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神槍のルナル  作者: 未羊
第三章『それぞれの道』

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第64話 荒れ狂う風

 突然の爆発音がイプセルタの街に響き渡る。

 あまりに大きな音だったがために、この音は当然ながらアイオロスを探して街を移動するルナルたちの耳にも届いていた。

「なっ! 何なんですか、今の音は」

「どうやらこの音は、向こう側からのようだな。あそこは確か、貧民街の方だ」

 叫ぶルナルに対して、智将はとても落ち着いて答えている。

 それを聞いたルナルがマスターに声を掛けようと振り向くと、なんとそこにはマスターの姿はもうなかった。

「あーっ、またあの人はっ!」

 忽然と消えたマスターに、ルナルが叫ぶ。

「……智将様、私たちも急ぎましょう」

「うむ、そうだな」

 ルナルと智将の二人は、マスターに構う事なく、爆発音のした貧民街の方へと急ぐのだった。


 一方、その頃の貧民街では……。

「おら、どうした。立てよ」

 凄まじい威力の風が吹き荒れ、周りの建物がいくつか壊れて崩れてしまったようで、辺りには土埃が舞っている。その中で平然と立って喋る一つの人影があった。

「あーあ、もう終わりかよ。……ホント人間って弱っちいな」

 冷たく鋭い視線が、地面にうずくまる追いはぎたちに向けられている。その様子から察するに、アイオロスの興は完全に削がれてしまっているようである。

「う、うう……。な、何なんだ……こいつ」

 アイオロスが発したたった一発の爆風で、立っていたリーダー格はおろか、地面にうずくまっていた追いはぎたちは容赦なく全員が吹き飛ばされてしまっていたのだ。彼らは壁にぶつけられたり、舞い上げられて地面に叩きつけられたりと一様に動けなくなってしまっている。かろうじて動いているのは立っていたリーダー格のみで、それ以外は気を失ってしまっているようだ。唯一動けるリーダー格の表情は、恐怖に怯え、完全に青ざめていた。

 アイオロスは軽く首を鳴らすと、追いはぎたちを睨み付ける。

「はあ、ちくしょう……。何て言うか暴れ足りねえ……」

 満足できていないらしく、アイオロスは落ち着きが無くなっている。そして、追いはぎたちに吐き捨てるように言う。

「なあ、もう少し俺の遊びに付き合ってくれよ。ああ?!」

 アイオロスの顔が不敵に笑う。その表情を見たリーダー格は死を覚悟する。

 そして、アイオロスが追いはぎたちに更なる追い打ちを掛けようとしたその時だった。

「やれやれ、風っていうのはどうしてこうも、落ち着きがないんだろうなっ!」

 どこからともなく声がすると同時に、アイオロス目がけて衝撃波が飛んできた。

「なっ!」

 不意を突かれたアイオロスだったが、どうにか衝撃波を躱すと、それが飛んできた方向へと視線を向ける。

「マスター……様」

 アイオロスが視線を向けた先、そこには剣を持ったマスターが立っていた。剣を抱えたままマスターは、アイオロスへとゆっくりと歩み寄っていく。

「へえ、お前はそういう姿なのか……。なるほど、見てくれだけは整えてんだな」

 初めて見る姿だが、マスターはそこに居る男性がアイオロスだと確信している。

「だが、姿を変えたところで、お前の荒っちい魔力や雰囲気は隠せてねえな。おかげですぐ分かったぞ」

 マスターは剣を収めて顎を触りながらアイオロスを見ている。

「それにしても、持ち場を離れてイプセルタの街の中で油を売っているとか、俺はそんな指示を出した覚えはないんだがなぁ……」

 顎をさわさわとしているマスター。その様子を見ると怒っているようには見えないのだが、実はこれでかなりお冠である。

 ところが、アイオロスを咎めようとするマスターに対して、アイオロスが反論をしてくる。

「俺に説教するつもりでしょうが、そういうマスター様こそどうなのですか! 5年……、5年間もシッタを離れておいて、よくもそんな事を言えますね! その間、俺たちがどんな思いで留守を守っていたと思うんですか!」

 先程までとは打って変わって、アイオロスの声は震えていた。

「あー、それはエウロパにも言われたな」

 マスターは頭をぼりぼりと掻いたかと思うと、次の瞬間、アイオロスの目の前まで移動していた。

「だが、あの頃の状況を鑑みるに、お前たちだけでも十分やれると判断したから任せたんだ。正直、あんな面白い逸材を見つけられて、この5年間は実に有意義だったと思うぞ。ずっと近くで見ていたいと思えるくらいにはな」

 そうとだけ言うと、マスターはアイオロスから視線を外す。アイオロスがその視線を追いかけると、そこにはマスターを追いかけてきたルナルと智将の姿があった。

「はあはあ……。まったく、なんであなたは、いつもそうなんですかっ!」

 息を切らせながらも、ルナルはマスターに向かって怒鳴っている。

「はっはっはっ、いや悪かったな。身内の件なもんだから、つい先走っちまったぜ」

 そう言いながらマスターは、アイオロスの隣に立ってその頭をぺちぺちと叩いている。

「身内? ……という事は、そのマスターに絡まれて嫌な顔をしているその彼が『アイオロス』ですか?」

 ルナルはこう言いながら、マスターの手を払おうとしているアイオロスをじっと見つめる。

「ああ、そういうこったな」

 マスターは肯定する。

 そう、マスターの真横に立つ茶色がかった緑色の髪の毛の男性こそ、探していた五色龍の一体『疾風龍アイオロス』である。

「さて、アイオロス。詳しい事はイプセルタでの用事が終わった後にでも話してやるから、今日のところはおとなしく……」

 マスターが話を途中でやめる。

 それというのも、先程の爆発音を聞いて動いていたイプセルタの警備兵たちが駆けつけてきたからだった。そして、その場に居合わせたルナルたちは、やむなく警備兵たちに同行する事になったのだった。

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