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神槍のルナル  作者: 未羊
第一章『ハンター・ルナル』
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第6話 ペンタホーン

 カラカラカラ……。

 ガンヌ街道を数台の馬車がゆっくりと進んでいる。一台は箱馬車、残りは荷物を積んだ幌馬車という編成になっていて、どうやらこの馬車群は商人のもののようである。

 それにしても、ペンタホーンの出没の話は広がっているだろうに、よく馬車を出せたものである。

 その中の唯一の箱馬車の中から外を覗いていた男が、対面に座る小太りの男に声を掛ける。

「旦那様、間もなく魔物が出没すると言われている地点に差し掛かります」

「そうか」

 旦那様と呼ばれた小太りの男は、対面に座る男の言葉に反応する。そして、

「お前たち、しっかりとわしらを護るんだぞ! 魔物を怖がって往来が消えた今こそ、わしらの絶好の機会なのだからなっ!」

「畏まりました!」

 開いた窓から小太りの男の声を聞いた御者台の人物が反応する。そして、

「野郎ども、俺たちハンターの力を魔物どもに見せつけてやるんだ!」

「合点承知!」

 周りに居る護衛たちに声を掛けると、実に頼もしい声が返ってきたのだった。


 商人たちの乗る馬車は、無事にガンヌ街道を進んでいく。しかし、魔物が出没するという地点を少し過ぎたところで、その場の空気が急激に変化した。

「ヒヒーン!!」

 突如として響き渡る馬の(いなな)き。その嘶きは、馬車を牽くどの馬のものとも違う、鋭く重いものだった。

「魔物が出たぞ! 全員構えろっ!」

 商人に用心棒として雇われたハンターたちが、馬車群を取り囲んで武器を構える。どこから襲われてもいいように強く警戒しながら辺りを見回している。

 だが、次の瞬間!

 びゅんと用心棒たちの間を一陣の風が吹き抜けた。

「うわあっ!」

 叫び声と同時にバタンと倒れる音が響き渡る。

「どうした?!」

 慌てる用心棒たちが倒れた用心棒を見る。すると、そのわき腹から出血しているではないか。

「なっ?! いつの間に!」

「さっきの風か! あれが奴の攻撃だったんだ!」

「くそっ、速すぎてまったく見えなかったぞ!」

 用心棒たちは警戒をさらに強めながら、支援役に負傷した用心棒の手当てをさせる。警戒を強めてはいるが、先程の攻撃をされたのでは対処のしようがない。用心棒たちに言い知れぬ恐怖が襲い掛かる。

 その時だった。

槍竜閃(そうりゅうせん)!」

 商人の馬車群の近くを、一筋の衝撃波が駆け抜ける。その衝撃波に驚き、用心棒たちを襲った魔物の姿がついに明らかになった。

「なっ、なんだこいつは!」

「これは、ペンタホーンか?」

「俺たちの知ってるペンタホーンじゃねえっ!」

 用心棒たちが口々に叫んでいる。

 それもそうだろう。目の前に現れたのは全身の筋肉が醜く盛り上がり、体躯は全身が黒く変色し、たてがみは鋭く針のように逆立っている馬の魔物だったのだから。だが、頭部に生える5本の鋭い角が、そこに居る魔物が間違いなくペンタホーンだという事を物語っていた。

「大丈夫ですか?」

 用心棒たちの前に赤い髪の女性が現れる。

「あ、あんたは?」

「私はハンターギルド『アルファガド』のルナルと申します。ペンタホーン討伐の依頼を受けてやって参りました」

「あんたがあの有名なルナルなのか」

 ルナルの名乗りを聞いて用心棒たちが騒ぎ出す。

「ここは私たちに任せて、みなさんは先を急いで下さい」

「おい、急げったって、本当に大丈夫なのか?」

 あの素早いペンタホーンを見た用心棒たちは、ルナルの言葉に素直に従えなかった。

「大丈夫です。私の友人も駆けつけていまして、周囲を警戒してもらっています。ですので、安心して通り抜けて下さい」

 ハンターたちの間で一目置かれているルナルと、その友人たちが来ていると聞いて、用心棒たちは安心をする。そして、商人にそれを伝えると、

「すまない、恩に着る」

 ルナルに礼を言って、馬車群を率いて走り去っていった。その際、目の前に居たペンタホーンを牽制しながら、馬車を襲わせないように注意を引いていた。

 馬車が走り去ったのを見ると、ルナルは目の前の歪なペンタホーンを見る。

(それにしても、このペンタホーンは元の状態とは大きくかけ離れてますね。強大な魔力を感じますが、これ程の魔力にペンタホーンがとても耐えられるとは思えません。となると、ペンタホーンに魔力を与えて操っている存在が居るのでは?)

 ルナルが冷静にペンタホーンの状態を分析している。

「ヒヒーーーン!!」

 警戒して動きを止めていたペンタホーンが、動かないルナルを見てついに襲い掛かってきた。

「甘いですね!」

 だが、その攻撃を素直に食らうルナルではなかった。ちょんと横っ飛びで初撃を躱す。攻撃を躱されたペンタホーンだったが、すぐさま踵を返して再び突進を繰り出す。鋭く風のように走り回るペンタホーンの攻撃だが、ルナルはその攻撃のすべてを、まるで踊っているかのように躱していく。用心棒を一撃で瀕死に陥れたペンタホーンだが、それがまるで子ども扱いである。

 ルナルはこうして攻撃を躱している間も、この異常なペンタホーンの状態を注意深く観察していた。そして、その際に幾度となく、腹部の辺りでチカチカとする光のようなものが目に入っていた。どうやら、腹部に光を発するか反射する物があるようである。

(何でしょうかね、あの光は。それに、ペンタホーンにはそのようなものはないはずですが?)

 ルナルが気になっていると、突然、ペンタホーンがその動きを止めた。突進を躱して着地したルナルだったが、その時見た予想外の光景に動きを止めてしまう。

 それというのも、動きを止めたペンタホーンの目が赤く光り、角がバチバチという音を立てて光り出したではないか。なんと、電撃を帯びた魔力が角に集まり始めたのだ!

「なんですって!? ペンタホーンには魔力はおろか、特殊能力の類は一切持っていないはずですよ!」

 驚きのあまり、ルナルはその場から動けない。そこへペンタホーンの角から強力な電撃が放たれたのだった。

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