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神槍のルナル  作者: 未羊
第四章『運命のいたずら』

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第91話 シグムスの過去1

 サキは静かに、歴史書に記されていた歴史を語り出した。


 ―――


 プサイラ砂漠。

 現在のシグムス王国は、その砂漠の中にある最大級のオアシスを中心として建設された国である。

 だが、王国が建国される前にあったのは、小さな村ひとつ程度だった。砂漠という過酷な環境のためか定住する者も少なく、それは本当に寂れた小さな村だった。


 ある日の事、そんな村に傷付いた一人の騎士がたどり着いた。そのけがの程度は重く、さらにはどこの者とも分からないとあって、村人たちはその騎士を歓迎しなかった。騎士から放たれる雰囲気に恐れ、誰も近付こうとしなかった。

 ただ一人、当時の村長の娘だけは違っていた。娘は怖がるどころか、その騎士の介抱を買って出たのである。そんな彼女の献身的な介抱の結果、騎士のけがは少しずつ良くなっていった。

 ところが、傷が癒えるなり、騎士は村を追い出されてしまった。けが人だから、置いてやっただけというわけだった。

 一人去る事になった騎士を、村長の娘だけが見送りに来ていた。そんな娘に対して、騎士は声を掛ける。

「すまない、すっかり世話になってしまった。私の名はデューク。とある国の騎士団の一員だが、魔物の掃討作戦中に大けがを負い、さまよっているうちにここにたどり着いた。君は命の恩人だ、ありがとう」

「いえ……。それにしても災難でしたね。国にご無事に戻れる事を祈っております」

「この恩は忘れない」

 こうして、騎士は村を去った。

 実は、この騎士と娘の間には、特別の感情があったようだ。村長はそれに気が付き、騎士に対して更なる冷遇を行っていたのである。それゆえに、騎士は村を去る事に決めたのだった。


 その後、デュークは無事に国に戻る事ができた。しかし、そこでデュークを待ち構えていたのは、実に酷い扱いだった。

 魔物の掃討に失敗し、長い間戻ってこなかった彼は、恥さらしという扱いになっていたのだ。街の住人たちからは罵声や冷や水を浴びせられる始末である。もはや国中から嫌われている状態だった。

 その扱いにすっかり減んでしまうデューク。しかし、そんなデュークにも、声を掛けてくる存在が居た。

「お前も災難だな、デューク」

 すっかり自宅に閉じこもるようになってしまったデュークの元に、一人の男性がやって来たのである。

「……ザインか」

 同じ騎士団に所属するザインという男だった。

 辺境の村の出身であるザインだが、騎士に憧れて村を飛び出し、志願して騎士団へと入団した男である。

 最初こそ頼りない感じだったザインも、時を経るにつれめきめきと頭角を現し、今や将軍の一人を務めるまでになった現場叩き上げの武人である。

「こうなるのも仕方ないさ。私の隊は全滅の上、私一人だけがこうやっておめおめと国に舞い戻ったんだ。いろいろと疑念を持たれてしまうものだよ」

「確かに……それもそうだな」

 そう言いながら、ザインは持ってきた差し入れを取り出すと、デュークと飲み食いを始めた。

 そして、ある程度盛り上がったところで、ザインは突然真面目な表情をしてデュークに話し掛けてきた。

「デューク、聞いていいか?」

「どうした、ザイン」

「……お前、人間じゃなくなっているな? 戻ってきた時から違和感を感じてたんだが、目の前にしてそれがはっきり分かったよ。雰囲気が、まるで魔物のようだぜ」

 ザインから指摘されると、デュークは動きを黙り込んでしまった。

 とはいえ、デュークとザインの付き合いはかなり長い。さすがに隠し通せないとデュークは静かに口を開く。

「……さすがだな」

 その次の瞬間、ザインの目の前で驚くべき事が起きた。

 なんと、デュークの頭と胴体が離れてしまっていたのだ。だが、その状態でありながらデュークは動いているではないか。

「それは、呪術か……。むごいな」

「その通りだ。私はあの戦いで他の連中と共に魔族に殺されたんだ。……首を刎ねられてな」

 デュークは静かにこうなった経緯を話し始めた。

 それによれば、デュークが率いていた隊は魔物の待ち伏せに遭い、隊が全滅してしまった事。

 その際にデュークも首を刎ねられて死んでしまったのだが、魔族の呪術師の力によってデュラハンとして蘇らされた事。

 そして、その後の事も。

「……おそらく私が今も自分のままでいられるのは、君からもらったペンダントのおかげだろうな」

 デュークは首を元に戻すと、ポケットから淡い青色の光を放つペンダントを取り出した。

「呪術師の奴は私の事を洗脳しようとしていたみたいだが、これの力によって私は難を逃れたんだ。ただ、その際に魔族どもの一斉攻撃を食らってもう一度死にかけたんだがな」

 そう話しながらデュークは苦笑いをしている。

「しかし、このペンダントは不思議だな。こんなものを持っている事といい、その才能の事といい、君は本当に不思議な奴だな」

「まあそうだな。しかし、そのペンダントにそんな力があるとは思わなったぜ」

 この後、デュークとザインは思わず笑っていた。

「なあ、ザイン」

「なんだ、デューク」

「そろそろ魔王を討つ事になるのだろう?」

「ああ、被害も深刻化してきたからな。いよいよ黒幕を叩く事になった」

 デュークの問い掛けにザインが答えると、デュークは真剣な表情をしていた。

「だったら、私が道案内をしよう。私に呪術を掛けた魔族との間で、魔力のつながりがあるみたいなんだ。その関係か、今の私には奴の記憶が共有されているみたいなんだ」

「おいおい、そういう事は早く言えよ。魔王城に直接乗り込めるじゃないか」

「……すまないな。冷遇を受け続けて、どこか人間不信になっていたようだ」

 落ち込むデュークの肩を、無言で叩くザイン。そして、顔を上げたデュークに向けて、親指を立ててにかっと笑ってみせていた。

 その笑顔に安心したのか、デュークは魔王城の見取り図を描いて渡す。

「魔王の魔力に近付きすぎると、私はザインたちに牙を剥くかも知れない。最後まで付き合えない代わりにこれを持っていってくれ」

「分かった。お前の無念、きっと晴らしてやるからな」

 デュークとザインはお互いの拳を突き合わせるのだった。


 後日、二人を中心として魔王討伐に乗り出す事になる。そして、先の約束通り、デュークは魔王城の近くで別れた。

 すべてを友人に託し、デュークはある場所へと向かったのだ。

(すまない、私の一番の友人よ。できればその姿を、隣で見たかったものだ)

 デュークが走り去っていく中、ザインの手によって当時の魔王は討たれるのだった。

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