

「っ……」


 瞬間、押さえつけられた腕に、更に力がこもると、見上げた先では、いつになく真剣な瞳と目が合った。


「病院に行く気にはなりましたか?」


「だ……だから、行かないって」


「では、宜しいのですね? このまま脱がしても」


「あッ……や! ダメに決まってるでしょ!? 大体、執事がこんなことしていいと……っ」


「何を仰っているのですか? これも全て、お嬢様の身を案じてのことです。主人が頭に痛みを訴えているのです。それを心配するのは、執事として当然かと」


「し、心配してるなら、精神面も心配もして! いくらなんでも無理やり着替えさせるなんて。それに、こんな体勢……っ」


「あー、押し倒されているのは、恥ずかしくて身が持ちませんか?」


「ッ分かってるなら、早く離れて! それに、私は絶対、病院には行か」


 ──ギシッ


「……ッ」


 瞬間、ベッドがキシリと音を立てると、執事との距離が更に縮まった。


「……ぁ、あの、五十嵐。さすがにこれ以上は……っ」


「なぜですか? 先程、抱きしめていた時は、もっと密着していたと思いますが」


「そ……それとこれとは、話が……っ」


「あぁ……そう言えば、前にお嬢様が読んでいた文庫本の中にも、今と似たようなシーンがありましたね」


「へ?」


「お嬢様の着替えを、執事が手伝うシーン」


「て、手伝うって……っ」


 その言葉に、結月は有栖川からかりた文庫本のことを思い出した。


 お嬢様と執事が恋をする、あの官能的な小説のことだ。


 だが、あの小説は、着替えを手伝うというよりは、手伝いながら、別のなにかが始まってしまったわけで……


「さて──」

「ひッ!?」


 だが、結月が思い出すや否や、執事は、容赦なく、結月の襟元に手をかけた。


 スカーフだけでなく、ついにはセーラー服まで脱がそうとする執事。それを見て、結月は蒼白する。


「ちょ、ちょっと! なに考えてるの!?」


「そうですね。もう直、朝食のお時間ですから、これ以上は待てないな~と」


 そう言って、ニコリと笑った執事は、時計に目配せながら答えた。


 まさか、本気で脱がす気なのだろうか?

 というか、さっきの文庫本のくだりは、何?


 先程、嫌がるようなことはしてこないだろうとタカをくくっていただけに、執事が何を考えているのか全くわからず、結月は困惑する。


 だが、そんな結月にレオは更に近づくと


「では、じっとしていてくださいね?」


「きゃぁぁぁぁ、やだやだやだ!? 待って!! ムリ! 絶っっ対ムリ!!!」


 何がムリなのかは知らないが、その後暴れだした結月は、これでもかも、執事に罵詈雑言の数々を叫びはじめた。


 それはもう『最低』やら『変態』や『犯罪者』やら耳に痛い言葉ばかり。


 だが、その後『はぁ……』とあまりにも深いため息をつくと、執事は、掴んでいた結月の服をあっさり離した。


「どうして、そこまで嫌がるのですか?」

「え?」


 どこか呆れたような声が返ってきて、結月は瞠目する。


 ど、どうしてって……


「な、なに言ってるの? 押し倒されて、無理やり脱がされそうになってるのよ? 普通は嫌がるでしょ? むしろ、なんで嫌がらないと思ったの?」


「あ。いや、そっちじゃなくて……」


 私がおかしいの?──と、軽蔑するような眼差しをむけられ、レオは更にため息をついた。


 無理も無い。レオが聞きたかったのは、脱がす脱がさないの話ではなく──


「病院」


「え?」


「どうして、そこまで病院に行くのを嫌がるのですか? 正直、これだけ追いつめれば、折れると思っておりました」


(っ……やっぱり、追いつめてたのね)


 予感的中──悔しいが、最近この執事のことがよく分かってきた。


 やっぱり、この執事は、こちらが本気で嫌がるようなことは絶対にしてこない。


 すると予想通り、執事は、結月の手をあっさり自由にしてくれた。


 未だに押し倒されたままだし、状況は何も変わらないが、いつもの雰囲気に戻った執事と、自由になった手を見てか、結月はホッと息をつく。


 だが、再び執事をみれば、先程まで真剣みを帯びていたその表情が、どこか悲しい色に変わっていた。


「お嬢様……」


「っ……なに?」


「私は、貴女の執事です。お嬢様が嫌だと仰っるなら、これ以上、無理強いすることは許されません。ですが、それでも私は、お嬢様のお身体が心配です。どうして、そんなにも、病院がお嫌いなのですか?」


「そ、それは……っ」

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