表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第13章 誰もいない屋敷の中で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/289

交際


「例えば、いつも君の傍にいる、あの執事とか?」


 その質問に、結月は言葉を詰まらせた。


 ──疑われてる。自分の気持ちを。


 だが、ここで、本当のことがバレてしまったら、この縁談がどうなるか分からないし、何より五十嵐は、クビになってしまう。


「なにを仰ってるんですか。五十嵐は、私にとって、ただの執事です。彼を、異性として意識したことは一度もありませんし、他に好きな方がいる訳でもありません。ただ、本当に男性に触れられるのは慣れてないのです。ずっと女子校に通っていて、屋敷からも、あまり出ない生活をしてきましたから……」


 決して顔に出さぬよう、平静を装い言葉を返した。あたかも、それが真実であるかのように。


 すると、それからしばらくして、冬弥が、ホッとしたように笑いだす。


「あはは! 確かに、そうですよね。使用人なんて、好きになる訳がない! それに、女子校生活が長ければ、異性に慣れていないのは当たり前ですね。まさに箱入り娘。ご両親からを、大切に育てられてきたんですね」


「………はい」


 大切に育てられてきた──その言葉に、微かに不満を抱きながらも、笑ってやり過ごした。


 絶対に、気取られぬように。


 だけど、こうして笑っている自分は、幼い頃から、ずっと両親に言われつづけきた"淑女"では、なくなっている気がした。


 五十嵐がきてから、少しずつ嘘が上手くなっていく。


 それを思えば、自分はもう、両親が理想としている娘ではないのかもしれない。


「では、そうであるなら、ここで、正式に交際を申し込んでも問題はありませんね」


「……え?」


 だが、その後、冬弥が言った言葉に、結月は瞠目する。


(……交際?)


 その言葉に戦慄していると、冬弥は『同意するなら手を取れ』と言わんばかりに、スッと手を差し出してきた。

 そして、その姿を見て、結月は口をきつく結び、微かに生まれた動揺にたえる。


 心臓は、恐ろしいくらい冷えていた。

 この手を取るのを、全身が拒絶してる。


 だけど、ここでどうするべきかなんて、もう──決まってる。


「はい……もちろんです」


 無理やり笑顔を貼り付けると、結月もまた、自らの手を差し出した。


 泣きそうな心を、必死に押さえ込みながら、親に望まれたシナリオ通りに行動する。


 だけど、その瞬間、思い出したのは


『約束ですよ。お嬢様は、俺だけのものですから』


 そう言って口付けた、執事の姿だった。


 もし叶うなら、あの言葉の通り、彼だけのもこになってしまいたかった。


 でも……


(ごめんなさい、五十嵐……私、やっぱり……あなたのものには、なれない……っ)


 静かに目を閉じると、結月は、冬弥としっかりと手を繋ぎ合わせた。


 願いは──叶わない。


 きっと自分は、いつまでたっても、自由にはなれない。


 



 ✣✣✣





 その後、冬弥との別れを済ませ、一日が終わる頃には、もうぐったりしていた。


 広々とした浴槽の中、乳白色の湯船に浸かり身体を癒す結月は、無言のまま、深くため息ばかりついていた。


 重い気持ちのまま、ただただ一日を振り返れる。


 あのあと、冬弥を見送るころには夕方になっていて、その後、夕食をとり、なんとか無事にこの日を終えた。


 いや、正式に交際を申し込まれたのだ。ある意味、無事とは言えないかもしれない。


 それに──


(約束……やぶっちゃった)


 執事との約束を破ってしまい、結月は不安げな表情を浮かべた。

 

 指一本触れさせるなと言われた、あの約束を、結月は破ってしまった。しかも、指一本どころか、肩に触れられ、自ら手をとってしまった。


 もし、あんな所を、執事に見られていたら。


(良かった。五十嵐が、そばにいなくて……っ)


 あの場に、執事がいなかったことに、結月は深く安堵する。

 昨夜から、何度したのか分からないくらいキスをされた。だが、さすがにこれ以上のことをされたら、取り返しがつかなくなる。


 なぜなら、自分はもう、冬弥の恋人になってしまったから……


「……あ、そうね……私、冬弥さんの……恋人に……なったのね?」


 すると、まるで、他人事のように結月が呟いた。


 実感がない。喜びも、ときめきもない。

 あるのは、どんよりと暗い気持ちだけで……


(あ、そういえば、恋人同士って……)


 ふと、執事と話したことを思い出して、結月の気持ちは、更に暗くなる。


 あれは、二回目に公園に行く前のこと。『デートをしよう』と言い出した執事に『普通の恋人同士は、どんなデートをするのか』と、聞いたことがあった。


 すると、執事は


『そうですね。普通の恋人同士なら、手を繋いだり、食事をしたり、夢や将来についてかたりあったり、あとは……キスをしたりでしょうか?』


 そう、言っていた。


 結月は、湯船の中で小さく膝を抱えると、溢れそうになり涙を必死に堪えた。


「そう……私はそれを……これから、冬弥さんとしなくてはならないのね……っ」


 手を繋ぐのも、食事をするのも、夢や将来を語り合うのも、そして、その先も全て、好きでもない人と経験していかなくてはならないのだと──




 ✣


 ✣


 ✣



「──お嬢様」


 その後、お風呂から上がり、部屋に戻ると、部屋の前には、既に執事がいた。


 きっと、待っていてくれたのだろう。

 普段と変わらない、凛々しい姿の執事。


 だが、その顔を見ると、否応にも昨夜のことを思い出してしまう。


「遅かったですね。浴室で、倒れているのではないかと、心配しておりました」


「あ……ごめんね、大丈夫よ」


 考え事をしていたせいか、いつもより長湯になってしまった。

 だが、結月は、あくまでも普段通り話すと、その後、執事が、部屋の扉を開けてくれた。


「どうぞ……」


 中に──と言われ、結月は意を決して中に入った。

 中に入れば、また執事と二人きり。

 静まりかえる部屋の中は、既にカーテンが閉まっていて、月すら見えなかった。


 その後、結月が部屋の中を進み、ドレッサーの前に立つと、あとから来た執事が、そっと椅子を引いてくれた。


(言わなきゃ、五十嵐に……)


 その椅子に腰掛けたあと、結月は小さく唇を噛み締めた。


 いうなら、このタイミングしかない。

 しっかり、伝えないといけない。


 冬弥さんと、正式に付き合うことになったから、あなたのことは、選べないと──


「お嬢様、今日は、お疲れでしょう。あとで、ホットチョコレートでも、お持ち致しましょうか?」


「え? あ、そうね……おねがい」


 だが、緊張する結月とは対象に、執事は髪を乾かしながら、優しく語りかけてきた。


 普段と変わらない声。

 怒ってる様子もない。


 なにより、ホットチョコレートは、最近の結月のお気に入りだった。


 五十嵐がいれてくれたホットチョコレートは、とても甘くて、優しい味がする。


 だから、疲れている時や、眠れない時に飲むと、不思議と安心して、寝つきが良くなる。


(五十嵐は……やっぱり、優しい)


 執事の優しいところが、好き。


 でも、それは、仕事だから優しくくれるのだと、ずっと思ってた。自分が、お嬢様だから……


 でも、昨夜、五十嵐の気持ちを知って、それが全部、愛情からくるものだったとわかった。


 今こうして、髪をすいてくれるのも

 宝物のように、触れてくれるのも


 全部全部、自分を愛してくれているからだって。


 それなのに──



「お嬢様。肩は、いかがいたしましょうか?」


「……え?」


 だが、その瞬間、執事の手が肩に触れた。

 昼間、冬弥に触れられた方の──肩に。


「か……肩?」


「はい。消毒しておきますか? 餅津木冬弥に──触れられたところ」


「!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ