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神槍のルナル  作者: 未羊
第三章『それぞれの道』

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第59話 地下から地上へ

 書庫からしっかりとした装丁がされた本を、ミレルが警戒しながら手に取る。だが、予想に反して何も起こる事はなかった。

「部外者が取ると罠が発動するかと思ったのですが、何ともなかったようですね」

 ミレルは表紙に書かれた『歴史書』の文字をじっくりと眺めている。

 そして、改めて本棚を見る。この歴史書と同じように保存状態の良い本は、目の前の本棚の多くの部分を占めていた。すべてが歴史書とは限らないだろうが、これ程の冊数を運び出すとなると、三人では到底無理な話だった。なにせ途中の通路には魔物だって出るのだから。

「建国からどれほどかは知りませんが、さすがにこの数は多すぎますね。いかが致しましょうか」

 困り果てたミレルが独り言のように呟いていると、トールが思い出したかのように話し始めた。

「おお、そうだ。主からこれを預かっている。よかったら使ってくれぬか」

 その言葉と同時に、トールはきれいな紋様が描かれた袋と、淡く光り輝く王冠のような兜を取り出した。

「これは?」

「昔、魔王を倒した勇者が持っていた物だ。ゆえあって、主がこれを預かっていたのだ」

 トールの説明によれば、この兜は『破邪の剣』や『勇者の籠手』と同じように勇者が使っていた装備で、装着したものに知識と知恵を与えるといわれている『竜王の冠』と呼ばれるものらしい。きれいな袋の方は『夢袋』といって、多くの道具などをしまう事のできるそうなのだ。

「この袋は生きたもの以外ならほぼすべてをしまう事ができる。その仕組みを説明しろと言われても、我にはとても説明できる代物ではない。長きを生きる我とて、完璧ではないのだ」

 トールから差し出された兜と袋を、ミレルはしっかりと受け取る。

 だが、次の瞬間。

「ぐっ、ぬぅ? な、何ですか、この重さは?!」

 明らかに見た目に軽そうな兜と袋を、猫人であるミレルが必死の形相をして抱えていた。

「そういえば、勇者が持っていたものという事は……」

 だが、その厳しい状況下でも、ミレルは考えるだけの余裕があったのだ。

「セインくん、これを……受け取ってくれないでしょうか」

「うん? まあ、いいけど」

 ミレルから声を掛けられて、セインは兜と袋をミレルから受け取る。するとどうだろうか、ミレルがやっとの事で持っていたそれらを、セインはなんと軽々と持ってしまったではないか。

「なんだよ、めちゃくちゃ軽いじゃねえか」

「やはり、そうでしたのね」

「ふむ、それらを軽々と持つという事は、その青年は勇者の血筋の者という事か。どうりで攻撃に違和感を持つわけだ。龍族とはいえど、我もその『破邪の剣』の影響を受けるからな」

 セインが兜と袋を軽々と持つ姿を見て、ようやく違和感の正体に納得がいったようだった。

 その一方で、セインの方はまだ勇者の血筋であるという事に実感が持てずにいるのである。

「さて、話はこれくらいにしておこうか。あまり時間の余裕はないのだろう?」

 困惑するセインを横目に、トールはミレルに話し掛ける。

「そうですね。シグムス王の状態は芳しくありませんからね」

 そう言って、ミレルは後方に居るルルへと声を掛ける。

「ルルちゃんもこちらに来て、本を集める作業を手伝って下さい」

「あっ、はーい。今行きます」

 ミレルたち三人は、本棚から歴史書だけを選んで夢袋へと放り込んでいく。そうして、3~40冊はあったかという歴史書が、人の頭よりも小さい夢袋の中へとすべて収まってしまったのだった。

「驚きましたね。この大きさの中にあれだけの冊数が全部入ってしまうなんて……」

「どういった仕組みになっているんでしょうね。興味が湧いてきます」

 ミレルもルルもものすごく驚いた様子で見ている。

「終わったか? 終わったのであるなら、我の力で地上へと送り届けようぞ」

 その様子を見ていたトールが話し掛けてくる。

「よろしいのですか?」

「主より、うぬらの手助けをするように仰せつかっておる。少なくとも、主から次の命が下るまでは、このシグムスに滞在するつもりだ。いつまでかは分からんゆえに、当てにされても困るがな」

「承知致しました。では、地上までよろしくお願い致します」

 ミレルが頭を下げると、トールが魔法を発動させる。

 眩いばかりの光に包まれたかと思うと、ミレルたちはあっという間に地下の書庫から姿を消してしまったのだった。


 一方、その頃。イプセルタに居るルナルたちはというと……。


 会議の開催が明後日と正式に決まったイプセルタ城内の食堂で、ルナルたちは食事を取っていた。

「はあ?! 自分の部下をシグムスに送り込んだですって?」

 その席で、ルナルはマスターが言い放った言葉にキレていた。

「おいおい、こんなところで大声で叫ぶなよ。……まったく、酒が入ると人が変わり過ぎるなぁ、ルナルは」

「私は酔ってませんよ!」

 そう叫ぶルナルの顔は真っ赤だった。

 会議を前に交流を促す、来賓を揃えて行われている会食の場。スムーズに進めるためにお酒が振る舞われたのだが、そのお酒を飲んだ途端にルナルはこうなった。

「やれやれ、ルナル殿はいつもこうなのかい?」

「ああ、そうだ。だから酒には警戒してたんだが、勧められたら飲んじまうよなぁ……」

 ルナルにやたらと絡まれるマスターだが、慣れているのか飄々としてそれをあしらっている。

 しかし、さすがにこの会食の場なので、以前みたいなボロを出されては困るので、マスターは智将に声を掛けた。

「智将殿、このお転婆なお姫様を寝かしつけた後、ちょっと二人で話をいいですかな?」

「誰がお姫様ですか!」

 話し掛けられた智将が反応するよりも早く、ルナルが文句を言っていた。さすがに早すぎる。

「どうどう。ささっ、長旅で疲れてるんだから、さっさと休みましょうぜ、お姫様」

「だから、誰がお姫様ですかーっ!」

 智将の答えを聞く事も出来ず、マスターはルナルを連れて会食の場を後にする。さすがはマスター、ルナルの扱いには慣れたものだった。

(やれやれ、確かにあれでは魔王というよりお転婆姫様だな)

 部屋を出ていくマスターとルナルの後ろ姿を見ながら、智将はそんな事を思っていたのだった。

 それにしても、現役の魔王であるルナルをここまで変貌させてしまうとは、お酒というものはやっぱり恐ろしいもののようである。

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