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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第13章 誰もいない屋敷の中で

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婚約者を好きになる方法


「え? 今日は、二人ともいないの?」


 学校へ向かう車の中、結月が運転中の執事に問いかけた。


 シェフの愛理は前々から予定していた休みだったらしいが、メイドの恵美は親戚に不幸があったらしく、急遽休みになり、今日は二人とも、屋敷にいないらしい。


「明日の朝には、二人とも戻ります。ですから、冬弥様との会食も滞りなく進められますので、ご安心ください」


「そう……」


 執事の言葉に無理に笑顔を返すと、結月はそのまま車窓から外を見つめた。


 先日、冬弥と電話した後、執事に段取りを組んでもらい、明日の土曜日に会う約束を取り付けた。


 だが、冬弥に会うまで、あと一日しかないというのに、未だに執事への気持ちを消しされないことに、結月は焦りを覚えていた。


(どうしよう……)


 五十嵐の彼女に会えば、この気持ちに区切りをつけられると思っていた。


 忘れられると思っていた。

 それなのに──


(早く、忘れなきゃ……っ)


 あと一日。


 あと一日で、この気持ちを何とかしなくては、冬弥さんにあわす顔がない。


 運転する執事の背をみつめながら、結月は何度と、そう思い、祈るように目を閉じた。




 ✣


 ✣


 ✣




「はぁ……」


 学校にて、三限目の授業を終えた結月は、教科書をしまいながら、また深いため息をついていた。


 冬弥のことや、五十嵐のことがあるからか、最近どうも勉強にも集中できない。


 季節は、もう秋。二学期も後半に差し掛かり、同級生たちは進学に向けて勉学に励み、着々と実力をつけていた。


 それなのに、今の結月は、進学どころの話どころではなく……


(お父様、進路は好きに決めていいって言ってたのに、結局私の事なんて、何も考えてたなかったのね……っ)


 受験前の大事な時期に、わざわざ婚約の話を持ち出すなんて、本来ならありえない。


 娘のことなんて、何も考えてはいない。


 結局、結婚して男の子を産みさえすれば、自分の進路なんて、どうでもいいのだ。


「はぁ……」


阿須加あすかさん!」


「あ、有栖川ありすがわさん…」


 何度目かのため息を吐いた瞬間、クラスメイトの有栖川が結月に声をかけてきた。手には、何やらか袋を持っていて、有栖川はそれを差し出しつつ、結月に問いかける。


「どうなさったの。最近、ため息ばかりよ」


「あ、ごめんなさい。最近少し、将来のことについて悩んでて」


「そういえば、阿須加さんは一人娘だったわね。私はお兄様がいるから気楽なものだけど、跡目を継ぐのなると色々大変よね」


「えぇ……それより、これは?」


「先日お話していた本よ。上下巻揃ったから、まとめて持ってきたの!」


「まぁ、ありがとう!」


 その本は、前に有栖川達が話していた文庫本だった。


 タイトルは「嫌いな婚約者を好きになるまで」

 まさに、今の結月にピッタリなタイトルだ。


(ちょうどよかった。この本を読んで、しっかり勉強しよう……)


 はっきり言って、結月は未だに冬弥が苦手だった。


 昔、モチヅキくんと呼んでいた時は、あんなにも満たされた気持ちになっていたのに、今では別人のようにすら感じる。


 だが、それでも彼は、あのモチヅキくんで、自分の婚約者。


 好きになるべきなのだ。

 なぜならそれが、一番幸せに近いから。


 だけど、たまに思うことがある。


 もし、あのモチヅキくんが、五十嵐だったら……と。



(バカね……苗字からして違うのに)


 寸分の望みすら感じられない現実に、何度も、打ちのめされた。


 忘れなくてはならないのに、こんなにも、執事に思いを募らせる自分が嫌になる。


 そのうえ、彼女がいる人を好きになるなんて、自分はなんて、卑しい女なんだろう──





 ✣


 ✣


 ✣



「お帰りなさいませ、お嬢様」


 一日の授業が終わり、校舎の外には、いつものように結月を迎える執事の姿が見えた。


 そっと手を差し出されて、数段の階段をエスコートされる。


 いつもの事だ。


 だが、いつもと同じことをしているはずなのに執事への恋心を自覚してからは、手を取るたびに、心臓がドキドキと忙しなくなる。


(そういえば……今日は、愛理さんも恵美さんも、屋敷にはいないんだっけ)


 今まで屋敷には、常に誰かがいた。


 だが今夜は、あの広い屋敷の中で、五十嵐と二人だけになるらしい。


(っ……帰ったら、本に集中しよう)


 二人だけなのだと思えば思うほど、妙に意識してしまう。だが、この気持ちは絶対に気取られてはいけない。


(今は、冬弥さんを好きになることに、集中しなきゃ……!)


 結月はそう決心しつつ、執事と共に屋敷に戻ったのだった。


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