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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第5章 二人だけの秘密

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ライオンと子兎


「ねぇ、五十嵐……どこに向かってるの?」


 不安そうにこちらを見つめる結月の姿が、ミラー越しにレオの視界に入り込んだ。


 どこか疑心に満ちた瞳。


 そんな顔をさせてしまうということは、きっと自分は、まだ結月にとって、あまり信頼できる人物ではないのだろう。


 そう思うと、レオは自然とハンドルを握る手に力をこめた。


 記憶がない結月にとって、今の自分はただの執事でしかない。


 そこには、明らかな主従関係があって、あの頃のような、対等な立場ですらない。


(まるで……子兎こうさぎだな)


 どこに向かってるのかと問いた声は、どこか弱々しく、その不安な気持ちは、直接、目にしなくても、レオの背に伝わってくるようだった。


 逃げ場のない車内に、男と二人きり。

 見知らぬ景色に、行き先を告げない執事。


 びくつくその姿は、今にもライオンにとって食われそうな、子兎のよう。


(もし──このまま君を連れ去ったら、君は、俺をどう思うだろう)


 このまま連れ去って、二人っきりの部屋の中で、あの頃の想いも約束も、何もかも全て打ち明けたら、君は、俺を思いだしてくれるだろうか?


 もし、思い出してくれるのなら、このまま、奪い去ってしまいたい。


 この気持ちを伝えて、今度はその身体に、直接、この想いを刻み込みたい。


 だけど、もし……思い出してくれなかったら?



「…………」


 感情と理性の狭間で、心が大きく揺れていた。


 もう、あんな顔はさせたくない。

 それは紛れもなく、レオの本心だった。


 だが、お嬢様と執事として始まった、この関係を覆すことは、そう簡単な事ではなく。


 きっと、今、結月を連れ去ったところで、彼女を怖がらせるだけだということは、レオが一番、よく分かっていた。


「お嬢様」

「……っ」


 瞬間、ずっと黙ったままだったレオが、やっと口を開いた。結月は、その後ろでビクリと肩を弾ませると


「な……なに?」


 怖々とした面持ちで、結月がレオを見つめた。


 するとレオは、走らせていた車を停車させると、結月の方へと振り返り


「着きましたよ」

「え?」


 ──着いた?


 そう言われ、結月が車内から外を見れば、それはどこかの駐車場のようだった。


 怯える結月に失笑しつつ、レオは運転席から下りると、そのまま後部座席にまわり、結月が座っている方の扉をあけた。


「どうぞ、お嬢様」

「え……?」


 ドアを開け、結月の手をとると、レオはそのまま結月を車の中から引っ張り出した。


 薄暗い車内から、無理やり明るい外へと連れ出される。


 久しぶりに晴れた空から降り注ぐ陽射しは、やけに眩しくて、視界が、わずかにぐらついた。


「ッ……」


 その眩しさに、結月が目を瞑る。


 だか、その後、ゆっくりと目を開けば、自分を見つめる執事と、再び視線が交わった。


 そして──


「お嬢様、私と、デートをしませんか?」


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