第82話 灼熱の戦い、決着
「かはっ!」
セインの放った神聖属性の十字の斬撃と追撃が同時にフレインに命中する。
「まったく情けないもんだぜ……。何かを犠牲にしなきゃ、きっかけすら掴めないなんてな」
セインが呟くと同時に、フレインに命中していた斬撃がその胸元で爆発を起こした。
「ぐわあっ!!」
フレインはその衝撃のあまりの強さに大きく吹き飛ばされる。それでも着こんでいた鎧のおかげか、吹き飛ばされながらもなんとか立っている状態だった。思わずセインは身構える。
「ぐっ……」
だが、次の瞬間、フレインは剣と膝をついてその場にしゃがみ込んでしまった。やはり相当のダメージが入っているようで、呼吸もかなり乱れていた。そんな状態でありながらも、フレインはしっかりとセインを見ている。
「……お見事。次は、もっと……自在に、扱えるようになる……事だな」
その様な深手の状態ゆえに途切れ途切れの言葉になっているが、フレインはセインの事を褒めているようだった。
ところが、当のセインには明るい表情はなかった。その視線の先には、倒れたままのルルの姿があった。
「……勇者の力は人を守るためにあるんだろう? がきんちょ一人守れなくて、何が勇者なんだ!」
セインが大声で叫ぶ。
フレインはそんなセインの姿を見て何やら頷いている。さっきまでの呼吸の乱れが落ち着いてきて、もう回復してきているようである。さすがは精霊といったところだ。
「だ、そうですよ。もう起きて大丈夫ですよ、ユグドラシルの精霊。一芝居打ったかいがあるというものではないでしょうかね」
ルルの方を見てフレインから出てきた言葉に、セインは驚くしかなかった。
次の瞬間、さらに驚かされるセイン。
「ぷはーーっ!! 地面が熱すぎですよ! もう少しで燃えちゃうところじゃなかったですか!」
なんと、地面に倒れていたルルが、ぴょんと飛び上がったではないか。そして、その勢いでフレインへと突っ掛かっていっていた。セインには一体何が起きているのか分からなかった。
「いや、大体この作戦を思いついたのは君でしょう。それなのにどうして私が文句を言われなければならないのですか」
「うっ、確かにそうですけど~……。むぅ~、村でもらった一張羅が派手に裂けちゃってるじゃないですか。フレインさん、直してもらいますからね!」
「ははっ、分かりました。城に戻ったら修繕してもらえるように手配しますよ。しかし、作戦通りにいってよかったじゃないですか」
「まったくですよ。これでセインさんがヘタレだったら、私はただのやられ損でしたからね!」
苦笑いを浮かべるフレインとは対照的に、ずっとぷりぷりと怒っているルルである。この二人の会話を、セインはまったく理解できないという様子で見守っていた。それに加えて作戦通りとは言っているものの、一体いつそんな事を決めたのだろうかと首を捻っている。
「セインくんは知らないと見えますが、私たち精霊というのは思念で話をする事ができるのですよ」
「そうそう。だから、私もお姉ちゃんと話ができるし、こうやってセインさんに知られないように作戦を決められたんだよ」
フレインの説明に、うんうんと首を縦に振って話を付け加えるルル。そんな話をされて、セインはルルの方を見ながら呆然としていた。
「ちょっと、どこを見てるんですか、セインさん!」
「ぐはっ!」
自分の裂けた服を見られていると感じたルルは、手に持っていた杖で思い切りセインを殴っていた。その様子を見せられたフレインは、普段見る事ができないくらいの大笑いをしていた。
決着がついて和気あいあいとしているセインたちと違って、ミレルはまだイフリートと睨み合いをしていた。
「どうやら、あちらは決着がついたようですね」
「そのようだな。ならば、こちらもいい加減に決着をつけようではないか!」
「ええ、そうですね。こちらとてイフリート様相手とはいえ、負けるつもりはありませんからね!」
「ほほぉ……。ならば、その力をとくと見せてみろ!」
二人は互いの拳をぶつけ合う。この肉弾戦はまだ続きそうだった。
ルルから説明を聞いて、ようやく状況が理解できたセイン。
「それにしても、なんて博打を打ちやがるんだ」
「ぶーぶー、それくらいしないといけないくらいに、セインさんが頼りないのが悪いんですよ」
「ええ、まったくですよ。戦い方もなっていませんし、明らかに経験が不足しています。ですが、今回の事で、何かしらの手応えはあったと思いますが?」
「うーんまあ、なんとなくはな」
「ちょっと待って下さい。あれだけ体を張ったというのになんとなくなんですか!?」
「しょうがないだろ、必死だったんだからよ!」
煮え切らないセインの言葉にルルが怒っている。いくら精霊とはいえ、一歩間違えば死んでいたのだから、怒るのは当然だろう。あまりに怒られるものだからセインはつい横を向いてしまう。だが、この時のセインは何かに気が付いたようだ。
「おい、ちょっと待て」
「ごまかそうとしないで下さい!」
「いや、この炎の壁……、ちょっとずつ近付いてきてないか?」
セインがそう言うと、さっきから怒りっぱなしだったルルも確認するように左右を見る。
「あ、あれ? 確かに狭くなってきてる?」
よっぽど戦いに必死だったのか、セインもルルもこの異常事態に気が付いていなかった。そう、途中でミレルが気が付いた違和感の正体こそ、この壁の接近だったのである。
「やれやれ、この変化に気が付いていないとは、まだまだのようですね。戦いに身を置く者として、常に周りを見て気に掛けておく事ですよ」
「むぅ……」
フレインが呆れたように苦言を呈していると、ルルは頬を膨らませていた。
「さて、いい加減に我が主イフリート様を止めに参りましょうか。あの方は相手が降参するまで戦い続けますから、この分ではかなり待たされる事になります」
フレインのこの言葉で、セインとルルは戦いを見守るウンディーネのところへと向かう。
「ウンディーネ、イフリートを止めて頂けますか?」
「ええ、そうですね。あの分ではまだ当分戦い続けそうです」
ルルの言葉を受けて、ウンディーネは戦いの仲裁に乗り出す。
「そこまでですよ、イフリート。もう十分楽しんだでしょう?」
「邪魔をするな、ウンディーネ。こんなわくわくする戦いを邪魔する気か?」
「あなた、自分が仕掛けた炎の壁をお忘れですか? このまま戦い続ければ、このミレルは炎の壁に挟まれてしまいますよ?」
「ぐっ、ぬぅ……。それは仕方がないな」
ウンディーネの説得で、イフリートは仕方なく戦いを止めた。こうして、灼熱の谷での戦いは決着を迎えたのだった。
「ミレルとかいったな。また機会があれば戦おう。そこなルルとかいう小娘、この俺様と契約できる事をありがたく思え」
「ありがとうございます、イフリート」
こうして無事にイフリートと契約する事ができたルル。
しかし、現状ではミレル以外はまだまだ課題が多い事が浮き彫りになっただけだった。はたして、セインとルルは今以上に成長する事ができるのだろうか。
 




