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神槍のルナル  作者: 未羊
第四章『運命のいたずら』

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第88話 反撃開始

「クリムズンウェイヴ!」

「アイシングブラスト!」

 どこからともなく声が響き渡る。その声と同時に、襲い来るキラーパンサーとスケイルクックの群れに赤と青の光の筋が命中する。

 二つの光の筋を食らった魔物たち。赤い光に巻き込まれた者は激しく燃え上がり、青い光を受けた者は一瞬で凍り付いて砕け散っていた。

「な、何が起きた?!」

 自爆覚悟でいたサイキスは、突然の事に混乱している。

 そこへ現れたのは、魔王城で報告を見てやって来たアカーシャとソルトだった。

 しかし、二人は魔王城からやって来たにもかかわらず、サイキスの後方、つまり人間界の方向から現れたのである。その理由は至極簡単。魔族と悟られないために、人間界からやって来たと見せかけるためである。自分たちの正体が知られるという事は、主であるルナルにもその疑惑が波及しかねないからだ。

 もちろん、この二人がここに居たのは偶然ではない。境界付近の調査を丁度行っていたのだ。その最中にこの戦闘に気が付いて駆けつけたのである。

「大丈夫ですか?」

 ソルトがサイキスを気遣って声を掛ける。

「ああ、瘴気に中てられてはいるが、なんとか大丈夫だ」

 将軍という立場であるためか、サイキスは強がって答えている。

 だが、その疲労困憊な様子は容易に見て取れるくらいだった。片膝をつき、肩で大きく息をしているのだから。その状態を確認したアカーシャとソルトは、サイキスを魔物から守るように立つ。その目の前には攻撃の当たらなかった魔物がわらわらと集まってきている。

「かなりの数が居るな。ソルト、どうにかできそうか?」

「なんとかするのが私たちの役目でしょう?」

「ふっ、そうだな」

 言葉を掛け合いながら笑うアカーシャとソルト。そんな二人にサイキスが口を挟む。

「気をつけろ。あの魔物たちは統制された動きを見せておる。おそらく背後に何者かが居て、そやつが操っているのだろう」

 サイキスの言葉に、アカーシャとソルトは驚いていた。

「大した分析力をお持ちですね。なるほど、そういう事でしたら気を付けなければなりませんね」

「ふっ、確かにそうだな。だが、こちらとてだてにハンターをやってはいない。魔物たちはあたしらに任せてもらって、貴公は休んでてくれ」

「そうか、おぬしらはハンターか。だが、撤退中の我が軍の事が気にかかる。ワシだけが休んでいるわけにはいかんのだ」

 目の前に居るハンターの事を頼もしく思いながらも、サイキスは後方へと視線を移していた。だが、その様子にもアカーシャは揺るぐ事なく声を掛ける。

「後方の事なら気にするな。あたしたちの仲間がすぐに駆けつけてくる。だから、貴公は安心して休んでくれ」

「そうか……。その言葉、信じるとしよう。ワシはミムニア国将軍のサイキスだ。そなたらの名前はなんと申す?」

 言葉を信じてどっしり座り込むサイキス。そのサイキスをちらりと見た二人は、すぐに魔物へと振り返る。

「ハンターギルド『アルファガド』所属、『知識の刃』ソルト!」

「同じく、『紅の砦』アカーシャ!」

 二人の言い放ったギルド名に聞き覚えがあるサイキス。それもそうだろう、先日まで参加していたイプセルタ会議に席を連ねていたハンターギルドのひとつなのだから。

 目の前の二人の様子を見て、一介のハンターギルドがあの会議に呼ばれた理由を理解したのだった。だがしかし、

「そなたらの仲間を信じ、撤退する部隊の事は任せよう……」

 サイキスはそう言いながら、再び立ち上がる。

「だが、ワシとて軍人の端くれ! ただ守られるのは性に合わん!」

 魔物を見据えて構えを取るサイキスだった。

「多少なりと、援護させてもらうぞ」

 戦う気満々のサイキスの姿に、アカーシャとソルトは黙って頷いていた。

 この会話中に襲ってこなかった魔物たちだが、その数は着実に増やしていた。はたしてこの目の前を埋め尽くす魔物たちを相手に、三人は無事に乗り切る事ができるのだろうか。


 一方、その頃。撤退を続けるミムニア軍のもとに、マスター率いるアルファガドが合流していた。恐ろしく早い行動である。

「こいつはひでえな」

 軍の被害状況を見たマスターは、素直に言葉を漏らす。

「負傷者がかなり居るようだが、何があったんだ?」

「魔界との境界付近で魔物と交戦をした。そこで魔物たちの迎撃に遭い、やむなく撤退をしているところだ」

 マスターの問い掛けに、ミムニア軍の指揮官が答えた。

「そうか……。会議の時の発言ははったりではなく、本当に侵攻しているとは驚きだな。……ところで、サイキス殿は居ないのか?」

 マスターは顎に手を当てながら、気になる事を尋ねていた。

「サイキス様は我々を逃すために、魔物の前に単身残られた。魔物の数が多いゆえ、おそらくはもう……」

 そう言いながら、指揮官はがくりと下を向いてしまった。自分たちのふがいなさに打ちひしがれているのだ。よく見れば歯を食いしばって小さく震えている。

「心配するな。そっちにも俺の仲間が向かっている。おそらく今頃は合流していて無事なはずさ」

 マスターは下を向いたままの指揮官の肩を叩くと、連れてきたメンバーに指示を出していく。そして、

「よし、ここは任せたぞ、お前たち。俺は魔物を叩きに前方へ合流する。無事にミムニア軍を撤退させるんだ」

「分かったぜ、マスター!」

 メンバーから威勢のいい返事をもらったマスターは、サイキスが居るだろう魔物の群がる最前線へと単身急いだのだった。

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