第92話 シグムスの過去2
ザインたちと別れたデュークはその結末を見る事なく、逃げるように旅に出た。そして、その末に以前自分が世話になった村へとやって来たのだった。
不死者となった上に、不義を押し付けられた彼には、国に戻る選択肢はなかったのだ。ゆえに、唯一の身の拠り所としてオアシスの村に行く事しかできなかったのだ。
村に舞い戻った彼には、以前と変わらずに村人たちから白い目を向けられながらも、村長の家へと出向く。
そこでデュークは事情を説明して、警備でも農作業でも村の役に立つから置いてくれと懇願する。最初の頃はいい顔をしなかった村長も、その熱意に押されて渋々その申し入れを受け入れた。こうして、デュークは村の一員となったのである。
初めは素っ気ない態度を取っていた村人たちも、そのデュークが見せる本気の姿勢に徐々に打ち解け始めていく。魔物が現れれば率先して倒してくれるし、力仕事も嫌な顔をせずに引き受けてくれる。そんなデュークに軟化していったのだ。それこそ、村長の娘も堂々と会いに行けるようになるくらいに。
ところが、そんな平和な生活もそれほど長くは続くかなかった。
ある時、村が大量の魔物の群れに襲われたのである。
村人は逃げ惑うが、魔物は村を取り囲むように集まってきており、そもそも狭いので逃げ場などなかった。
だが、魔物の攻撃を少しでも避けられる場所はある。デュークは水場の近くなど、簡単に魔物が到達できそうにない場所を背にして村人たちを避難させる。そこで戦えそうな村人たちにみんなの事を任せると、デュークは単身魔物へと向かっていった。
村人たちを守るべく、魔物を挑発しながら的確に1体、また1体と斬り伏せていくデューク。だが、いかんせん魔物の数が多く、手数が足りなくなったところを背後から襲われるデューク。
「グギャオッ!!」
だが、次の瞬間、その魔物は突然倒れてしまった。よく見ると、背中に矢が刺さっていた。デュークが向けた視線の先に居たのは、なんと村長の娘だった。
「わ、私だって、村のために、戦いますっ!」
そう宣言して矢を放つ村長の娘。デュークの周りに居た魔物たちは1匹ずつ見事に撃ち抜かれていっていた。
「ふっ、逃げろと言っても無駄みたいだな。それに、これ程頼もしい援護はない!」
一瞬笑みをこぼしたデュークは、魔物への攻撃を再開する。
しかし、いくら村長の娘と村人たちの協力があるとはいえ、いかんせん魔物の数が多い。気を吐くデュークにも徐々に疲れが見え始めていた。その時だった。
デュークが見せたわずかな隙を突いて、魔物の攻撃がデュークの頭部に命中する。すると、無残にもデュークの頭部が宙を舞ってしまった。
この光景には、さすがに村の誰もが絶望した事だろう。
ところが、次の瞬間、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。
頭部を失ったはずのデュークの体が、頭部を殴り飛ばした魔物をそのまま斬り倒してしまったのだ。
「やれやれ、不意を突かれてしまったな」
どこからともなく声が聞こえてくる。
「でゅ、デューク様?」
「あ、あんた、魔族だったのか!」
頭部を失いながらも魔物を攻撃し続けるデュークの姿に、村人たちは驚き戸惑っている。そんな中、村長の娘だけは先程の声の発生源に向かって動いていた。
「デューク様、こんな所に……」
デュークの頭部を見つけた村長の娘は、その頭部を拾い上げる。
「おい、何をやってるんだ。そいつは魔族だぞ」
村長の娘を怒鳴りつける村長や村人たち。だが、村長の娘は引き締めた顔をして堂々と言葉を返す。
「いえ、デューク様は見ての通り、私たちのために戦って下さっているのです。魔族だとかそんな事、どうだっていいんです!」
そう言い切った村長の娘は、持ち上げたデュークの頭部を本人に返す。
デュークが頭部を受け取って元に戻したのを確認すると、村長の娘は再び矢をつがえる。相手がヴァルチャーだろうがヘルハウンドだろうがお構いなしに矢を放つ村長の娘だが、その矢は正確に魔物を射抜いていた。村長の娘の弓の腕前は相当のもののようだ。
「私はこの村の村長の娘。だから、この村を守ってみせます!」
その頼もしい言葉に、頭を戻したデュークは魔物を再び攻撃し始める。この二人のあまりの強さに、群がる魔物たちの動きが少しずつ鈍り始めた。
ところが、突如として悲鳴が聞こえてきた。
「これは、みんなが逃げたオアシスの方だわ」
「くっ、目の前の魔物どもに気を取られ過ぎたか!」
振り返った二人が目にしたのは、オアシスの水場へと向かう魔物の姿だった。さすがに斬り捨てに行くには距離が遠いが、遠距離の攻撃を仕掛けようにもデュークの位置からでは家が邪魔になっている。これではとても救援が間に合いそうになかった。しかも今の叫び声を合図に、デューク周りの魔物たちの鈍った動きが元に戻り始めていた。
「くそっ、間に合わない!」
デュークがそう声を上げた時、水場周りに避難していた村人たちへ襲い掛かろうとしている魔物に向けて、どこからともなく強力な一閃が放たれたのだった。




