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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第3章 独占欲の行方

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甘い嫌がらせ


 学校から帰宅すると、結月は、矢野に勉強をみてもらっていた。


 矢野はメイドだが、とても学力が高く、教員免許も持っているため、結月の家庭教師も兼ねて、10年ほど前に、この屋敷にやってきた。


 学校から帰宅すると、塾にいかない代わりに、いつもこうして自室で勉強を見てもらっている。


 だが、今日はあまり乗り気ではないのか、結月は問題を解きながら、ため息ばかりついていた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「あ、ごめんなさい。せっかく教えてもらってるのに」


「いえ、私は構いませんが……しかし、授業の内容が分からなかったなんて、珍しいですね」


「そ、それは……っ」


 結月は、申し訳なさそうに、目の前のノート視線を落とした。


 朝、ポケットの中に、勝手にチョコレートを入れられた。そのせいか、結月は今日一日、全く授業に集中出来なかった。


 しかも、帰り際にそのことを執事に問いただしたのだが、五十嵐は全く悪びれる様子もなく


『たかだか、チョコ一つで大袈裟ですね。食べてしまえば証拠は残らないのに』


 なんて言って、あっさり吐き捨てたのだ。


 結局、そのチョコレートは、今も結月の手元にあり、結月は腑に落ちないながらも、今こうして、昼間分からなかった所を矢野から教わっている。


 だが、結月のため息の原因はそれだけではなく、なによりも、気になっているのは


「……ねぇ、矢野は、斎藤さいとうが、どうして辞めたか知ってるの?」


 結月が、見つめれば、矢野は少しだけ間を開けたあと


「……いいえ、私も今朝方、五十嵐から聞いたばかりなので、詳しくは存じてはおりません」


「そう……」


 全く手がかりのない話に、結月はシュンとする。すると、そんな結月を心配し、矢野が優しく声をかける。


「お嬢様、斎藤のとこですから、また改めて、お嬢様に御挨拶に伺うと思います。なので、そんなに落ち込まないでください」


「そ、そうよね。ごめんなさい。急なことで驚いてしまって……でも、斎藤には、とてもお世話になったから、私もちゃんと会ってお礼を言いたいの。こんな別れ方は悲しすぎるもの」


 酷く落ち込んだ様子で、結月が俯く。すると矢野は、手にしていた教科書をパタンと閉じた。


「お嬢様、今日はここまでにしましょう」


「え?」


「そのような状態で勉強をしても身に入りません。今日は、ご本を読むなり、音楽を聴くなり、どうぞ、ご自分のために時間をお使い下さい」


 結月を気遣っているのか『たまには息抜きも必要ですよ』と、矢野は勉強を中断すると、結月はそんな矢野の言葉に、ふっと心が温かくなるのを感じた。


「そうね……確かに、少し気持ちを切り替えた方がよさそうね。丁度、同じクラスの有栖川ありすがわさんから、本を借してもらったの。読んでみようかしら?」


「それがいいでしょう。では、また後ほど、お茶をお持ち致します」


「……えぇ、ありがとう」


 すると、矢野は部屋から出ていって、結月は、勉強道具一式を片付けた。


 その後、自分の机の前まで進み、それを引き出しの中に片付けると、鞄の中から借りてきた文庫本を取り出した。


 厚み1センチほどの文庫本。書店で買ったのか、その本には深緑色のブックカバーがかけられていた。


(五十嵐に似てる執事が出てくると言っていたけど、どんな内容なのかしら?)


 本を貸してくれた有栖川ありすがわの話を思い出して、結月は改めて、五十嵐のことを思い浮かべた。


 五十嵐は、初めてあった時から、なにか他とは違う独特の雰囲気があった。


 優秀ではあるが、どこか掴みどころのない執事。


「あ……チョコレート、どうしよう」


 すると、ふと五十嵐から貰ったチョコレートのことを思い出した。


 帰ってきて、ポケットからとりだしたそのチョコは、ちょこんと机の上に置かれたままだった。


(せっかく貰ったんだし、食べないと悪いかしら?)


 すると結月は、小包装されたチョコを手に取り、ゆっくりと包みを取り、それを口の中に運んだ。


「……ンッ!?」


 だが、その瞬間、結月はチョコレートのあまりの硬さに、咄嗟に口元を押さえた。


(ッ……なにこれ!? 一粒100円のチョコって、こんなに硬いの!?)


 いつも食べているチョコは、とても口溶けがよく、口に入った瞬間に、甘い香りを発しながら溶けだすのだ。


 しかし、このチョコは、全くそんなことはなく、しかも、カカオの深みのある甘さというよりは、クドく甘ったるい味がした。


 ちなみに、結月は勘違いしているようだが、一粒100円ではなく、一袋100円(12個入)の間違いだ。


(っ……やっぱり私のこと、嫌いなんじゃないかしら?)


 チョコの独特の味を感じながら、結月は眉を顰める。


 これは、確実に嫌がらせだ。でなくては、わざわざ、お嬢様にこんな硬くて不味いチョコを渡したりしない!


「ん……」


 だが、その硬かったチョコレートは、口内の熱により、ゆっくりと溶け始めた。


 舌の上に感じる甘さは、次第に口の中いっぱいに広がって、その独特の甘ったるさは、いつまでも口内にとどまった。


 口溶けも悪いし、香りもないし、普段食べているチョコとは、格段に劣る。


 だが──


(………なぜかしら。これはこれで、美味しいかも?)


 執事からもらったチョコレートの味は、ひどく甘くて、そして、不思議と


 ──懐かしい味がした。




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