第53話 シグムス城の地下4・対スライム戦
ミレルから放たれたファイアーボールがスライムたちを焼いていく。ところが、スライムの数が多すぎるために思ったほど焼き払う事ができなかった。
「くっ、思った以上に数が居て、さすがに無理のようですね」
ミレルはルルの方を見るが、ルルはまだ集中している状態だった。おそらくルルが放とうとしている魔法は上級魔法。その使用条件が厳しいがために、手間取っているのだろう。
状況を確認したミレルは、スライムに対して応戦する事にする。
ミレルの事を敵と認識したスライムたちが、群れを成して襲い掛かってくる。手足にまとわせた炎に格闘術と、無詠唱で放つファイアーボールでミレルはスライムを撃退していく。
「くそっ、俺だけ見ているとかやってられねえ!」
幸いな事にルルに襲い掛かるスライムは居ないようだが、そのためにセインが周囲を警戒するだけで暇を持て余していた。そのため、援護しようとして周囲のスライムに斬破を放つ。
「なっ、スライムに物理攻撃は無駄ですと言ったはずでしょう?!」
セインの行動に気が付いたミレルが叫ぶ。だが、すでにセインが斬破を放った後だった。その時にはすでに、セインの斬破が弾かれる事なく数体のスライムを斬り裂いていた。
スライムが増えてしまうと覚悟したミレルだったが、斬り裂かれたスライムたちの様子がおかしかった。普通ならば斬られると分裂して行動を開始するはずのスライムが、その場でぷるぷると震えるだけで動きを止めてしまっていた。どういう事かとじっくりと見ると、スライムは斬り裂かれた部分からさらさらと崩れ始めていたのだった。
これにはさすがのミレルも驚いた。だが、ミレルはとある結論にたどり着く。ルナルやサキから聞いていた話を思い出したのだ。
(なるほど、あれが聞いていた破邪の剣ですか。それでしたら、斬られたスライムが分裂しないで行動できなくなるのも頷けますね)
そう、セインが持つ破邪の剣についての話だった。むき身になった状態の破邪の剣は、魔族や魔物の力を抑えてしまうのである。その剣から放たれた衝撃波なら、魔物を倒してしまっても不思議ではなかったのである。
「セインくん。君たちの周辺に居るスライムについてはお任せしました。その剣の力なら、スライムを分裂させずに倒せます。ルルちゃんの援護をしっかりして下さい」
「ちょっと待て、物理はダメじゃなかったのか?」
さっき斬破を放っておきながら、今さらながらにセインが言う。
「君の持つ剣、破邪の剣の力なら私の魔法拳と同じよう倒す事が可能です。現にさっき斬られたスライムは、もう形が保てなくなってますからね」
「分かった。おい、がきんちょ、なるべく早く頼むぞ!」
「頑張ってますけれど、ここのマナが乱れていてもう少し時間が掛かります。あと、私の名前はルルですからね、いい加減に覚えて下さい!」
セインがルルに言うと、ルルが膨れながら文句を言っている。だが、そうこうしている状態ではないので、ルルはすぐに魔法の準備にかかった。
ルルが準備を整える中、セインは剣でスライムを斬り裂き、ミレルは炎の魔法を駆使してスライムを倒していく。だが、
「さすがに……数が多すぎますね」
無詠唱魔法を駆使しているミレルに、疲労の色が見え始めた。その時だった。
「よし!」
ルルの足元に炎の魔法陣が展開される。
「炎の魔法は少し苦手な上にここのマナがちょっと乱れてるので、ちょっとチャージに時間が掛かっちゃいました。いつでも放てます」
宿り木の杖を持ってむんと気合いを入れたルルは、すぐさま魔法の詠唱に入ろうとする。だが、その時天井に回り込んでいたスライムが、ルル目がけて降り注ごうとしていた。
「危ねえ!」
セインがそのスライムに気が付くが、ルルの頭上に到達しようとしたそのスライムは、ルルの頭上で燃やし尽くされてしまった。
「ギャアアッ!」
スライムは断末魔と共に消滅する。
よく見ると、ルルの足元の魔法陣からルルを包み込むように結界なようなものまで展開させていた。その結界も魔法陣と同じ炎の属性を持っていたがために、スライムは焼き尽くされてしまったのである。
「大きいのいっきまーす! ミレルさん、私の近くまで下がって下さい」
「分かりました」
ルルが大声で呼びかけると、ミレルはそれに反応してセインと一緒にルルの近くまで下がってくる。二人は結界を通り抜け、ルルの隣に来た事が確認できると、ルルは詠唱を開始する。
「灼熱の炎よ! その業火で我らの行く手を阻む者たちを焼き尽くせ!」
ルルの詠唱に反応して、魔法陣から結界を包み込むように大量の炎が巻き上がる。そして、頭上に炎が集まったところで、ルルは思いっきり魔法を叫んだ。
「サンシャイン!」
その叫び声に反応して、炎の玉が一気に弾けて熱線が放たれる。無数の筋状の炎が広がり、その炎がスライムたちを飲み込んで焼き尽くしていく。スライムたちは断末魔を上げる事も出来ず、ただただ蒸発する音だけを響かせて果てていった。
やがてその炎が収まると、景色は元のがれきの散乱した部屋に戻っていく。そして、落ち着いたところでミレルがサーチを使うと、魔物の気配は一切感知できなくなっていた。どうやらすべて倒す事ができたらしい。
「……凄まじい魔法ですね。どうやら魔物はすべて焼き払えたようですので、それだけの魔法を使えるというのはお見事だと思います」
「えへへ」
ミレルに褒められて、ルルはものすごく照れている。
「ですが、発動までに時間が掛かったのは、改善の余地がありますね。ここは修練をして改善していきましょう」
「はーい、頑張ります」
ダメ出しにはちょっと気の落ち込むルルだったが、頭を撫でてもらうと嬉しそうにしていた。
ミレルの魔力が底を尽きかけたので、その場で少し休憩を取る三人。そして、再び書庫へと向けて出発をするのだった。




