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神槍のルナル  作者: 未羊
第三章『それぞれの道』

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第60話 マスターという男

 酔っぱらって荒れるルナルをどうにか寝かしつけたマスターは、会食の場へと戻って智将と再び合流する。そして、話があると言って、二人でテラスへと移動する。

「ところで、ルナル殿はちゃんと寝たのかい?」

「ああ、疲れてたのかぐっすりだ」

 心配そうに言う智将に対して、マスターは苦笑いをしている。

「それにしても、ルナル殿は酒を飲むといつもああなのかい?」

「見ての通りだよ。酒は弱い方なんだ。だからいつもは、一杯程度で留めさせておくんだがな……」

「まあ、こういう場じゃどんどんと勧められるからな、飲んでしまうのも仕方ないか」

「人の良さがあいつの特徴だからな。そういう事もあって、いろいろと溜め込んでいるようだよ」

 星空の下に出ての二人っきりの会話。男女なら憧れるシチュエーションかも知れないが、残念ながら今は男二人である。だが、マスターと智将との間には、何かわけありげな空気が漂っていた。

「で、折り入って話というのは、どういうものだろうかな」

「明日一日あるんでな、ちょっと付き合って欲しい場所があるんだ。魔族を副官として持っていて近いもある智将殿を見込んでの話なんだが、構わないかい?」

 質問に対して返ってきた言葉に、智将が表情を曇らせる。

「いや待て、私の副官には会わせた事はあるが、魔族だと教えた事はないはずなんだが? ……いや、マスター殿相手では、聞くだけ無駄か……」

「はっはっはっ、悪いな。とりあえず返事をくれ。明日はちょっと付き合ってもらえるか?」

 マスターは大笑いをして、にやつきながら智将を見ている。智将はしばらく考え込んだものの、どこか諦めたように口を開く。

「ふむ、どうにも釈然としないところはあるが、別に構わない。本当にルナル殿の言う通り、マスター殿はつかみどころがないな」

「いやあ、そうも褒められちゃ嬉しいものだな」

「……褒めてはいないのだがな」

 マスターが大声で笑うので、智将は困惑気味にツッコミを入れる。すると、マスターの笑いが一段と大きくなった。

「まぁ、決まりだな。それじゃ明日は楽しみにしてるから、先に休ませてもらうとするか。ではな、智将殿」

 マスターはどかどかと足音を立てながら、会食の場を去っていった。

 一人残された智将は、夜空を見上げてため息を吐くのだった。


 翌朝、晴れ渡った気持ちのいい朝を迎えた。

「やあ、いい天気だな!」

 部屋にマスターの声がこだまする。これだけなら別に問題のない事だったが、問題なのは居る部屋だった。

「エクスプロード!!」

 マスターの声に驚いたルナルが、反射的に上級魔法を放ってしまう。


 ドゴオオォォンッ!!


 大きな爆発音が響き渡る。

 それだけド派手な音を立てた割には、部屋の被害がなかった。もうもうと煙が立ち込める中、上半身裸の筋肉だるまがそこに立っていた。

「こんな朝から乙女の寝起きを覗きに来るとは、本っ当にいい趣味をしてますね!」

 ルナルは大層ご立腹のようである。

「おう、おはようだぞルナル。それにしてもいきなり爆炎魔法とは、大げさな挨拶だな。あと、一体誰が乙女なんだ?」

「うるさいですね!」

 まるでいつもの事のように落ち着き払っているマスターである。

 ところが、あれだけ大げさな音のした爆炎魔法を食らったはずのマスターは、なんと無傷だったのだ。そして、部屋にもまったく被害はなかった。どうやらマスターはあのド派手な魔族の火属性上級魔法である『エクスプロード』(ちなみに人間の火属性上級魔法はルルの使った『サンシャイン』)の威力を抑え込んだようである。一体何者なのだろうか。

「まったく、あんな魔法を使うとは。俺じゃなかったら今頃部屋の中は火の海だぞ。ここはイプセルタの城の中なんだからな、ちったあ気を付けてくれ」

 こう言われると、ルナルはふて腐れてマスターを見る。

「そ、それは悪かったとは思いますが……。大体、人の部屋にいきなり入ってくる方もどうかと思いますよ!」

「悪いな。用事があって起こしに来ただけだ。とりあえず着替えて支度をしてくれ。朝食を食ったら智将と一緒にお出かけだからな」

 それを聞いたルナルは首を傾げる。

「智将様とですか? 一体どこへと行くのですか」

 ルナルが尋ねると、マスターは窓の外に見える山の方を見てこう言った。

「シッタだ」

 その単語に、ルナルは驚いたのだった。


 朝食を食べ終えると、宣言通りにマスターはルナルと智将を連れて外へと出ていく。

「それで、どちらに向かわれるのですかな?」

「霊峰シッタだ」

 問いに対してのマスターの返答に、智将が驚愕の表情を浮かべる。

「なっ、マスタードラゴンの住処と言われるシッタへ行くというのか? 一般人には恐れ多すぎないか?」

「はははっ、なーに、大丈夫さ」

 智将の不安に、マスターは平然としていた。

 それにしても、このマスターという男は謎が多すぎる。

 魔王であるルナルを子ども扱いする上に、その身の上をすべて知っている節すらある。それに加えて、話した事のない事すらも、あたかもすべて直接見聞きしたかのようにすべて知っている。マスターに聞こうとしてものらりくらりと躱す。そのすべてにつかみどころがない。本当に謎の人物だった。

 そして、今回も知らない間に霊峰シッタに出向く事になっていた。

 この辺りの事は、シッタに行けば何か分かるかも知れないと、シグムスにその人ありと言われた智将ですら考える事を諦めるほどだった。

 山道を歩く事、かなりの時間が経った。辺りは次第に霧が濃くなり始めてきており、マスターが言うには、そろそろシッタの聖域にたどり着くらしい。

 その時だった。

 三人の前方の霧の中に、かすかに人影が見えたのだった。その人影とは一体何者なのだろうか。そして、なぜここに居るのだろうか。智将とルナルは身構えた。

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