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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第1章 執事来訪
2/289

箱とお嬢様


挿絵(By みてみん)



 ✣✣✣



「おはようございます、お嬢様」


 阿須加(あすか)家の朝は、高らかなメイドの声から始まる。


 朝日が射し込む屋敷の中、お嬢様の部屋の扉を開けて入ってきたのは、ポニーテール姿の若いメイドだった。


 そして、そのメイドは、だだっ広い西洋風の部屋の中をスタスタと進むと、天蓋付きのベッドの前まで立ち止まる。


結月(ゆづき)様。もう朝ですよ。起きてくださいまし」


「ん~~」


 すると、この春の季節、少し薄手の羽毛布団の中から、女の子が顔を出した。


 彼女の名前は、阿須加(あすか) 結月(ゆづき)。18歳。


 この屋敷に住む一人娘だ。


 茶色がかった黒髪は腰近くまで伸び、細いながらも柔らかな肢体は、とても女性らしい魅力に溢れていた。


 その上、色白で愛らしい顔立ちは、まさに絵に書いたようなお嬢様。


 しかし、そんな結月は、その後、小さく欠伸をすると


「ふぁ~。ごめんね、恵美さん。いつも起こしてもらっちゃって」


「いいえ。お嬢様が、朝が弱いのは今に始まったことじゃありませんし。あ、カーテンを開けでもよろしいでしょうか? 今日は、とてもいい天気ですよ」


「お願い」


 メイドの声に、結月が、ふわりと微笑んだ。


 すると、そのメイド──相原(あいはら) 恵美(めぐみ)は、窓の前まで歩み寄り、サッとカーテンを開ける。


 すると、そこには、まるで絵画のような景色が広がっていた。


 庭というには広すぎる庭園は、全て阿須加家の敷地内にある光景だ。


 奥に見える正門から、真っ直ぐに伸びる白亜の道と、それを彩る美しい花々。


 屋敷の手前には、ロココ調の噴水が優雅に流水し、そして、その傍らには、ティータイムを楽しむためのアウトリビングまであった。


 それを見れば、結月の住む屋敷が、いかに広大なのかがうかがえた。


 だが、そんな広大な屋敷で暮らしているのは、結月と、たった四人の使用人だけだった。


 結月の身の回りの世話をするメイド『相原(あいはら) 恵美(めぐみ)』に、メイド長 兼 家庭教師(ガヴァネス)の『矢野 智子』。


 そして、シェフの『冨樫 愛理』に、運転手の『斎藤 源次郎』の四人だけ。


 父と母は、めったにこの屋敷には訪れない。


 だからかこの四人は、結月にとっては、家族も同然な人たちだった。


「お嬢様。本日のモーニングティーは、アッサムをご用意いたしました。ミルクは、いかがいたしますか?」


「そうね、入れてちょうだい」


 恵美が、モーニングティーを()れながら、問いかければ、結月はベッドから立ち上がり、自分の机の前まで歩み寄る。


 すると、その机の上には、小さな箱が置かれていた。


 淡いブルーの正方形の──箱。


「……お嬢様、前から気になっていたのですが、その箱には、一体、何が入っているのですか?」


 すると、その箱を手に取った結月を見て、恵美が、不思議そうに問いかけた。


 お嬢様が、毎日かかさず手に取る『箱』


 正直、中身が気にならないといえば嘘になる。


「指輪でも入っているのですか?」


「ふふ、気になる?」


 すると結月は、恵美の前に箱を差し出し、その蓋をカポッと開けて見せた。


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