第81話 輝け!光の魔法剣
ルルの言葉で大見得を切ったセインだったが、その肝心な策は何もなかった。セインは正直焦っている。
目の前で氷の檻に閉じ込められているフレイン。よく見ると体も広範囲で凍り付いているのだが、腕は動く状態にあった。フレインは何と言ってもシグムス王国の兵士だ。そんな彼の腕が動くのならば、策もなく下手に飛び込めば返り討ちに遭う可能性だって十分にある。これまでの戦いを踏まえ、それを警戒しているのでセインは躊躇しているのである。
(くそっ! ああ言った手前、何かしねえといけねえが、一体どうしたらいい?)
必死に考えるセインの脳裏に、突如としてある時のルナルの姿が過る。
それは、ジャグラーとの戦いで見たルナルの姿だった。
あの時のルナルは、セインの持つ破邪の剣の力を借りて戦っていた。魔王でありながら、危険を顧みずに破邪の剣の力を引き出していたのだ。それならば、勇者の子孫である自分にも使いこなせるはずだ。セインはそう考えたのである。
セインは剣を構えると、力を引き出そうとして念じ始める。
だが、その選択肢は、今この場においてはあまりにも愚策だった。
ここは炎の谷にあるイフリートの本拠地だ。周りは常に炎に包まれており、いくらウンディーネ本体が居てその加護があるとはいっても、この環境下でいつまでも氷の束縛がもつはずもないのである。
目の前にあるセインの姿には、さすがのフレインも呆れてしまっていた。
「せっかくユグドラシルの精霊が作り出した好機を逸してしまうとは……。我々は少々買いかぶり過ぎてしまいましたか」
ため息を吐いたフレインが少し力を籠めると、体の周囲に炎が噴き出す。すると、その力によって氷の束縛をいとも簡単に破ってしまったのだった。
「うう、やっぱり私程度の力じゃ通じないか……」
ルルの表情が渋る。
「むう~……。だったらもう一度!」
改めて氷の魔法を使おうと構えるルルだったが、その瞬間、ルルの体に一閃が走る。
「あ……」
フレインの放った斬撃が、ルルの体を捉えたのだ。
驚きの表情を浮かべ、ルルは鮮血を散らしながらそのまま地面へと倒れてしまった。セインはただその姿を見ている事しかできなかった。
「がきんちょっ!」
セインが叫ぶ。叫ぶが体はまったく動かない。目の前の光景による衝撃が大きすぎて、体が強張ってしまっているのだ。
地面に仰向けに倒れたルルはぴくりとも動かない。地面が真っ赤なせいで分かりづらいが、服を赤く染めながら、周囲にじわじわと赤い液体が広がっていっている。
倒れたルルを見て、セインは体を震わせている。そのセインを、フレインは非常に冷めた目で見る。
「ふっ、実に情けないものだな。大口を叩いておきながら、何もできずに棒立ちとは……」
そう言いながら、フレインはセインの方を向く。しっかり腰を落として剣を構える様子は、まるで大技を放つ予備動作のようである。
「せめてもの情けだ。苦しまぬように、一撃でその子の後を追わせてあげよう。後悔ならばあの世で紡ぐのだな!」
フレインはさらに力を籠める。
ところが、セインにはそんなフレインの姿も声もまったく入ってこなかった。ただただ、地面に横たわるルルの姿から視線を外せなかったのだ。しかし、フレインが攻撃態勢を整えた今、このままではセインもルルと同じように、フレインに斬られて殺されてしまうだろう。
その時だった。セインの中に強い思いが蘇った。それは、以前立ち寄ったゴブリンに支配されていた村でルナルと交わした約束だった。
その時交わした約束はまだ果たせていない。ならば、今ここで死ぬわけにはいかない。
セインが強く思った瞬間だった。
「な、なんだっ?!」
突如として、セインの体から眩いばかりの光が放たれる。
「うっ、な、なんだ。この光はっ!?」
あまりに突然な事で、フレインは目がくらんで動きを止めてしまう。今まさに攻撃を仕掛けんとしていただけに、実に危機一髪な状況だった。
一方のセインは、眩い光の中で体中に力があふれてくるのを感じていた。
「この光は……。これならやれる!」
セインは改めて剣をしっかり握りしめると、フレインの方を向いて大声で叫ぶ。
「へっ、待たせたな! これが俺の力だ!」
そして、剣を大きく振り上げる。
「がきんちょの仇だ! 食らいやがれ、聖刃十破斬!」
力を籠めて、セインは一気に剣を振り抜く。
セインから放たれた斬撃は、聖なる力をまとって十字の斬撃へと変化する。
「ふん、この程度!」
眩い光で一時的に体勢が崩れていたフレインだったが、素早く立て直してこの攻撃に対処しようとする。
ところが、目がくらんでいた事もあって、この斬撃とともに動いていたセインを見落としてしまった。眩い光とこの斬撃のインパクトが大きすぎたのである。
「うおおおおっ!!」
フレインの死角へと回っていたセインが、思い切り斬りつける。
「なっ、いつの間に!」
完全に虚を突かれてしまったフレインは、声で気が付いたものの、その身にセイン渾身の一撃を受けてしまったのだった。




