表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第6章 執事の休息

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/289

真相


 それから暫く、レオは帰り支度をし玄関に出ると、ルイに抱かれたルナの頭を撫でながら、柔らかく微笑む。


「じゃぁ、ルナのこと宜しく」

「うん。じゃぁ、また二週間後に」


 可愛い愛猫のことを再度ルイに託すと、その後、荷物と、庭先に咲いていたヤマユリの花を手にし、ルイの屋敷をあとにした。


 時刻は四時半──

 外に出れば、鮮やかな夕焼け空が広がっていた。


 オレンジから赤色に変わりはじめる空はとても美しく、その情緒溢れる景色に、思わずため息が漏れた。


(帰るか……)


 冠木門かぶきもんを通り抜け、レオはルイの家から立ち去ると、そのまま阿須加の屋敷を目指した。


 幼い頃通った道筋は、八年の歳月を経て僅かな変化を見せていた。


 通りには真新しい店が増え、見知った民家は空き家となり、公園に植えられていた桜の木は、前より少し大きくなっていた。


 たかだか八年。


 だが、その八年で世間も自分たちも、変わってしまったのだと実感する。



 ✣



 その後、暫く歩くと、住宅街の中に阿須加の屋敷が見えてきた。


 高い塀と青い屋根の西洋風の屋敷。


 日が沈み始める中、レオは門を開け中に入ると、ちょうど屋敷の中からでてきた人物に声をかけられた。


「五十嵐くん!」

「……!」


 その声に、下げていた視線を上げる。するとそこには、穏やかな表情で佇む初老の紳士の姿があった。


 それは数ヶ月前まで、共にこの屋敷で働いていた


「斎藤さん……」


 ──斎藤さいとう 源次郎げんじろうだった。





 ✣


 ✣


 ✣





「お嬢様、大丈夫ですか?」


 ソファーに腰掛け、赤くなった目元をハンカチで押さえる結月を見つめ、メイドの恵美が声をかけた。


 昼間、突然訪れた来客は、二ヶ月前に辞めてしまった運転手、斎藤 源次郎だった。


 結月にとっては、父のように慕っていた人。その斎藤が再び尋ねてきてくれたことに、結月は喜びのあまり涙を流していた。


「ありがとう、恵美さん……恵美さんは知ってたの? 斎藤の……奥様のこと」


「ぁ、はい……私達は、みんな知っていました」


 恵美が申し訳なさそうに、視線を落とす。


 斎藤が辞めた理由──それがやまいを患った妻のためだと言うことを、恵美を含む、矢野も冨樫もみんな知っていた。


 斎藤が辞めた日の朝、執事である五十嵐に


『斎藤さんは、急遽で退職することになりました。彼の行っていた業務は、全て私が引き継ぎますので……』


 そう告げられ、皆があっさりそれを納得したのも、斎藤が今年に入ってからずっと『仕事を辞めたい』と旦那様たちに掛け合っていたのを知っていたからだ。


「申し訳ありません、お嬢様。ずっと黙っていて……」


 隠していたことを恵美が素直に謝ると、結月は自分の前にかしずく恵美に向け、優しく微笑みかけた。


「いいのよ。責めてるわけじゃないの……斎藤が急に辞めたのは心配したけど、奥様が入院されたのなら、それも仕方のないことだし。何より、また斎藤に会えて、奥様が無事に退院されたと聞いて安心したわ」


「…………」


 ハンカチで涙を拭いながら、結月が笑うと、それを見て、恵美はきゅっと唇を噛み締めた。


 結月はずっと、斎藤を気をかけていた。


 そのうえ、両親から辞めたがっていたのは結月のせいなどと嘘をつかれ、不安すら抱いていた。


 だが……


(やっぱり、本当のことは伝えない方がいいよね……)


 知っていながら、誰もが結月にその真相を話そうとはしなかったのは、他でもない


『このことは、お嬢様には決して話さないように』


 それが、執事からの命令だったからだ──





 ✣


 ✣


 ✣

 



「斎藤さん……」


 屋敷の前で対面した斎藤を見つめ、レオは小さく声を発した。


 夕日が照らす中、二人視線が合わさると、斎藤は更にレオの前へと歩み寄ってきた。


「五十嵐くん、よかった。君にも、ちゃんとお礼を言いたいと思っていたんだ」


 そう言って笑みを浮かべる斎藤に、レオもまた顔を綻ばせる。


「お久しぶりです。いつ戻られたんですか?」


「昨日だよ。ずっとお嬢様のことが気がかりだったが、やっと会いに来れた」


 その様子を見れば、自分が不在中に訪れたのだろう。久しぶりに斎藤に会えて、喜ぶ結月の姿が目に浮かんだ。


 きっと安心したことだろう。

 結月はずっと、斎藤のことを気にかけていたから……


「あれから、奥様の容態はいかがですか?」


 すると、ふと気になっていたことをレオが問いかけた。


 レオが、そのことを知ったのは、三ヶ月前。阿須加家の執事として雇われ、まだ一週間もたたたない頃のことだった。


 その頃のレオは、屋敷の業務をよく斎藤から教わっていて、共に過ごす時間が長かった分、プライベートな話を聞くことも何度かあった。


 だが、それはレオが一人で、別邸に訪れた時、業務報告をするため、結月の父である洋介ようすけの部屋を尋ねた時のことだった。


「お願いします! どうか、早く辞めさせてください!!」


「?」


 扉をノックしようとした瞬間、中から聞こえてきたのは、斎藤の悲痛な声だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ