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お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。  作者: 雪桜
第10章 餅津木家とお嬢様

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結婚の条件


「よぅ、冬弥とうや!」


 餅津木家が所有するビル。


 企画開発部として、多くのショッピングモールを手がけるそのビルの一室で、ソファーに腰掛けタバコを吸っていた冬弥に、兄の春馬はるまが声をかけてきた。


「お前、失敗したんだってな?」

「…………」


 どこか小バカにするような抑揚のある声。それを聞いて、冬弥は眉を顰める。


「うるせーな。なんの用だよ」


「そう怒るなよ。落ち込んでる弟を慰めにきてやったんだろ」


 えらく機嫌の悪い冬弥を流し見たあと、春馬はその隣にドサッと腰かけると、同じようにタバコを取りだし、火をつけた。


「しかし、うちの親もイかれてるが、あっちの親もかなりのイかれ具合だな。まさか、結婚の条件が"子供を授かったら"だなんて……」


「………」


 子供を授かったら──その言葉に、冬弥は再び婚約の話が持ち上がった時のことを思い出した。


 なんでも洋介たちは、結婚後、何年も子供ができず、親戚から酷い言葉を嫌という程浴びせられたらしい。


 その苦労を娘に味あわせたくないのか、わからないが『子供を授かってから、籍を入れること』という条件がだされた。


「まどろっこしいもんだ。そんな神頼みにも近い条件だされるなんて……」


「あっちは一人娘だし、子供が出来ないのを理由に離婚なんてしたら、体裁が悪いからだろ」


「まぁ、失敗はできないよなー」


 ふーと煙を吐き出しながら春馬がそう言うと、冬弥は、昨日の夜のことを思い出した。


 この婚姻を確実なものにするためには、結月との間に、子供をもうける必要があった。


 やり方は汚いが、婚約者でゆくゆくは結婚する相手。あっちだって、それなりの覚悟はあるはずで……だからこそ、酔わせて早急に一線を超えてしまおうと思った。


 一度、関係を持ちさえすれば、次から身体を許すハードルは格段に低くなるから。


(くそッ、あの女、また俺を拒絶しやがった!)


 昨晩の結月の言葉を思い出し、冬弥の胸中には更に醜い感情が増していく。


 あと少しだった。ベッドに連れ込んでしまえば、こっちのものだと思った。


 それなのに──


(また、あの時と同じだ……っ)


 冬弥は、八年前のことを思い出す。父に連れられて、初めて阿須加あすかの屋敷に行った日。


 冬弥は、結月に拒絶された。


 婚約者だと紹介された自分を見るなり、結月は『嫌だ』と言い出したのだ。


『ごめんなさい! 私、好きな人がいて。だから、あなたとは結婚できません!』


 好きな人がいるから、結婚できない。


 父親の前で真っ向から否定されたその記憶は、今でも鮮明に残っていた。


 屈辱的だった。何もかもが──


 だからこそ、あの時の雪辱を、今晴らしてやろうと思った。


 自分をコケにした女を組み敷いで、好きに弄べる。


 8年前と違い、女らしく成長した結月が、ワインとは知らずそれを飲む姿には、妙な高揚感を覚えた。


 もうすぐ、この女の全てが手に入る。


 赤いドレスを脱がして、その白い肌に自分の跡を刻みつけることができる。


 そう思ったのに、結月は、身体を許すどころか、帰るとまでいいだした。


「あー、ムカつくッ!」


「おいおい、そう荒れるなよ。どの道、邪魔した執事は、今頃クビになってるさ」


 春馬の言葉に、さらに執事のことまで思い出した冬弥は一段と深く眉間にシワをよせると、タバコの吸い殻を、灰皿に強く押し付けた。


 好きな男にまでなりすましたのに、結月には拒絶され、その上、執事にワインをぶっかけられ、散々な目にあった。


(クソ……どいつもこいつも、俺をバカにしやがって!)


「そうだ冬弥。言っとくが、次は、ないと思えよ」


「ッ……」


 だが、その後、二本目のタバコに火を付けようとした瞬間、春馬にそう言われ、冬弥は動きをとめた。


 次はない──その言葉に、思わず息を飲む。


「冬弥。俺たちの計画が上手くいくかどうかは、全てお前にかかってるんだ。阿須加家は、なかなかいい場所に土地を持ってる。特に駅前のホテルとかな。あそこは、かなりの集客力が見込める。ゆくゆくは、阿須加が所有するホテルをぶっ壊してデパートを建てる。その計画は、もう8年も前から進んでるんだぞ」


「………」


「洋介さんも年だ。いずれ社長の座をお前に引き継がせるつもりでいる。だが、正式に籍を入れないことには話にならない。いいか、お前があの阿須加家のトップにたてば、ゆくゆくあの家の土地は全てお前の……いや、俺たちのものになる。だから、早急に娘との間に子供を作れ。お前は、親父を誑かしためかけの子なんだ。そのくらい楽勝だろ?」


「…………」


 妾の子──その言葉に冬弥は苦々しげに眉を寄せた。


 冬弥は、ただ一人、上の三人とは母親が違った。いわゆる、めかけ。つまり、父である幸蔵が愛人に産ませた子供だ。


「まぁ、ざっと見て2年てとこだろうな。2年で子供が出来なければ、婚約の話ですら危うくなる。せいぜい励めよ、結月ちゃんと!」


 そう言って笑う春馬は、冬弥の肩をポンと叩いた。


 軽く痛みを感じた肩に、冬弥は春馬を軽く睨みつけたが、その後、タバコを吸い終えた春馬は、颯爽と部屋から出ていった。


「励めって、言われても……っ」


 昨日の件で、確実に不信感はいだかれている気がした。ならば、一筋縄ではいかないだろう。


 だが、父や兄が目論むその計画は、全て自分にかかっていた。


 今度こそ、失敗はできない。8年前のような失態を繰り返すわけにはいかない。


「ちっ、とりあえず、詫びに花でも送っとくか」


 改めて、二本目のタバコに火をつけて、冬弥は深く息をつく。


(今度こそ、手に入れてやる)


 あの土地も、あの家も、当主という地位も


 そして、結月の心も身体も、全て──


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