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猫に導かれて異世界へ

久しぶりにエッセイではなくファンタジーを書いてみたくなりました。

最初に告白しておきます。この作品はジブリの最新作「君はどう生きるか」にインスピレーションを得て作成しました。「君はどう生きるか」はストーリーは個人的には全然訳が分かりませんでしたが、想像力を刺激してくれました。そのため、設定に似たようなものがあります。ご了承ください。

 生まれてきて50年間、良いことなどなかった。

 いや、正確には若い頃は良い事もあった。夢も希望もあった。

 ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通に成長し、中学高校大学と進学した。その頃は親しい友人が何人もいた。恋人だっていた。

 このまま何事もなく就職し、結婚し、子供を育てて老いていくのだろう。そう思っていた。

 特別でなくとも、それで十分だと思っていた。


 何でもない人生が狂ったのは大学卒業のとき。バブルが崩壊し、就職が氷河期と呼ばれるほど新卒に対する有効求人倍率が低水準時期に入った時に就職活動を迎えてしまったのだ。

 履歴書を何社送っても、面接を死ぬほど受けても、戻ってくるのはお祈りメールのみ。

 食わなくてはいけないのでアルバイトで食いつないでいたが、翌年以降もその状況は変わらなかった。

 当時の自分は、まさかそれが失われた30年と呼ばれるほどの長期低迷時代の幕開けだったなどと知る由もない。

 景気は一向に良くならず、それどころか氷河期が終わったと思ったらリーマンショックでまた不況が来た。


 やがて、正社員など夢のまた夢になった。

 大学時代に付き合っていた彼女はバイト先の正社員に奪われた。学友たちとはやがて疎遠になった。共に竹刀を握って汗を流した仲間たちとも久しく連絡を取っていない。

 碌な稼ぎも貯蓄も出来ず、ズルズルとその状況が続いて27年。ついにはそのバイトすらコロナによって奪われた。「経営が厳しいから。」その一言で自分の27年が終わった。

 ただの一度も昇給はなく、ボーナスもなかった。

 友人とも疎遠になり、両親もとうに無くなり、残ったのは不調になる事が一気に増えた体とワンルームの賃貸のみ。


「なんだ、この惨めな人生は。。。」


 思わず呟いたそれは、誰にも聞かれることなく街の雑多な音に飲まれて消えていった。

 借金こそなかったが、それ以外は何も残っていない。


「僕、サンタさんにプラモデル頼むんだ! でっーかい戦艦のやつ!!」

「よしよし、いい子にしていたらきっと来てくれるよ。」


 すれ違う親子の会話が痛い。

 家に帰る気力すらわかない。

 ビルとビルの隙間に入って壁にもたれてズルズルと崩れ落ち、頭を抱える。


「何だったんだ、俺の人生は。。。」


 寒風に消える呟き。それに合わせて降ってくる雪。

 段々体が冷えてくるのがわかった。腹が鳴っているが、食う物などあるわけがない。何より金が無い。

 

 明日の朝には凍死体になれるだろう。。。

 そんな事を考えていると横からギャーギャーと騒ぐ音がした。

 なんだぁと目をやると複数の烏が一匹の猫を虐めていた。血を流している猫を執拗に攻撃する烏。なんだか、世間や景気に振り回されてズタボロになった自分と重なった。


「コラコラ、やめろ!」


 持っていたカバンを振り回して烏を追い払う。

 しかし、助けたはいいがこれからどうしたものか。動物病院に払う金などない。

 早まったか。いや、しかし妙な充実感があるな。そんな事を考えていると。。。


「いや、助かりました。親切なお方。ありがとうございます。」


 どこからか声がする。はて、周りを見渡しても誰もいないが?


「私です。私。」


 下から声がする。目をやると先ほどの猫だった。


「あなたは恩人です。あなたのような勇敢で親切な方を探していました。」


 猫が喋っていた。


「は? え? え?」


 なんだこの猫は? 喋る猫なんて空想の中でしか知らない。まさか、猫又は実在したのか!?


「本来なら詳しく説明申し上げるべきところですが、今は時間がありません。着いてきてください。」

「時間が無い? どういう事だ?」

「上を見てください。」


 猫に言われるまま上を見ると、大勢の烏が集まってこちらを見ている。あんな数に襲われたら一たまりもない。


「こちらへ。」


 どうやらこの猫に付いていくしかなさそうだ。小走りで人目の多い通りにでる。


「なんだ、付いてきやがる。」


 上空に数えきれないくらいの烏が集まってきている。全ての烏の目がこちらに向いている。

 烏は頭の良い生き物だと聞いたことはある。記憶力も抜群だと。だとしてもこれは何か異常だ。他の人も何事かと空を見上げている。

 猫について行くと、一つの廃ビルにたどり着いた。猫がドアノブに飛びついて器用に開ける。


「入ってください。急いで!」


 促されるままに入る。猫の先導で一つの部屋の前にたどり着いた。


「この扉が向こうに繋がっています。この扉だけはご自身の意思で開けてもらわねばなりません。どうぞ、お入りください。」

「まて、まだ何も。。。」ガッシャーン!!!


 聞いていない。と聞こうとしたところでガラスの割れる音。。振り向くとビルの窓ガラスの一枚が割れていた。どうやら烏が窓に突撃して割ったらしい。


「馬鹿な!」

 

 幾ら何でもあり得ない。烏にそんな知恵が?? 仮にあってもそこまでするか??? ガラスを割った烏は大怪我をしているにも関わらず、こちらを睨みつけてる。


「急いで!」

「…わかったよ!!」


 何が何だかわからないが、とにかくこのままでは烏に襲われることだけは確かだ。慌ててドアノブを掴んで捻る。


「開かない!??」

「引いて!!」


 あ、手前側か。押してたわ。慌てて引いてドアの影に隠れるのと、窓から侵入してきた烏の一群が突撃してくるのは同時だった。烏がドアにぶつかる音が幾つもする。


「閉じて!!」


 猫の声に応じて扉を閉めようとすると、何羽かの烏がくちばしを差し込んで妨害してきた。


「何なんだ、この烏共は!?」


 足で蹴って向こうに追いやり、無理やりどかす。ようやく閉める事が出来た。


「た、助かった…?」


 ペタンと尻もちをついて、一息入れる。


「いったい何だったんだ???」


 荒い息を整えつつ辺りを見渡す。どうやら廃屋のようだ。窓の外にはアルプスを思わせる雄大な景色が広がっていた。どう考えても日本ではない。


「大丈夫でしたか?」

「…ああ、何とか…。」


 喋る猫が語りかけてきたので、とりあえずそう答えたが全然大丈夫ではない。こんな非現実的な事が自身の身に降りかかるなんて…。


「てか、あんたこそ大丈夫なのか? ケガしてるよな。」

「見た目ほど深手ではありません。それと、申し遅れました。私、タマと申します。この度はお助けいただきありがとうございました。」

「ああ、こちらこそ。自分は高野翔太と言います。」


 名乗られたので名乗り返す。もう普通の猫でないのは分かっているので正座されて深々頭を下げられても驚きはしない。


「それで、ここは何処なんだ?」

「我々の世界です。この世界は滅びかけています。高野様、どうか我々をお救い下さい!」



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