恋と秘密と隠し味 1話+2話
1話
「行って来ます」
そう言って弟の蹴人は玄関を出た。今日からサッカー部の朝練が始まったようで、いつもより早く登校するらしい。自主連らしいので無理にいかなくてもいいのでは、と思うのだが、あいつが一年生ながらレギュラーを取っている理由はそこにあるのだろう。
両親が他界してから1年、そろそろ弟と2人暮らしの生活にも慣れてきた。蹴人も最近までは少し元気がなかったがすっかり元気になって安心だな。そんなことを考えながら制服に着替え、学校へ行く仕度をする。
「…あ、」
今日は急いでいたせいか、蹴人は玄関に弁当を忘れてしまったようだ。
「俺がもっと美味いもの作ってあげれたらな…」
母がいなくなってから、弁当を作るのは俺の担当だ。栄養だけは気を使っているが、小さい頃から料理なんてしたことのない俺には、冷食を詰め込んだ弁当で精一杯だった。もちろん料理教室に行くことなども考えたが、そんなことにお金を賭けるのは仕送りをしてくれている叔父さんに申し訳ない。
「帰りに料理本でも買っていくか」
※
4限の体育が終わってすぐ、弁当を持って蹴人がのいる1年B組に急いだ。特別棟はあまり人がいない、走って行っても誰にも迷惑はかけないだろう。そう思って階段を走っていドンッ!女の子にぶつかってしまった。我ながらフラグ回収早すぎないか?!
「す、すいませんでした。あの、弁当が、」
足元には蹴人の弁当が逆さになって転がっていた。
「本当にごめんなさい!」
「いいよいいよ それより怪我はない?」
「わたしは大丈夫です」
「なら良かった」
弁当は駄目になってしまったが、蹴人には自分のを渡せばいい。購買はどうせ完売なので教室は昼飯抜きにかるが、部活がある蹴人の昼飯が無いよりはマシだ。少し我慢することになるが帰りに何か食べてることにしよう。
とりあいず蹴人に弁当を届けるようと立ち上がり、この場をさろうとすると…
「待ってください!」
彼女は俺の手を握ってそう言った。
「よかったら放課後、家庭科室に来てください!」
※
7限が終わって放課後、昼飯を抜いたせいで午後の授業は何も頭に入ってこなかった。それより家庭科室に来いとはどういうことなのだろうか?とりあいず家庭科室まで足を急がせる。早く要件を終わらせて何か食べたいのだ。
ドアを開けて家庭科室に入ると、彼女はエプロンを着て何やら料理をしている。端正な顔立ち、整えられた綺麗な茶髪、さっきは気づかなかったがよく見ると彼女は美少女と言って差し支えのない容姿をしている。
「良かった 来てくれたんですね」
「弁当が無くてお腹が空いていると思って、これ食べてください!」
見ると机には白いご飯に味噌汁、そして豚肉の生姜焼きがおいてある。
「本当にいいの?」
「弁当を駄目にしちゃったのは私なので、私の気持ち的にも食べてもらったほうがありがたいです」
「じゃあ遠慮なく いただきます」
まずは生姜焼きから一口
「美味しい」
「それは良かったです」
美味しくて食べることに夢中になってしまい、それ以降は無言で料理に集中してしまっていた。
2話
「ごちそうさまでした」
久しぶりにこんなに美味しい料理を食べた気がする。誇張無しで店に出してもいいレベルだ。
「速水さんって言うんですか?」
どうやらぶつかったときに体操着に書いてある名字を見られていたらしい。
「速水悠人 君の名前は?」
「桃井楓華です」
「えーっと あの弁当は速水さんが作ったんですか?」
俺は無言で頷いた。しかし、あれだけ料理がうまい桃井さんに言われると、何かダメ出しでもされるのではないかと身構えてしまう。味はわかるはずないし…彩りか、それとも冷食だとばれてしまっていたか、やっぱり冷食か冷食が悪いんですか?冷食が駄目だとでも言うんですか?(キレ気味)いやいや最近の冷食はすごいんだよ?G〇NKEYなんてすっごい安いんだから、なんたってEvery Day Low Priceだよ?EDLP、いつもお世話になっております。………
「すごく考えてつくってますよね?スポーツとかやってます?そうだな~ サッカーとか」
「え?」
予想外に褒められてに思わず声が出てしまった。しかもあれはサッカーをやっている蹴人のために作った弁当だ、ずばり当てるとは…料理がうまいと人の心が読めるようになるのだろうか。
「おれはもう辞めちゃったけど弟がサッカーやってるよ。あの弁当も弟のためにつくったやつだし、ていうかなんでわかったの?エスパーなの?」
「ふふん、それはずばり、栄養価です!大盛りのご飯にミートボールとお魚、スポーツにはエネルギーが命です。極めつけはひじきの和え物です。ひじきに含まれている鉄分や大豆に含まれているビタミンB1は長い距離を走るスポーツにとって必要不可欠な栄養素です。よく走るスポーツといえばさっかーかな?とおもいまして。」
桃井さんは早口にそう言った。あぁ、この人好きなものの話になると止められないタイプの人だ。
「冷食ですませてるから栄養だけは考えてるんだ。それより、すごい詳しいね」
「私、管理栄養士になりたいんです!だから料理研究部にはいって放課後はここを使わせてもらってるんですけど.…部員が一人だけなのでもうすぐ廃部になっちゃうんですよね。ははは」
この学校に料理研究部なんてあったのか。もう廃部になるけど…。桃井さんには美味しいご飯もたべさせてもらったし何か力になりたい。蹴人のためにも料理の技術も向上させたい。そうとなれば俺のやることは決まっている。
「じゃあさ、俺もこの部活に入っていいかな?」
「もちろんです」
桃井さんは目を輝かせて言った
もろもろの手続きをすませた後に二人で校門まであるいた。いつもより視線が気になる。女の子と歩いているからか、それともやはり桃井さんが男子に人気だということなのだろうか。なんにしても注目されるのは面倒だ、早めに別れることにしよう。
「じゃあ、またあした」
「はい! あ、よかったらこれ蹴人くんといっしょに食べてください、部活に入ってくれたお礼です」
そういって桃井さんはカバンの中から袋を二つ取り出した。
「ピーチパイです 明日感想聞かせてください」
「ありがと、弟も喜ぶよ。じゃあ俺バスあるから」
そういってバス停まで走った。さてバスが来るまであと30分、なにをして時間をつぶそうか。そんなことをかんがえていたが、今日のことを振り返っているとあっという間にバスが来た。
「あざとすぎるだろ…」
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4月10日
やっと速水くんとはなせた。けど、あっちは私のこと覚えてなかったみたい。サッカーしてたことも知ってたのにエスパーなんてw 明日からは一緒の部活!今年はいい一年になりそう!