甘さと苦さと
「ごめんね、五十嵐。結局、出してもらっちゃったわ……あと、飲み物も」
そよそよと風が吹く中、ベンチに腰掛けた結月は、レオに買ってもらった缶ジュースを飲みながら、ため息をついた。
スチール製の缶に入ったミルクティーは、近くの自販機で販売されていて、メロンパンと同じく、レオが買ってくれたものだ。
口に含めば、思いのほか冷たい、そのミルクティーは、とても甘くて、どこか優しい味がした。
「気にしなくていいですよ。それに、デートなんですから、もっと甘えてください」
結月の横に腰掛けると、レオも同じく自販機で買った缶コーヒーを開け、一口。
だが、デートと言ったその言葉に、結月は顔をしかめる。
「そのデートって言い方、何とかならないの? 五十嵐には、彼女がいるんでしょ?」
「でも、男と女が二人きりなら、それはデートになるのでは?」
「なりません! 執事とデートなんてありえません! だから、これはあくまでもお散歩です!」
(お散歩……)
頑なに散歩といいはる結月をみて、レオは苦笑いを浮かべた。
なんだか、全く意識されてないような?
「……でなくては、彼女さんに申し訳ないわ」
だが、その後、不安げに俯く結月を見て、レオは単に、彼女に気遣っているだけなのだと分かった。
「お嬢様は、自分の彼氏が、よそでこんなことしてたら嫌ですか?」
「それは嫌よ。やっぱり好きな人には、自分だけを見てほしいと思うもの」
意外な反応を示す結月に、レオの心は、ほっこり温かくなる。そして、その姿は、あまりにも可愛らしいもので
(見てるよ、ずっと……)
──結月だけを。
そんな言葉を心の中だけで呟くと、レオは手にした缶コーヒーをまた一口、喉に流し込んだ。
どこかほろ苦いその味は、まるで今の心境を映し出すようだった。
近くて遠い、二人の関係を……
「あ! でも、私の場合は、いずれ、うちの会社を継ぐ次期社長的な人と結婚するだろうから、そんなこと言ってられないんだけどね! やっぱり、社長ともなれば、妾の一人や二人いるでしょうし」
(……悟りきってる)
だが、さすがに未来を予期しているのか、どこか諦めきった表情をする結月に、レオは、口元を引き攣らせた。
確かに、社長なら愛人くらいいても、おかしくはないだろうが……
「へー、それは、もったいないですね」
「もったいない?」
「はい。もし俺が、お嬢様と結婚したら、可愛すぎて溺愛してしまいそうです」
「な……ッ」
一人分開いていた距離が半分になり、近い距離で視線が合わさった。
真っ直ぐに見つめる瞳と、艶のある声。そして、その言葉に、身体がカッと熱くなるのを感じて、結月は慌ててレオから視線をそらす。
「じょ、冗談をいうのは、やめて」
「冗談ではありませんよ。本当に可愛いと思ってるんです」
「だから、そう言う……っ」
「あはは。それより、どうぞ。温かいうちに食べてしまいましょうか?」
からかいつつ、レオはニッコリと笑うと、その後、袋の中で半分にしたメロンパンを結月に差し出ししてきた。
結月は、赤ら顔のまま、それを袋ごと受け取ると、ミルクティーの缶をベンチに置き、恐る恐るそのメロンパンにかぶりつく。
すると、口の中にメロンパンの甘さが広がった瞬間、結月は思わず声を上げた。
「ん、美味しい……!」
もはや100円とは思えない美味しさだった。
店主の言った通り、外はサクサクで、中はふんわりと柔らかく、それでいてクリームも程よい甘さで、これなら大きくても一個ペロリと食べられそうだった。
「これ、本当に100円なの? もっと、高くてもいいんじゃないかしら?」
「生粋のお嬢様にそう言って頂けるなんて、店主が聞いたら喜びますね」
結月の反応を確かめると、レオもそのメロンパンをパクリと口にした。
二人ベンチに並んで、メロンパンを食べる。
その何気ない一時は、ただベンチに座ってパンを食べているだけなのに、不思議と心が温かくなって、結月は、ふと隣に座るレオの横顔を見つめた。
「五十嵐って、変わってるわね?」
「そうですか?」
「うん。私の言うこと全く聞かないし、冗談言ったり、からかってきたり、ハッキリ言って、何考えてるのか、よく分からないわ」
──ん?
なんか、すごい言われようなんだけど?
ていうか、それって執事としては、かなり致命的なのでは?
「ねぇ、五十嵐は、私とメロンパン食べてて、嫌じゃないの?」
「え?」
すると、結月は少し表情を暗くしたあと
「昔、お父様とお母様に言われたことがあるの……私と一緒に食事をとると、料理が不味くなるって」




