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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第14章 夢を叶えるために

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フラれた男


 その日の夜──愛理の元彼である"谷崎たにざき 雅文まさふみ"は、一人帰路についていた。


 レストランでの仕事を終えた、午後9時半。ラフな格好でリュックを背負った谷崎は、公園の中へと進んでいく。


 この公園は自宅までの近道で、毎晩のように通っていた。


 街灯のおかげで、そこまで暗くない。だが、いつもは無人のその公園の中に、ふと人がいるのに気づいた。


 公園のベンチに腰掛けた人。一瞬女性にも見えたが、どうやら男性のようだった。


 それも、金色の髪をした、とてつもなく綺麗な青年──


(あの人……今日、うちのレストランにいた人だ)


 そして、その金髪の男が、自分が働くレストランに来ていたことを思い出すと、谷崎はピタリと足を止めた。


 酷く思いつめた表情で、俯く青年の姿。


 だが、月明かりの中、憂いの表情を浮かべるその青年の姿は、まさに映画のワンシーンのようにも見えた。


 その美しさは、男の自分でも見惚れてしまうほど……


「あの、大丈夫ですか?」

「……!」


 瞬間、谷崎は、その金髪の青年に声をかけた。


 具合が悪いのか、落ち込んでいるのか、谷崎が話しかけると、その青年──ルイは、ゆっくり顔を上げた。


「あ……すみません、大丈夫です……っ」

「………」


 無理に笑って、大丈夫と言った姿に、谷崎は胸を痛めた。


 谷崎は、今日この青年が、彼女にフラれたのを知っていた。今日の昼間、谷崎が勤めるレストランの中で、いきなり、パン!と乾いた音が響いた。


 客も店員も騒然とした。見れば、テーブル席で、女性が彼を引っぱたいていて、どうやら恋人と喧嘩になり、ビンタされたらしい。


 そして、彼女は最後に


『もう、別れる! サヨナラ!』


 そう言って、立ちさっていった。


(やっぱり、フラれて落ち込んでるのかな? ていうか、こんな綺麗なイケメンがフラれるなんて……)


 ふと、昼間のことが気になって、谷崎は思い切って問いかける。


「あの……昼間、レストランにいましたよね」


「え?」


「オレ、あのレストランで働いていて、昼間の見ちゃって……っ」


「……あぁ、そうだったんだ」


 しゅんとしつつ、申し訳なさそうに笑ったルイは、今、フラれて傷心中の男を演じていた。


 昼間、紺野サキに、ちょっとした難題をふっかけた。目の前の自分を『恋人と思い、こっぴどくふる演技をしてくれ』と──


(案外、上手く釣れたな……)


 心の中では、満面の笑み。だが、表情は落ち込んだまま、ルイは計画が順調なことを喜んだ。


 先日、レオに頼まれ、ココ最近、谷崎を尾行していた。勤め先のレストランに通い、帰宅ルートをチェックし、谷崎が、必ずこの公園を通ると把握したあと、この"待ち伏せ作戦"を実行した。


 ちなみに、なんでフラれた男になりきっているのかというと、谷崎自身が、先日、愛理からフラれているから……


「店員さんだったなんて、恥ずかしいところ見られちゃったな」


「いや、恥ずかしくなんてないですよ。俺だって、その……先日彼女にフラれたばかりだし。だから、同じというか」


 同じ──厳密に言えば、同じではないが、初対面の相手の懐に忍び込むなら『同類』になるのが一番。


 そんなわけで、ルイはニッコリと笑うと


「そっか、君もフラれてるんだ。なんか親近感、湧くなー」


「そうっすね。初めて話したのに」


 あはは──と軽く笑いながら、和やかな雰囲気になる。あっさり人をたらしこむのは、ルイの悪い癖だが、こんな時は、かなり役に立つ。


 すると


「ちょっと、話聞いてくれる?」


 そう言って、ルイがベンチの指さすと、谷崎も、特に断る理由がないのか、あっさりルイの隣に腰掛けた。


「なんで、喧嘩したんですか?」


「んー、僕がフラフラしてるからかな? 彼女は結婚したいみたいだけど、僕はまだ覚悟ができてないって言うか」


 もちろん、全てデマカセである。


 だが、舞台女優を母に持つルイは、その演技力も並外れて高かった。なにより、先日、女装して女になりきったほどだ。甲斐性なしの男になりきるなんて、最早、朝飯前!


「あー、結婚となると色々考えますもんね。俺も、そうだったなー……」


「君は、なんで別れたの?」


「俺は『仕事辞める』っていったら、話も聞かずにフラれました」


「仕事、辞めちゃうの?」


「あ、いや。辞めませんよ。もう辞める理由も、なくなったんで」


「?」


 苦笑いで話す谷崎に、ルイは首を傾げた。


 谷崎は今29歳。

 そして愛理は、先日30歳になったらしい。


 同い年の二人なら、結婚を意識する時期でもあっただろう。だが、そんな時期に、いきなり仕事を辞めるなんて言われたら「結婚する気がない」と捉えてもおかしくない。


「結婚したくなかったの?」


「違いますよ! したかったですよ、オレは!!」


 だが、ルイの言葉を否定し、谷崎が叫んだ。


「俺、あいつとは10年付き合ってて……だから、ちゃんとプロポーズするつもりでいたのに、仕事辞めるって言ったとたん、あいつ一方的に怒り出して、喧嘩別れになって……はぁ~」


「………」


 まるで、沈みゆく船の如く、谷崎が深い深いため息をついた。


(何か、ワケありっぽいな?)


 少なくとも、谷崎には結婚の意思があったのだろう。それに、愛理だって、それを望んでいたはず。


 それなのに、なにがどうして、こうなった?


「どうして『仕事辞める』なんていったの?」


「え?」


「なにか理由があるんでしょ?」


 ルイが尋ねると、谷崎は、一呼吸空いた後、神妙な面持ちで話し始めた。


「俺、実は……仕事やめて、アイツの『夢』を一緒に叶えるつもりでいたんです!」



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