表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第5章 二人だけの秘密

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/289

親と子


「それでは、今から旦那様と奥様がいらっしゃいますので」


 午後二時──


 別邸から、結月の両親がこちらに向かっていることを確認したレオは、メイドの相原(あいはら) 恵美(めぐみ)とコックの冨樫(とがし) 愛理(あいり)に、このあとの段取りについて指示を出していた。


 外は、朝から変わらず雨だった。


 多少、雷は落ち着いてきたが、バケツをひっくり返したような雨は、容赦なく降り続いていて、いつもは明るいこの屋敷の中を、どんよりと暗いものに変えていた。


 まぁ、屋敷の中が暗いのは、雨だけのせいではないだろうが……


「ぅぅ……緊張する~」


 すると、レオの指示を受け、恵美が顔を青くしながら、自身の胃のあたりを押さえた。


 この屋敷には、あまり来客は訪れないからか、まだ経験の浅い恵美にとっては、結月の両親の前で粗相(そそう)しないか心配なようだった。


「大丈夫ですか、相原さん」


「大丈夫じゃないですよ~、五十嵐さん、なんでそんな落ち着いてるんですか!?」


「私は、別邸で何度も旦那様達に、お会いしていますので」


 恵美の問いかけに、レオが苦笑いで答える。だが、レオとて、この屋敷であの二人を迎えるのは初めてのこと。


 別邸のメイドに何度か確認して、両親の好みのデザートやお茶など、招く上で知っておくべき注意事項は色々と確認済みだが、自分たち使用人の失態は、同時に結月の印象を悪くする。


 この屋敷に来て、あの両親を怒らせることなく気持ちよく帰ってもらうためには、万全の体制で出迎えるのが筋というものだった。


「ちょっと、恵美、しっかりしなさい!」


 すると弱気な恵美を、隣にいた愛理が叱咤(しった)し、その背を叩く。


「痛いですよ~、愛理さん!」


「もっとシャキッとして。いつも通り落ち着いてやれば大丈夫だから。それに一番緊張してるのは、お嬢様なのよ。私たちがしっかりサポートしてあげなきゃ!」


「分かってますよ! でも、緊張するものはするんです!」


「…………」


 目の前の二人のやり取りを見て、レオは少しばかり頬を緩めた。


 みんな結月のために、今日、この日を無事に終えたいと思ってる。


 そして彼女達が、結月のことをこんなにも思ってくれるのも、これまで結月が、使用人達に誠実に接してきたからこそだろう。


「大丈夫ですよ、相原さん。なにかトラブルがあった時は、私がフォローしますから」


「うぅ、五十嵐さん~っ」


 ──コンコンコン


「五十嵐さん」


「……!」


 すると、そのタイミングで、今度は矢野(やの)が姿を現した。少し神妙な面持ちの矢野を見れば、その先の言葉は、自ずと理解出来た。


「旦那様たちが、いらっしゃいました」


 その言葉に、恵美と愛理が同時に息を呑み、レオが目を細める。


(……来たか)





 ✣


 ✣


 ✣



 ザ───


 その頃、結月は自室のカーテンを少しだけ開けて、外を眺めていた。


 強い雨が降る中、屋敷の外を見れば、一台の高級車が屋敷の中に入って来るのが見えた。


 両親が来たのだと分かると、結月は先程から、ずっと手にしていた、小さな『箱』を、きゅっと握りしめる。


(大丈夫……)


 こんな小さな『空っぽの箱』に、なんの期待を寄せているのかは、自分でも分からない。


 でも、それは、お守りでも握りしめるているかのように、結月の心を落ち着かせてくれた。


「……よし、行きましょう」


 不安げだった表情を一新して、再び窓の外を見据えた。


 この屋敷の『主人』として『来客』をもてなす。


 それが今日、自分が、なさなくてはならないことだから──






 ✣


 ✣


 ✣





「お父様、お母様、今日はわざわざ、御足労頂き、ありがとうございました」


 屋敷に訪れた両親を出迎え、応接室に通すと、広々としたソファーに腰掛けた両親を見つめ、結月が頭を下げた。


 親子でありながら、どこか他人行儀な挨拶に心の中で失笑しつつも、結月は、あくまでも毅然とした態度で接していた。


「全くだわ。結月が、進路がどうとかいいださなきゃ、こんな雨の日に、わざわざ来ることもなかったのに」


「…………」


 まるで「来たくなかった」とでも言うかのように、ソファーに深く腰掛けた結月の母──美結(みゆ)は、面倒くさそうに言葉を放つ。


 すると、そんな母親の態度に、結月の傍らに立つ執事が、心の中で呟く。


(なら、こなくてもよかったのに……)


 何より、始めはこちらが出向くと言っていたのに、来ると言い出したのはあっちだ。


 そちらの予定に合わせて動いているのだから、はっきり言って、愚痴を言われる筋合いはない。


「申し訳ありません。私の進路のことで、煩わせてしまって」


 だが、レオが憤懣(ふんまん)する中、結月は再度、頭を下げ、両親に謝罪した。


 こうして、親から不満をぶつけられることに、もう慣れてしまっているのだろう。


 その対応に、レオの心には、また両親への怒りがこみ上げてくる。


 これのどこが、親と子の姿だろうか?


 目の前に光景に苛立ちつつも、表情を変えず見守っていると、そんな美結を、洋介(ようすけ)がたしなめ始めた。


「まぁ、そう言うな、美結。私たちが来るといったんだ。結月も座りなさい。少し話をしよう」


「……はい」


 話を──その言葉に微かな不安が宿るも、結月は素直に従い、両親の向かいに腰掛けた。


 すると、そのタイミングで紅茶とデザートが運ばれてきて、先程「緊張する」と言っていた恵美が、難なくそれらを差し出すと、一礼したあと応接室から出ていった。


 応接室の中には、結月の両親と洋介の秘書である40代くらいの男が一人。


 そして、結月とレオの五人だけが残り、場の空気は、どこかひんやりとしていた。


 すると、差し出された紅茶を手に取り、洋介が結月に向かって、話しかけ始める。


「結月、お前、いくつになった」


「……18です」


「そうか、学校の方はどうだ?」


「はい。特に変わりはありません」


 洋介の質問に、結月は淡々と答えていく。

 そして、いくつか質問を繰り返したあと


「今は、斎藤(さいとう)のかわりに、五十嵐が運転手もしているそうだな」


「はい」


「なにも問題はないか?」


「……問題?」


 洋介の問いに、結月が首を傾げる。


「いや、私は反対したんだ。執事とはいえ、若い男を結月のそばに置くなんて……せっかく、ここまで育てたのに、また執事に手篭めにされでもしたら、たまらないからな」


「………」


 結月の前任の執事である羽田は、結月に恋心を抱いて解雇されている。


 そのことを言って「また」と言っているのだろう。レオを流し見ながら、そう言う洋介は、レオに釘をさしているようにも見えた。


(手篭め、ね……)


 まるで、手を出すなよと言わんばかりの重圧をひしひしと感じながらも、レオはあくまでもポーカーフェイスを貫く。


 だが、その心の中では、憤慨(ふんがい)と苛立ちが交差していた。


(育てた……なんて、よく言えたものだな)


 ほとんど、ほったらかしだったくせに、都合のいい時だけ、こうして『親』になる。


「あら、でも五十嵐は、なかなか優秀よ」


 だが、そこに母親の美結が口を挟んだ。


「それに、仕方ないじゃない。羽田を解雇した後、斎藤に任せたけど、やっぱり、ただの運転手じゃダメね。あんな年寄りに屋敷の総括は任せられなかったわ。その点、五十嵐は覚えも早いし、仕事も丁寧だし、現に斎藤が抜けた穴も難なく埋めてくれてるでしょ?」


「まぁ、そうだな。この屋敷はメイドばかりだから、男性の使用人が一人はいないと何かと大変だろう。五十嵐くんには、感謝してるよ」


 洋介が、再びレオに視線を移すと、レオは無言のまま頭を下げた。


「あの、お父様とお母様は、なぜ斎藤が辞めたのか、ご存知ありませんか?」


 すると、斎藤の話題が出たからか、結月が不安げにその言葉を口にする。きっと、結月は今でも斎藤のことを気にかけているのだろう。


 だが、洋介は──


「なんだ、結月は知らなかったのか」


「え?」


「斎藤はな、ずっと、辞めたがっていたんだよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ