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神槍のルナル  作者: 未羊
第一章『ハンター・ルナル』
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第8話 知識の刃と紅の砦

 ルナルは鋭く素早く槍を振り上げる。そのあまりの鋭さに、ペンタホーンは驚きで後ろ足で立ちがってしまう。

 無防備にさらけ出された腹部には、禍々しい雰囲気を漂わせた魔眼石が、赤黒く光り輝いている。それを確認したルナルは、思い切り槍をペンタホーンの腹部へと叩きつける。ただし、振り上げた後の槍を器用に持ちかえていたので、叩きつけられたのは刃先ではなく柄の方だった。

 そう、ルナルはペンタホーンを傷つける事なく、魔眼石を剥がす事に注力したのだ。

 ルナルの持つ槍の柄が、一発、また一発と当たる度に、腹部にめり込んだ魔眼石が浮き上がってくる。そして、最後の五発目が当たると、衝撃に耐えきれずに魔眼石がペンタホーンの腹部から剥がれ落ちたのだった。

「こんな危険な石、放っておくわけには参りません!」

 ルナルは再び槍を持ちかえると、剥がれ落ちた魔眼石を槍で真っ二つに斬り裂く。ルナルによって二つに斬り裂かれた魔眼石は、色を失って暗い灰色の塊となり、そのまま砂のようにさらさらと崩れ去っていった。

 そして、魔眼石の支配から解放されたペンタホーンは、みるみるうちに普通の馬のような毛色と体格へと戻っていった。

「残り一体!」

 ルナルは叫びながら周囲を見回す。だが、辺りからはその気配を感じ取る事はできなかった。

 ソルトの報告では、この辺りに出没しているペンタホーンは3体のはずである。だというのに、残りの1体が姿を現さないのである。

 ルナルが警戒を解けずにいると、近くの森からソルトと一緒にルナルよりも赤い髪色の女性が現れた。その女性はソルトと似たような軍服にも似た服装を着ており、仲間だとひと目で分かるいでたちだった。

「ソルト! アカーシャ!」

 ルナルは名前を呼ぶと、警戒を解いていた。

「お久しぶりでございます、ルナル様」

「二人とも、ペンタホーンは見ませんでしたか?」

 ルナルがこう尋ねると、アカーシャは近くの木まで歩いていき、そこから気絶したペンタホーンを引っ張り出してきてルナルの方へと投げ捨てた。かなりの巨体だというのに、軽々しく投げている。

「この通り、もう倒してございます」

 アカーシャが淡々と質問に答えていた。

「それにしても、何なんですかね。体つきは知っているものとまったく違いますし、あたしらを見つけるなり、使えないはずの魔法を放ってきましたからね。……とはいえど、所詮は獣。あたしの敵ではなかったですがね」

 目の前に横たわるペンタホーンを剣で指し示しながら、愚痴をこぼしていた。

「はあ、アカーシャはいつもながら、まったく遠慮がありませんね」

 横たわるペンタホーンと剣をしまおうとしているアカーシャを見ながら、ルナルは呆れたように呟いていた。

「あたしはただ強い奴と戦いだけですからね。ルナル様のご命令がなければ、こんな雑魚になんか興味ありませんよ」

 アカーシャはただただ愚痴のように言葉を漏らしている。その様子を見ているルナルは、苦笑いをするしかなかった。

「ところで、ルナル様」

「何かしら、ソルト」

 アカーシャの口ぶりに妙な空気が流れていたが、それを遮るようにソルトが口を開く。

「このペンタホーンの腹部にあるこの石は、もしや魔眼石ではないでしょうか」

 横たわるペンタホーンの腹部を指差しながら、ソルトは指摘している。

「やはりソルトもそう思いますか。私の後ろで倒れているペンタホーンもですが、同じような石が腹部に埋め込まれていました。それを取り除いた瞬間に姿がよく知るものへと変わっていったので、ほぼ間違いないでしょうね」

 ソルトの指摘に、ルナルも同じ考えだと答えていた。

「なあ、その魔眼石って一体何なんだ?」

 ちょうどそこへ、元に戻ったペンタホーンに跨ったままのセインがやって来た。

「魔眼石というのは魔力を持つ石の一種です。使用者の魔力を乗せて持たせる事で、保有者の意識を乗っ取って意のままに操るという性質を持つ石の事なんです」

 セインの質問に、ソルトがモノクルに触れながら説明をしている。

「どうやら魔族たちは、人間たちの世界への侵略のためにこの魔眼石のような危険な魔法石まで持ち出してきたのでしょうね。それに、今回の事だけでも思わぬ収穫がありましたね」

 ルナルが真剣な表情で言うと、話が見えないセインは首を傾げている。

「このペンタホーンたちを、遠くで操っていた黒幕が居る……というわけですね」

 ソルトのモノクルがきらりと光る。

「そういう事です。ペンタホーンは魔法が使えません。それに、電撃を放つ前に、うまくカモフラージュされて気付きづらかったですが、腹部の魔眼石も一瞬ではありますが光が増しました。あれは、魔眼石が外部から魔力を受け取った証なのです。言ってしまえば、あの雷はペンタホーンが得た能力ではなく、ペンタホーンを操る者による魔法だったという事でしょう」

 ルナルは説明をしながら、横たわっている三頭目のペンタホーンから慎重に魔眼石を剥ぎ取っていた。さっき、ついうっかり魔眼石を真っ二つにしてしまったからだ。

「おそらくさっきセインが居たあたりにも魔眼石が転がっているはずです。2つもあれば分析の精度は上がるでしょうからね」

 ルナルはそう言って、剥ぎ取った魔眼石をソルトに渡す。

「ソルト、魔眼石の分析をお願いしますね」

「畏まりました、ルナル様」

 魔眼石を受け取ったソルトは、どこからともなく取り出した鞄にそれをしまい込むと、そのままその場を立ち去っていった。

「さて、これでガンヌ街道は無事に通れるようになるでしょう。私たちはギルドに報告に向かいませんとね」

 ルナルは倒れているペンタホーンに近付き、一頭ずつ撫でている。すると、ペンタホーンが目を覚まし、すっと立ち上がったかと思うとルナルにすり寄ってきた。

「よしよし、もう大丈夫ですよ。ふふっ、おとなしくていい子たちですね」

 さっきまでの戦いが嘘のように、ペンタホーンはルナルにじゃれついていた。

「それでは、この子たちに乗ってアルファガドまで戻りましょうか」

 ペンタホーンとじゃれ合うルナルには笑顔があふれていた。

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