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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第13章 誰もいない屋敷の中で

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 しばらく触れあっていた唇が離れると、また近い距離で目が合った。


 見つめた先では、あふれんばかりに涙を溜めた結月の綺麗な瞳が見えた。


 まるで、助けを求めように「拐って」と言った結月に、胸を締め付けられた。


 もう二度と、こんな風に泣かせたくない。苦しくて、辛いだけの涙なんて、もう流させたくない。


 レオは、そう決意すると、慰めるように、また結月の目元に口付けた。


 涙をそっと拭うように、唇が頬を這うと、その感触に、結月がくすぐったそうに声を漏らす。


「ん……五十嵐、なに……してるの?」


「何って、慰めてるんですよ」


「ん、待って……もう、大丈夫……だから」


「大丈夫ではないでしょう。こんなに泣いて……それに、まだ消毒が終わっていませんよ」


「……え?」


 消毒──その言葉に、結月は目を見開いた。


 何をするのかと、執事に目を向ければ、執事の唇は、そのまま結月の肩に移動した。


 冬弥が触れた方の肩。


 這う唇は、首筋を伝い移動し、それと同時に、結月の胸元のボタンを一つだけ外し肩を露出させたレオは、結月の細い肩に、強く吸い付いた。


「ひゃ、ぁ……っ」


 突然の事に、驚いた結月が顔を真っ赤にしてレオの服を掴む。だが、昼のことがあるからか、レオもやめる気にはなれない。


 自分以外の男が、結月に触れた。

 それも、あの餅津木 冬弥が……


 その光景を思い出すだけで、はらわたが煮えくり返りそうになる。


 でも──


「その肩、誰にも、見られないようにしてくださいね」


「……え?」


 唇が離れたと同時に囁かれ、結月は自分の肩に目を向けた。


 すると、そこには、赤く跡が残っていた。


 結月とて、それが何かわからないわけではない。有栖川から借りた本の中でも、時折でてきた、それは──


「俺のものだっていう、印」

「……っ」


 追い打ちをかけるようにレオが微笑めば、結月は更に赤くなった。


 自分の存在を主張するようにつけられた──キスマークの跡。そして、その言葉と行動に、自然と体が熱くなる。


「わ、私……五十嵐のものなの?」


 だが、結月が戸惑いつつ問いかけると、レオはその後、数秒だけ沈黙したあと


「……なんで疑問系?」


「え、あ! 別に嫌とかじゃなくて!? その……まだ、実感がないというか、昨日の今日で、色々ありすぎて、頭が追いつかなくて……っ」


 気持ちは間違いなく、この関係を望んでいた。

 この人に愛されたいと願っていた。


 だけど、何故この執事が、自分を愛してくれているのか、結月には、まだよく分からなかった。


 ……というよりは、自分に自信がないと言った方がいいのかもしれない。


「五十嵐は、本当に私の事……」


「当たり前だろ。好きだし、誰よりも愛してる。だから、結月は俺のだけものだよ。そして、俺の全ても、結月だけのもの」


「……っ」


 全て──そう言われて、自然と胸が高鳴った。


 好きな人が、自分の全てを、委ねようしてくれる。その言葉に、全身が火照るように熱くなれば、恥じらい赤くなる結月に、レオは、再びキスを落とす。


 まるで、その言葉に偽りはないと示すように、優しく口付けられる。


 甘く心地よい感触。だが、それも次第に激しいものに変わり、呼吸は更に荒くなる。


 昨夜と同じように、キスだけで翻弄されてしまう。


 恥ずかしさでいっぱいになり、ふと唇が離れたのち、めがあえば、結月は、見られたくないとばかりに、レオの背に腕を回し、そのままキュッと抱きついた。


 レオの胸に顔をうずめ、静かに目を閉じれば、その奥からは、トクトクと心臓の音が聞こえてくる。


 今、この屋敷の中で、一番安心する音。


 だけど、前に聞いた時よりも、心なしか早いのはきのせいだろうか?


(五十嵐も……ドキドキしてるのかしら?)


 自分と同じように、気持ちが通じたことを、喜んでいるのだろうか?


 そう思うと、叶わないと思っていた恋が実ったのだと改めて実感し、結月かまた涙を流せば、そんな結月を、レオが優しく抱き返す。


「……大分、お疲れのようですね」


 呼吸を荒くし、ぐったりする結月をみて、レオが問いかけた。


 ムリもない。昨夜から今日にかけて、結月には、たくさん無理をさせた。


 数えきれないくらいキスをした。

 今までの8年間を、埋めるくらいのキスを──


 それに、今はもう、環境も状況も、自分たちの関係も、何もかも変わってしまった。


 まだ、この余韻に浸っていたい気持ちもあるにはあるが、結月のことを思えば、今日は、早く休ませてあげた方がいい。


 心も、身体も──


「ホットチョコレートをお持ち致しします。それを飲んだら、今日はもう休んでください」


 そう囁いたのち、レオは優しく微笑むと、名残惜しそうに、結月から離れた。


 だが……


「お仕置き、しないの?」

「……っ」


 瞬間、寂しそうに見上げてきた結月に驚いたのは、レオの方。


 元から、お仕置なんてするつもりはなかった。

 だが、そんなふうに煽られると……


「……して、ほしいの?」


「え? あ、そ、そうじゃなくて……! ただ昼間の言葉、本気みたいだったし……叱られるくらいはするのかなと」


「そりゃ、叱りたくもなるよ。あんな所見せられたら……でも、酷いことするって言ったのは、嘘だよ」


「え?」


「あー言っておけば、多少は危機感を持つと思ったんだけど、どうやら、意味がなかったみたいだな。指一本どころか、肩に触れられて、自分から手をとるなんて」


「……っ」


 深く、ため息を漏らしたレオをみて、結月は申し訳なさでいっぱいになった。


 確かに、ことごとく約束を破ってしまった。

 呆れられるのも、無理はない。


「ご……ごめんなさい」


「反省してる?」


「うん」


「そう……ならいいよ。でも、次からは今日以上に気をつけて。結月は今、正式に冬弥アイツの恋人になったから、次はどんな手を使ってくるか分からないから」


「ぁ……」


 一気に現実に引き戻される。冬弥と恋人同士になったということは、つまりそういうことなのだと……


「うん……気をつける」


「そうしてくれると助かる。結月に、もしもの事があったら、冬弥のこと殺したくなりそうだから」


「え!?」


 瞬間、聞こえてきた言葉に、結月は耳を疑った。


「な、何言ってるの!? だめよ! それだけは絶対にダメ!」


「冗談だよ」


「冗談!? 本当に冗談よね!? 目が笑ってないけど」


「あはは、じゃぁ、俺を殺人犯にしないように、結月自身も気をつけてね」


「……っ」


 とんでもない脅しを、かけられた。


 いや、きっと、これも冗談だ。

 うん、そのはず……


「それと、俺は好きな子の初めてを、お仕置なんて形で奪ったりはしないよ」


「え?」


「だから、あまり可愛いこと言わないで。これ以上煽られると、我慢できなくなりそうだ」


「……ッ」


 欲情的な瞳に、見つめられたかと思えば、そのまま、耳元で囁かれた。


 だが、我慢できなくなりそう──その言葉の意味を理解した結月は、更に顔を真っ赤にする。


「あ、煽ってなんか!」


「煽ってるだろ。お仕置きして欲しいなんて」


「し、して欲しいなんて言ってないわ!」


 言ってない!


『しないの?』とは聞いたけど

『して欲しい』とは、断じて言っていない!


「……ふふ」


「わ、笑わないで……っ」


「ごめん、可愛すぎて」


 すると、レオは、クスクスと今なも漏れそうな声を必死にこらえながら、優しくいたわるように、結月の髪を撫でた。


 このまま、何もかも自分のものに出来たら、良かった。


 本来なら、キスマーク一つで、我慢できるようなものじゃない。


 でも、やっと思いが通じた。


 記憶を思い出すことはなかったけど、それでも結月は、自分との未来を選んでくれた。


 状況が許すなら、このまま押し倒していたかもしれない。昨夜みたいに……


 でも、話し込んでいたせいか、いつもより時間をオーバーしていた。


 あまり長くこの部屋にこもっていると、メイドが心配してやってくる可能性がある。


 こうなった以上、いつもと違う行動は、極力避けた方がいい。


 でも……


「結月。もしまた、この屋敷で二人っきりになることがあったら、その時は──覚悟していて」


「え……?」


 なにを?──と、一瞬意味がわからず首を傾げたが、先の言葉から、あることを察した結月は、再び慌て始める。


「か、覚悟って……っ」


「分からない年じゃないだろ。あんな官能小説、読んでるくらいだし」


「へ!? あ、あれは……っ」


「はは……では、私は一度、仕事に戻りますので」


 すると、慌てる結月をよそに、あっさり執事モードにきりかえたレオは「すぐに戻ります」と結月に耳打ちして、部屋から出ていった。


 一人きりになった部屋で、結月は自分の両頬に手を添えると、熱くなった頬を必死に冷まそうと、目を瞑る。


 だが、手も熱くなっているせいか、熱はいっこうに引く気配がなく……


「私……とんでもないこと、しちゃった」


 選ばなくてはならない道を選ばず、選んではいけない道を選んでしまった。


 拐って欲しいなんて──とんでもないことを言ってしまった。


 でも──


「……もう、忘れなくていいのかな」


 この気持ちを、五十嵐に、隠す必要も、忘れる必要もない。


「五十嵐……っ」


 すると、今まで押さえ込んでいた感情が解き放たれるように、結月は、執事の名を呟いた。


 選んだ道は、茨の道かもしれない。

 それでも、この道を選びたかった。


 五十嵐に愛されて生きる道を、選びたかった。


「好きよ、五十嵐……大好き……っ」


 本人の前で決して言えない愛の言葉を、何度と繰り返しながら、結月の頬には、また涙が伝った。


 それは、苦しみや悲しみではなく、喜びに溢れた、優しく暖かな涙だった。


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