表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第15章 お嬢様の記憶

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/289

お嬢様の看病

「それッ……読んだのか……っ」

「……っ」


 結月が手にした『白い日記帳』を見て、レオがそう言えば、結月はじわりと冷や汗をかいた。


 一瞬、嘘をつくべきかと悩んだ。

 だが、嘘をついても、この執事には見破られてしまいそうだ。


 結月は、そう思うと……


「よ……読みました」


「……っ」


「あ! でも、1ページだけよ!(見開き)1ページ! 他のページは、一切読んでないから、心配しないで!!」


「黒い方は?」


「へ?」


()()の方は、読んでない?」


 手帳──そう言われ、結月はもうひとつの黒い手帳に目を向けた。


 手の平に収まるくらいの『黒革の手帳』

 それは所々擦れていて、かなり年季の入った手帳だった。


「?……こっちは……読んでないけど」


「…………そう」


 素直に告げれば、一呼吸あいたのち、レオが安心したように呟いた。


 その表情は、なんと形容しがたい複雑な表情をしていた。


「五十嵐……?」


「ごめん。夕べ、片付けるの忘れてた」


 するとレオは、ベッドから抜け出し、結月の元へと歩み寄った。


 結月が手にした『白い日記帳』と『黒革の手帳』を、二冊同時にうけとると、それを机の引き出しの中に隠す。


 鍵付きの引き出しだ。厳重に、誰にも見られないようにしまい込んだ、その姿を、結月は、ただただ見つめていた。


(あの手帳には……何が書いてあるのかしら?)


 漠然と、そんなことを思った。


 大切な手帳なのだろう。

 だが、それは、あの恥ずかしい日記以上に、読まれたくないものなのだろうか?


「それより……どうして、ここに?」


 すると、再びレオが声をかけてきて、結月は、すぐさま我に返ると


「あ、それは、熱があるって聞いて……!」


「……心配して、わざわざ来てくれたのか?」


 その瞬間、柔らかく微笑んだ執事の姿をみて、結月は頬を赤らめた。


 嬉しそうに目を細めた姿は、普段と変わらない。だけど、どことなく気だるそうにも見えた。


「し、心配よ。ごめんね、私のせいで」


「……結月のせいじゃないよ」


「うんん、私のせい……私が、頼りないから……ごめんね。やっぱり、私……っ」


 涙目になって俯けば、レオは、そっと結月の頬に触れた。


「結月、俺の日記を読んだんだよな? 読んでみて、どう思った?」


「……え?」


 再度、日記の話を持ち出されて、結月は顔を赤らめた。


 あの日記には、自分への思いが溢れていた。


 恥ずかしくなるくらいの甘く優しい、愛の言葉が……


「あ、その……屋敷に来た時から……私のことを、好きだったんだなって」


「違うよ」


「え?」


「屋敷に来た時じゃなく、屋敷に来る前から、ずっとずっと結月のことが好きだった。結月は、自分のせいで俺が無理をしていると思ってるみたいだけど、俺は今、自分のためにこうしてる。結月を、誰にも渡したくないから──」


「……!」


 真っ直ぐに見つめるその瞳には、自分だけが映っていた。それが、本心だと訴えるように……


 何も出来ない自分は、彼には不釣り合いだと思った。


 これ以上、無理をさせるくらいなら、もう、いっそのこと……そう、思っていた。


 でも──


「私、五十嵐のこと……好きでいていいの? 私、看病ひとつ、まともに出来なくて……そんな私と一緒になって……五十嵐は、幸せ?」


「幸せだよ。むしろ、好きでいてくれなきゃ困る」


「……ッ」


 ハッキリとそう返ってきて、結月は、思わずレオに抱きついた。


 ダメな自分を見つける度に、迷いが生まれてしまう。完璧な彼の姿を目にする度に、劣等感に悩まされる。


 だけど、今日ほど、彼に釣り合うような女性になりたいと思ったこともなかった。


「結月……ごめん。出来れば、もっとこうしていたいけど、風邪を移すといけないから、そろそろ離れて」


「……あ」


 瞬間、目と目が合わさって、結月の顔は真っ赤になった。普段よりも高い彼の体温は、寒い廊下を歩いてきたせいか、冷えた体にはちょうど良かった。


 できるなら、まだ、こうしていたい。

 今はまだ、戻りたくない──…


「移して、いいわ」

「……!」


 決して離れず、それどころか更にレオの胸に頬を寄せると、結月はポツリと呟いた。


「あ、あのね! 風邪は、人に移すと良くなると、昔どこかで聞いたの。だから、五十嵐の風邪も私に移せば、よくなるわ」


「……」


「あの、だから……その……私には、これしか、してあげられることがないから……だから、お願い。私に移して」

 

「……っ」


 それは、冗談ではなく、紛れもなく本気の表情をしていて、レオは、酷く動揺してしまった。


 移せば治ると、まだ信じているのか?

 真剣に、自分の負担を減らそうとしている結月に、胸が熱くなった。


 あぁ……君は、いつもそうやって、俺の心を揺さぶる。


「それ、嘘だよ」

「え!?」


 だが、その瞬間、レオがそう言えば、結月は驚きのあまり、レオを見上げた。


「う、嘘!?」


「そうだよ。人に移しても、風邪は治らないよ。それに、お嬢様に風邪なんて移したら、執事失格なのでは?」


「……そ、それは、そうかもしれないけど……っ」


 まさかの事実に、結月は軽く衝撃を受けた。


 腕の中でシュンとする結月は、酷く落ち込んでいて、そんな結月を愛おしそうに見つめながら、レオはそっと結月の肩を掴むと、その後、結月を引き離した。


 熱のせいか、上手く理性が効かない。

 これ以上、煽られたら、本当に、移してしまいたくなる。


「お嬢様、私なら大丈夫です。一日休めばよくなりますから、もう、部屋にお戻りください」


 あえて執事として振舞ったのは、演技をするため。


『本当は、傍にいて欲しい』と、そんな気持ちを、悟られないため。


「うん……分かったわ。私がここにいても休めないでしょうし……しっかり寝て、食事も、ちゃんと食べてね?あと、無理しないで困った時は頼らなきゃダメよ?」


「……はい」


 すると、結月もまた名残惜しそうに、レオの傍から離れた。


 顔を見て、安心した。

 だけど、離れるとなると、無性に寂しくなった。だが、その時


 コンコンコン──!


「五十嵐さん、相原です。入ってもいいですか~?」


「「!!?」」


 直後、ノックの音が聞こえたかと思えば、それは、外で庭掃除をしていたはずの──相原 恵美だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ